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「妻は賑やかなのが好きでね。雪がやむまで、好きなだけいるといい」


 ザウルさんは以前、凄腕の魔法使いだったらしい。だけど奥さんが体調を崩したのを機に、薬の材料である雪花が咲くここに家をたてた。住めるように結界魔法をつかい、限定的ながら雪にかこまれた春の世界をつくりだした。

 奥さんが好きだというたくさんの花々が咲き誇る。大きな屋敷と沢山の花壇に木々に温室、大きな池や田畑もある。時間をかけて完全な自給自足の完全な魔法によるオートマチックシステムをつくりだしている。

 これは驚くべきことだ。ここだけ魔法の技術が10年以上、何なら100年くらい進んでいる。生活に特化した研究はあまりされていないこともあるが、それにしてもザウルさんはすごい。奥さんのためだけに、そこまでできるのだから。


 その奥さんは30年前に死んでしまった。それでも同じ病にかかった他の人に比べればかなり長いほうだ。それからずっとザウルさんは奥さんが好きだと言ったこの楽園を守ってきたらしい。

 80才くらいだろう。ザウルさんは長生きなほうだ。ここの環境だろう。天候は穏やかで、池でいきる魚や飼育されている鶏、野菜が豊富で、花々は美しい。楽園と聞いて思い浮かんだ景色そのままだ。


 1日お世話になって、体力も回復して位置も改めてわかったけど、ザウルさんの好意に甘えて数日滞在することにした。


「わぁ、はー、改めて、すごいね。綺麗。ほんとに、夢みたいに綺麗だね」

「ああ、そうだな。お姫様がいそうな花園。すごい、憧れるなぁ」

「リージュってたまにすごい乙女なこというよな」

「うっさい」

「でも本当にすごいですよ。自動的に野菜を収穫して栽培して、家畜の餌やりと掃除まで一連の流れになっています。例えザウルさんがいなくなっても、この楽園は永遠に続きます」

「永遠は無理だろ。ザウルさんが魔力いれなきゃ」

「いえ、半永久的です。ここは魔力だまりがあります。そこから魔力が供給されてました」

「魔力だまりって、この前二人が落ちた穴だよね? ならここも精霊の国になるの?」

「いえ、魔力の吹き出し口である魔力だまりじたいはわりとあちこちの山奥であります。ただそれが固まってあることが珍しくて、数が多くて魔力の量が多すぎると精霊の国になるんです。ここでは魔力を使い続けてますし、精霊の国になる可能性は低いです」

「なーんだ、良かった。ここが精霊の国になって、なくなったら嫌だもの」

「ほんとすげぇよなぁ。つい花に目がいっちゃうけどさ、野菜自動でつくれるとかマジですごくね? なぁリージュ、これって他の場所ではできないの?」

「そうだよな。これがよそでもできたら、飢餓とか改善されるよな。俺らが旅のついでに広めたりできねーの?」

「もちろん考えましたけど、殆ど不可能ですね」

「なんでだ? 難しいのか?」

「それもあります。独自の理論ですし。魔力消費が激しいので人力ではそもそも起動しません。魔力だまりの近くに人は少ないですし。それにこれが広まれば今まで田畑で生活の糧を得ていた人から職を奪うことになります。飢餓といっても、人のかわりにつくるというだけですぐに食料として用意できるわけではありません。長期的にはプラスにはなる可能性が高いですが、すぐに広めるのは難しいですね」

「うーん、難しいなぁ。でも、もったいないよな」

「はい。それはザウルさんもそのように仰られてますし、魔法自体は無償で全ての知識を譲渡していただけることになりました」

「いつの間に」

「報告がてらの帰国でしたが、思わぬお土産ができましたね」

「そう、だな」


 俺はあんまり頭がよくないし、シュシュがわからないなら思いつかないだろう。国に持って行って、賢い人みんなで考えたら、何かいい方法が見つかるはずだ。

 そう考えたら、俺たちは馬鹿でよかった。馬鹿なことに山を突っ切ろうとしたから、こうしてザウルさんに会えたんだから。









「ザウルさん、手伝いますよ」


 声をかけるとザウルは穏やかな笑みを絶やさないまま、だけど断固として首を縦にはふらなかった。


「気持ちだけもらっておくよ。彼女が最も愛していた花だけは、自分の手で世話をすると決めているから」

「でも、お世話になってますし。何かやらせてください」

「君らが家事をしてくれて、助かっているよ」

「それはあいつらがやってることです。俺は何もしてません」

「そうだねぇ。じゃあ、家の補修、とかかな。雨はふるからね。雨漏りをしてる箇所を頼もうか」

「了解です」

「タカオ君は真面目だねぇ」


 ザウルさんと過ごす日々は穏やかで、俺たちにはつかの間の休暇みたいなものだ。環境はもちろん、何よりザウルさんの存在が、俺を穏やかな気持ちにさせる。まるで祖父のような、そんな気持ちになる。


「では、旅が終わったら、また立ち寄るといい。老い先短い人生だが、少しくらいは持つだろう」


 結界の外の雪がやみ、明日出発をすると夕食の席で告げると、ザウルさんはそう言った。

 別にザウルさんは病気でも何でもないけど、年齢が年齢なので、そんな冗談を言われると悲しくなる。


「そんなこと言わないでください。ザウルさんがいなくなったら、この庭園はどうなるんですか?」


 全てがオートメーションなこの楽園で、だけど楽園の象徴とも言える花々の世話は大部分がザウルさんの手によるものだ。温室と木々を除いた花々はザウルさんがいなければ枯れてしまう。この辺りにはない貴重な花も多くある。


「そうだね。確かに少し、もったいないとは思うよ。ここまで妻と頑張ってきたんだ。タカオ君も、もったいないと思ってくれるかい?」

「もちろんです」

「じゃあ、あげるよ」

「え?」

「どうせ他に受け継いでくれる人はいない。どころか、ここを知ってる人ももういない。私が死んだら、君たちにもらってほしい」


 このタイミングで来てくれたこと、みんないい子なこと、これはね、ある意味運命だと思うんだ。

 ザウルさんはそう言った。


 俺たちはザウルさんと再会を約束して別れた。


「ねぇ、高雄君。旅が終わったらさ、あそこで、ザウルさんと、暮らさない?」

「ああ。俺もそう思ってた。二人はどうだ?」

「そうですね。移動魔法陣をしけば行き来もしやすいですし、あの環境にくわえ、魔法に関する蔵書や実験室も立派ですし。私はかまいませんよ」

「あたしもいいけど、でも移動するのにいちいち他のやつの付き添いがいるのはなぁ」

「あれ、魔力だまりからひくから魔力いらないんじゃないの?」

「あ、そうか。それなら街にもすぐ行けるし、うん、あたしも賛成だ」

「そうか、よかった。お前らも同じ気持ちで。やっぱり住むなら四人一緒がいいよな」

「はい、ところでタカオさん」

「ん? なんだ?」

「四人で住みたいってことは、それ、プロポーズですか?」

「はっ、ち、ちげぇよ!」


 なに言ってんだよ! え、ていうか、あ、そ、そうなるのか? 一緒に住もうって、確かに、うーん。でも生活自体はすでにずっと一緒だし。今更ような。うん、やっぱり今のはプロポーズじゃない。だって、もっとちゃんとした気持ちでいいたいもんな。












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