13
「リージュ」
「ななななんなんだぁぁ!?」
めちゃくちゃ挙動不審だった。ここ数日、三人がどことなく挙動不審だと思い、嘘が苦手なリージュに声をかけたら完全に挙動不審だった。
まず挙動不審であることを否定されるだろうから、挙動不審な言動をまとめて伝えて説得して、挙動不審なのを認めさせてから、改めて挙動不審の理由について聞き出そうと思ってたのにあからさまに挙動不審だった。挙動不審という言葉が、あれ、これってこんな漢字だっけ?となるくらいの挙動不審っぷりだった。
「落ち着けよ、リージュ。ただ声をかけただけだろ」
「あ、ああぁ、そ、そうだな。うん、いやいや、別にあたしは慌ててないぞ。うん。だってあたしは何もタカオに隠し事なんてしてないからな」
「……うん、そうだな」
なんか、申し訳なくなった。ここまであからさまだと可哀想にすらなる。リージュを問いつめるのは簡単だ。でも意地になったらとことん、暴力にうったえてでも口を割らないだろうし、リージュから聞き出すのは諦めることにした。
「おいシュシュ」
「何ですか?」
「お前ら、最近俺になんか隠し事してないか?」
「してませんよ?」
物凄く自然に、なんのことだろうという顔で首を傾げてるから一瞬、あ、勘違いか、と言いそうになるけどそんなわけない。リージュの態度から秘密があることにはもう裏がとれている。
「嘘をつけ、昨日だっー」
「何を根拠に嘘なんて言ってるんですか? 酷いですわ。私は今まで文句の一つも言わずに、右も左もわからないタカオさんを支えてきたのに、そんな言いがかりをつけられるなんて。疑われると言うことは、私の今までの行動が信頼に値しないと言うことでしょう? なにが悪かったのですか? 私はタカオさんを心から信頼しています。なのに、タカオさんはまだ私を認めてくれてなかったんですね。すごく、ショックです。タカオさん、私はどうすればいいんですか? どうすればあなたに信じてもらえるんですか? 私、あなたに信じてもらうためならなんでもします。だから、私を少しずつでいいから信じてください」
「……あぁ、うん、えっと、信じます」
「ああ、よかったぁ。ではさっきの私を疑って、嘘だなんて言ったのはたんなる冗談だったんですね。だと思いました。ぶっきらぼうでも心優しいタカオさんのことですから、もちろん私のことも信じてくれていると、私は信じていました」
「……うん」
こいつはやばい。なんか知らんけどやばい。そんな言い方されたら聞けないし。口はさめないように絶妙に聞き取れるレベルの早口で、そのわりに回りによく聞こえる滑舌のよさと音量で、通りがかりの人間まで味方につけてる。
こいつから聞き出すのは無理だ。
仕方ない。最後の一人、斉藤に聞くことにした。
「斉藤、最近お前ら俺に隠し事してるだろ」
「してるよ?」
「なにを隠してるんだ?」
「隠し事なんだから、話さないよ? 内緒なの」
「な、なんでだよ」
「大丈夫。すごくいいことだから。高雄君はどーんと大船にのったつもりで、待っててよ。ね?」
「あ…ああ。わかった」
あっさりと頷いた斉藤だが、隠してるのを認めた上で内緒とか言われたら、逆に追求できない。
ぐぬぬぬ。もー! なんなんだよ。やっと世界中回って、世界を平和にできて、あとはアグレスに報告して、ザウルさんのとこ行ってのんびりしようするはずなのに、なんで今になってなんか企んでるんだ!?
もしかして、俺をほっぽりだす、訳ないよな。斉藤もいいことって言ってるし。うーん、でもうーん。気になる。俺の誕生日はもう過ぎたし、なんだ?
○
「勇者様、こちらでお待ちください」
「勇者様、こちらのお召し物に」
「勇者様」
城に戻って報告し、ザウルさんのところと固定式転移魔法陣を繋ぎ、そのほかちょっとしたごたごたを片付け、来週にはザウルさんのとこに移住できるな、というある日。
何故か城のメイドたちに誘導され、あれよあれよというまに正装で待機させられた。なんだこれ。またパーティーか?
