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「お兄さんたちを案内してあげるよ」


 ヒーロがそう自分から立候補した。外に興味があるというヒーロは、ここ、エルフの隠れ里の王様の一粒種でありながら気さくで、森に迷い込んだ俺たちをここまで連れてきてくれたのだ。

 もっともそのお陰で来るつもりのなかったエルフの集落にきて、好奇と敵意の目を向けられてるわけだが。着た以上結界はらずにスルーするわけにもいかないし。


 結んだ長い髪の毛の先を尻尾みたいに振り回しながら、小柄なヒーロはずんずんと先を行ったり、ふいに戻っては俺にじゃれついたりしながら、深い森の中にあるいくつかの集落を案内してくれた。

 ヒーロのおかげでエルフの王の許可ももらっているので、すんなりと結界ははらしてもらってるが、あのうざい視線はどうにかならんものか。


「疲れたでしょ。しばらく泊まってのんびりしていきなよ。ねぇ、タカオ。タカオは外の勇者様なんでしょ? 話を聞かせて!」


 ものすごいまとわりつかれたが、大の大人ならともかく子供が相手なので微笑ましい。街の子供はともかく、王族や貴族なんかは大人のような目で見てくることが多い。人間との関わりが薄いだけに、王族でも子供は純粋なんだな。

 請われるまま、ヒーロが疲れて眠くなるまで話をした。話が終わり、予めあてがわれていた部屋に戻ると、なにやら三人がいた。


「おいなにしてんだ? ここは俺の部屋だぞ」

「ずいぶん遅いお帰りですね」

「は? …なんか、打ち合わせとかしてた?」

「そうじゃないけどー、待ってたのに」

「なんだよ、斉藤までそんな顔して。何があったんだ? なんか嫌がらせでもされたか?」


 草でできた敷物に座る三人に近寄り、手近な斉藤の頭を二回叩きながら割り込んで座る。


「んなのされてたら、今頃エルフなんか血祭りだっての」

「すんな。血の気が早すぎる」

「もう、話をそらさないでください。本題にはいりましょう、タカオさん」

「なんだよ」

「タカオさん、やっぱりロリコンですよね?」

「ちげぇし。何真剣な顔で言ってんの。え、ていうか斉藤まで疑ってんの?」


 それはさすがにショックなんだけど。好きだって伝えてから、急激に関係変化したりはしてないけど、たまに二人きりの時は手を繋いだり、たまにキスしてるのに。


「だ、だって……まだ、キスしかしてくれてないし」

「ばっ…な、なに言ってんだよ!」

「なに慌ててんだよ」

「そうですよ」

「え、てかなんでお前らは普通なわけ?」

「え? 知ってますし。二人が付き合ってるとか見てたらバレバレですよ」

「てゆーか、直接聞いてるし」

「うん。二人にも色々、相談とかものってもらってるよ」

「この二人に相談ん? シュシュはともかく、リージュに恋愛相談とかほんきで?」

「おい。お前ぶん殴るぞこら」


 リージュが伸ばしてくる手を掴んでやめさせつつもため息をつく。隠してるつもりだったのにバレバレで、しかも斉藤がばらしてるとかなにそれ。そりゃいつかは言おうと思ってたけど、恥ずかしすぎる。斉藤とキスしてるのが知られてるとか、猛烈に恥ずかしい。


「なーに恥ずかしがってんだよ、ロリコンのくせに」

「いや、だから違う」

「でもまだ童貞なんですよね?」

「ちょっとお前黙れよ。あのなぁ、その、斉藤」

「なに?」

「俺が、その、まだそこまでしてないのは、付き合ってまだ日も浅いし、だいたいそうそう二人きりじゃねーし」

「もう4ヶ月だよ? それは、そんなにチャンスはないけど……でも、あったじゃない。高雄君のことずっとずっと大好きで、ずっと待ってたの。付き合ったあの日からずっと、すぐにだってそういう関係になりたかったよ」

「斉藤……だからって、ロリコンの疑いはないだろ」

「だ、だってぇ」

「あのな、単に俺がお前のこと大切にしたいだけだよ。ロリコンじゃないし、お前のこと、その……と、とにかく、同年代か上が好みだから。ロリコンとかあり得ないから」

「ほんとかよ」

「本当だとして、ヘタレすぎですねぇ」

「外野は黙ってろ。ていうかお前ら空気読んで出ていけよ」

「え、今からいたすのか? さすがにここではどうかと思うぞ」

「しねーよ!」


 王族の客間でとか無理すぎだろ。ていうかバレたらどうなんの。ただでさえ微妙な扱いなのに。


「わかった。高雄君を信じる」

「斉藤、わかってくれたか」

「うん。だから…ね?」

「うん?」

「もう、鈍いなぁ。次に、落ち着いたら……私のこと、大人にしてね」

「お、おお」


 お前斉藤可愛すぎだろ。なに言ってくれてんだよ。次とか、次どこの街だよ。そんな風に予告してやることじゃねぇだろ。そりゃ俺も何だかんだで楽しみだけど。ってやばい。考えるな俺。落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け。


「なにを想像して興奮してるんですか、いやらしい」

「う、うるせー」


 前屈みになって隠してんだか、いちいちつっこんでんじゃねーよ! お前はやかましい母親か!


「と、とにかく、今日は解散だ。さっさと部屋に戻れよっ」









「タカオ、ほんとにもう言っちゃうの? もうちょっとくらい、もう10年くらいいてよ」

「ごめんな。まだ旅の途中だから、そういうわけにもいかないんだ」


 ていうか10年とか長すぎ。自分らが長寿だからって、人間の寿命忘れてるだろ。まぁ、実際俺の方が長いんだけど。


「じゃあ、旅が終わったら……今度は、僕が外にでるから、一緒に、旅をしようよ」

「そうだな、ヒーロが大人になったらな」

「うん! 約束だよ!」


 ヒーロに惜しまれつつエルフの里を後にした。大人になるまで50年くらいかかるだろうし、その頃には俺のこと忘れてるだろ。もし覚えてたなら、その時はそうだな。全部終わってのんびりしてるんだろうし、本当に少しくらいならまた旅をするのもいい頃だろう。


「ねぇ、高雄君」

「なんだよ」


 里を離れてしばらく、珍しく三人とも静かだった。なんだかみんな表情も堅いので、話しかけるのもはばかられて無言ですすむ。離れて離れて、次の目的地に近いくらいになってようやく、斉藤が口を開いた。


「やっぱり高雄君、ロリコンなんじゃない? ううん、いいの、怒ってるんじゃないの。高雄君がそういう特殊性癖だとしても、その上で私のこと大切にしてくれてるのはわかってるから」

「いや、なんでだよ。違うって言っただろ」

「嘘つくなよ、タカオ。いい加減往生際が悪いぞ」

「そうです。ロリコンを隠すための隠れ蓑として恋人になるなんて、最低です」

「なんでそうなる!?」

「しらばっくれんなよ!」

「あんなにヒーロさんと仲良くしていて、まだごまかせると思ってるんですか!?」

「はぁ? ………わかった」

「観念して、話す気になったか?」

「いや、お前らが勘違いしてるのがわかった。ヒーロは男だぞ」

「……」

「……え」

「……そ、そんなことは知ってましたよ! タカオさんはホモです!」

「誰がだ! いい加減にしろ!」


 誤解がとれるころには、次の目的地は目前だった。なんで子供と仲良くしたくらいでそんな言われなきゃならないんだ。確かにヒーロは100年以上だから年上っちゃ年上だが、見た目は中学生にあがらないくらいなのに。










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