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後編

「おはよう、ヴェイル」

 リノンが来て数日経った。しかも、彼女はヴェイルの工房に泊まり込み、その上、ベッドを一緒に使う始末。ヴェイルとて、健全な男なのだから、嬉しくはあるものの、

「服、着てくれよ」

 そう、彼女は一糸まとわぬ姿で同じベッドに潜り込んでくるのだ。当然、朝起きた時にはそんな状態の彼女を目にするものだから、ヴェイルもいつ理性がなくなるかわかったものではなかった。

「そろそろね」

 何が、とは聞かなくてもわかった。武道大会のことだろう。確かに、開催まで残り数日を切っている。

 ここまで開催を急ぐ理由は特になかったのだが、むしろ、大都市から呼んだ人々の都合によりここまで早まることになったのだ。というのも、この少し後になると、都市では首長の多いん場を祝う催しが執り行われるらしい。それまでにこちらのある意味些細な催しを済ませてしまいたい、ということだった。

「しかし、本当に出場するのか?」

 念を押すように問うと、リノンはあっけらかんとした態度で、

「するわよ。それに、アンタが審判を務めるなら、安心じゃない」

「……善処する」

 彼女の言うとおり、大会の審判役としてヴェイルが立つことになった。理由として、キリエスは運営に忙しいのと、ソラスは周辺の警備を任されていて、前日までで仕事のなくなってしまうヴェイルの有効利用策として審判の役が割り振られたのだ。それ以外にも理由はあるが、ここでは割愛する。

「そろそろ行く」

「そ。いってらっしゃい」

 シーツで胸元を隠しながら、ひらひらと手を振る。ヴェイルもそれに手を振り返しながら、部屋を出て行った。

 向かったのは大会出場者が事前登録を済ますための受付だ。そこには屈強な男たちが揃い、むさ苦しいことこの上ない。

「よう」

 受付業務に勤しんでいるキリエスに声かけると、じろりと睨まれた。

「挨拶はいいから、この人たちを整列させてくれ」

 確かに、受付をしに集まった連中は無秩序にたむろし、列もないもあったものではない。当然、どいつもこいつも早く受付を済ませたいわけで、

「おい、テメェ。今横入りしやがっただろ!」

「んだよ? 中途半端な位置にいるのが悪いんだろ!」

 と、あちこちでもめ事が起こり始めていた。頭が痛い。

 ヴェイルはどうしたものかと一度考え込み、そして、

“――炎よ、空に爆ぜよ”

 手のひらを上に、腕に象嵌された石に魔素を通す。魔法陣が展開され、その効果を即座に表わす。すなわち、爆破。

 頭上で突如起こった爆音と焦熱にその場にいた全員が注目し、静寂が訪れる。そんなさなか、ヴェイルは両の手を強くたたき合わせて破裂音にも似た音を発することで、注目を集め、

「諸君! 俺は今回の大会で審判役を務めることになっている。一つ、重要なことをお前らに言っておく」

 見回して反応を確かめる。みな、きちんと言葉を聞いているようだ。

「すでに試合は始まっていると心得よ! もし、この場で俺の言うことを聞かないやつが現れた場合、即刻大会出場停止、なおかつ、大会への妨害行為とみなし、拘束させてもらう! よいか!?」

 言葉を終え、再度見回すと、困惑の声が大きいのがわかる。

「つまり、大人しくしてろって言いてぇわけだな?」

 近くにいた一際図体のでかい男がそう質問を投げかけてきた。

「その通り。そして、皆には円滑な登録を済ませてもらうため、整列をしてもらう。並ぶための線はこれから俺が引くから、それに従ってもらいたい。その際、順序は多少前後するかもしれないが、協力してくれればそう時間はかからないだろう。もし、整列に不満を持つ者がいたら」

 手を前へ差し向け、

「火傷ぐらいは覚悟してもらう」

 脅しだ。しかし、彼らがいかに屈強であっても、望まぬ怪我を負いたいわけでもない。男たちは神妙な顔で頷き、ヴェイルが魔法を使ってわずかに隆起させた地面の線に沿って並び始めた。