「お待たせいたしました。こちらへ」
やっと移動だ。あの三人の顔も朝食きり見てない。朝を食べてからずっと待たされているので、いい加減腹もへった。とりあえず三人と合流させてくれるらしい。
「なぁ、今日のパーティーは誰がくるんだ?」
「そうですね。本日は各国の重鎮、ではなくみなさん勇者様のお知り合いかと思われます」
「は? んー? いや、重鎮とやらもだいたい知り合いだし」
なんだ? もしかして身内でおめでとうパーティーするのか? この間のは大変だったし、それなら改めてやってもいいか。
「どうぞ、中へ」
「ああ」
促されるまま、部屋に入る。後ろでドアが閉まる。部屋の真ん中には三人が揃っていた。
三人ともドレスをきていて、すごく似合うし、すごく綺麗だけど、ちょっと、ちょっと待ってほしい。え? なんで、ウエディングドレス着てんの?
「ねぇ、似合う、かな?」
「す、すげー、似合う。斉藤すごく綺麗だよ。二人も、すごい、綺麗だ」
「ついでみたいに言うなよ」
「そうですよ、明らかに差をつけないでください」
「つけてないって。三人とも似合ってるし、すげー魅力的な美人です。これでいい?」
「よし、勘弁してやる」
「って、あの、そうじゃなくて、なんでみんな、そんなドレス着てんの?」
「えー、似合うって言ってくれたのに」
「いやもちろん最高に似合ってますけどね!? 斉藤さん、状況説明を求む!」
「うんとね、私たち、結婚しようかと思って」
「……え、だ、誰と?」
「やだ。そんな、私の恋人は、高雄君しかいないじゃない」
「だ、だよな」
「私と結婚するの…イヤ?」
「いや! いやいやイヤなわけないだろ! でも俺、まだ、プロポーズしてないし」
「だからね、私がするの。ねぇ、高雄君、結婚しようよ」
な、なんてこった。斉藤にプロポーズされてしまうとは。やっべ。ちょう胸がドキドキするんですけど。
お、落ち着け俺。とりあえず、とりあえず返事は当然イエスとして、一つ念のために確認する事があるよな。
「おう! ってここでお前のこと抱きしめたいけどその前にちょっと質問したいんだけどいいか?」
「えー、ここ感動の場面じゃないの?」
「ちょっとだけ待ってな? 後でキスしてやるから」
「仕方ないなぁ」
「ありがとう、斉藤。それでさっき、私たち結婚するって言ったけどさ」
「うん、言ったね」
「こ、この二人も?」
「もちろん」
二人を見る。はにかんだような顔で少し照れているのか顔を赤くしている、今まで見たことない表情だ。年上だけど、凄く可愛いと思う。
でもちょっと待てよ。え、俺らずっと一緒に旅してたじゃん? いつの間にお前ら恋人つくってたの? これから一緒にのんびりしようと思ってたのにいきなり? これからその男のとこ行くの? それともまさかそいつらもザウルさんの家に連れて行くの?
え、そしたら俺が結婚したら斉藤と毎日キスしたいと思うみたいに、こいつらもその俺が知らん男とキスして、それ見せられるわけ? ………め、めちゃくちゃ嫌なんだけど。ていうか、ほんとに、どこのどいつだよ。二人が知らない男とくっつくとかマジ有り得ないし、ちょっとせめて俺より強い男じゃないと任せられないぞ!?
「ど、どこのどいつと結婚するんだよ!? ちょっとそいつら連れてこい!」
「タカオさん、常識的に考えてくださいよ」
「何が常識だよ! ていうか結婚するまで俺が全くその男たちのこと知らないとかどういうことだよ!?」
「タカオ、お前だよ」
「は!? なにがだよ!?」
「だから、あたしらが結婚する相手は、お前だ」
「………は?」
○