 ヴェイルは念のためと、周囲の土を集め、組成を組み替えて金属製の槌を作って肩に担った。それを見て、若干青ざめた人物がいたのは余談だ。

 ヴェイルが睨みを利かせる中、受付は円滑に進み、言葉通りそれほど待たせることもなかった。一通り人が捌けたタイミングを見計らって、キリエスが声をかけてくる。

「感謝はする。が、少しやりすぎでは?」

「そうか? あのくらい力を見せなきゃ、舐められるだけだろ」

「そういうものか? 僕はあまり武の力を過信してないからよくはわからないが……」

 首をかしげながらも、納得はしてくれたらしい。頬杖を突き、遠くを眺める。

「しかし、ことが早くに進みすぎて、少々不安にもなるな……これで本当に町を助けることになるのだろうか?」

「心配しても仕方ねぇだろ。それこそ、いまさらなしになんてできないんだからな」

「そう、だな……まあ、失敗したときのことを考えて、腹をくくっとこう」

 言葉はやや後ろ向きだったが、浮かべた笑みは朗らかだった。

「じゃあ、俺はほかも見てくる。ソラスだけじゃ手が回らないこともあるだろうからな。それと、これは一応置いとくぜ。見た目ごついが、案外軽いから」

「わかった。気を付けてな」

 互いに拳をぶつけ合い、ヴェイルは活気のある町中へと歩を進めた。

 そして、ヴェイルはソラスが困惑した表情で立ち尽くしているのを見つけた。

 ソラスの役目は町の警備。人が多く、なおかつお祭りに浮かれ騒ぐ人がいれば、当然、その中で甘い蜜を吸おうとする人間もいるわけで。ひったくりや詐欺、喧嘩の仲裁など、多岐にわかる仕事だが、

「痴話喧嘩、ね……」

 ソラスから話を聞いたヴェイルは呆れ顔でつぶやく。そればかりは、腕に物を言わせることもできず、ソラスは困り果てていたらしい。

 聞けば、男のほうが昨日女を置いて一人で出かけてしまったのが原因らしい。実に他愛もないものだが、放っておくには彼らの空気は剣呑だ。

「任せておけ」

 ヴェイルはそう請け負い、ソラスをよそに行かせる。適材適所。ソラスを引き留めておくのは人材の無駄遣いだ。

 ヴェイルは一度工房へと戻り、あるものを取ってから現場に急行。そして、さりげない振りで近づき、男の肩を叩く。

「お客様、ここにおいででしたか」

「へ?」

 当然、男は急な出来事に驚き、ヴェイルの顔を凝視した。女は突如現れたヴェイルに不信感丸出しの視線をぶつけてくる。

「注文の品をお届けに参りました。頼まれた物と少々異なるかもしれませんが、お客様の用途でしたら、こちらのほうがよろしいかと思いまして」

 そう言って差し出すのは箱に収まったサイズ違いの腕輪が二つ。男は目を丸くした。

「お代はすでにいただいている分で十分ですので、こちらをお受け取りくだされば、納品も完了となります」

「ちょっと」

 女は堅い声でヴェイルの注意を引く。

「突然出てきてなんなの? あたしはその人と話していたんだけど」

「失礼いたしました、お嬢様」

 ヴェイルは丁重に一礼し、

「私はこのエリーテにて一工房を預かる大三級工匠のヴェイルと申します。昨日、こちらの男性から依頼を頂き、今日は出来上がった品をお届けに参った次第でございます。ですよね?」

 笑みで男に振ると、彼は壊れた人形のようにかくかくした動きで首を縦に振る。どうやら、こちらの意図に気づいてくれたらしい。

「昨日? どこに行ったのか、口を割ってくれなかったけど、工房に行ってたわけ? それなら、どうして言ってくれなかったの?」

 女の問いももっともだ。しかし、ヴェイルはこの当然の質問に淀みなく答える。男に任せるとぼろが出る可能性もあるからだが。

「実は、内密にという依頼でしたのですが……」

 ちらりと男性の顔を見る。

「私が受け取りの日時を聞き忘れてしまいまして。さきほど仕上がったので、早急に渡したほうがいいと思い、町の中を探していたのですよ。そうしましたら、何やら喧嘩なされているご様子。もしかしたら、私への依頼が原因かと愚考いたしまして、その誤解を解こうとした次第でございます」

「そうなんだ。君に秘密のプレゼントを用意しようとしたんだ。僕も慌ててたから、連絡先とか言い忘れていてね。でも、ヴェイルさん、ありがとうございます」

 箱を受け取り、深く頭を下げる。

「当初、お客様はお嬢様の腕輪をご所望でした。ですが、どうせなら、仲のいいお二人がそろって身に付けられたほうがいいと思いまして、揃いの意匠で作らせていただきました」

 男が小さいほうの腕輪を持ち、女に差し出す。女は黙ってそれを受け取り、しげしげと眺めた。

「キレイ……」

 感嘆の溜息。腕輪には花を象った意匠がなされており、

「その花の花言葉は“永続する愛”です」

 笑みとともに告げた言葉に、女は目を見開き、そして相好を崩した。男に向かって優しい微笑みを向け、

「ありがとう」

 そう、心のこもった言葉をつむぐ。男のほうは多少の罪悪感があるのか、ばつの悪い顔をしながらも、こくこくと頷き、

「僕が好きなのは君だけだから」

 と、聞いていて恥ずかしくなるセリフを言う。

「では、私はこれにて」

 タイミングを見計らい、一礼してから離れる。少し離れたところまで行ったところで、男が追いすがってきた。

「本当にありがとう。実は、昨日は本当に贈り物を探していたんだ。でも、彼女がなにを喜んでくれるのか全然わからなくて、時間ばっかりたっちゃって……でも、理由を言っても贈り物がないんじゃ、説得力なかったから」

「理由はともあれ、お役にたててなにより。ぜひ、この町始まって以来のお祭りを楽しんでいってください」

「はいっ! それと、お代ですが……」

「私に要らぬ気づかいをするなら、その分を恋人に注いでください。では」

 なおも引き留めようとする男に取り合わず、ヴェイルはその場を後にした。


       ◆


 なんだかんだで大会が始まった。トーナメント方式で行われる試合は三日ですべて消化される。

 大会の二日目の夜、ヴェイルたちはいつものごとく工房へと集まっていた。本当は飲み屋に集まる予定だったのだが、大会開催の影響で大混雑。とてもではないがのんびり雑談を交わせるような場所ではなくなっていた。

「あと一日、か……」

 キリエスのしみじみとしたつぶやきにヴェイルは、

「まだ一日ある、というべきだな……マジで死ぬ」

 誰の負担が一番大きい、とは言えない。キリエスは本部詰めで苦情や迷子の処理だし、ソラスも方々で起こる諍いの仲裁で忙殺。ヴェイルは審判役としてほぼすべての試合に出ているのだ。

 だが、もっとも命の危険を感じるのはやはりヴェイルの仕事だろう。武道大会といえども、使われるのは武器だけではない。もっとも危険な攻撃はやはり魔法だ。範囲魔法を使われれば、審判であるヴェイルも巻き込まれる可能性が大きいし、なにより、致命傷を与えることを固く禁じる大会の規則のため、決定打を防ぐために戦いに割って入ることもしばしばだ。そのたびに肝を冷やしている。

「しかし、本当に出場して、しかもここまで勝ち残るとは」

「当然よ」

 ソラスの感心はリノンに向けてのもの。そう、彼女は初戦から圧倒的な魔法の力量を見せつけ、怪我を負うこともなくここまで勝ち進んでいるのだ。ヴェイルも素直に感心し、リノンの顔をまじまじと見つめる。彼女は少し顔を赤らめ、しかし、顔を逸らすようなことはしなかった。

 明日の試合に出たものには記念品が贈答される手筈にはなっているが、やはり優勝するのとそうでないのでは大きく違うため、出場者たちの気合の入りようはすごいものだろう。

 リノンを除く三人は明日のための打ち合わせを行い、そして早々に解散した。

「ねえ」

 明日に備えて早めに就寝するための準備を始めようとしたヴェイルへリノンが声をかけた。

「明日、私が優勝したら、一つお願いを聞いてくれる?」

「無茶なお願いじゃなければな」

「ふふ……どうかしらね。でも、その前に優勝しなきゃいけないわ」

「……勝算は?」

「正直、五分五分じゃないかしら。明日の試合は今日まで勝ち残ってきた猛者ばかり。相性の問題はあるけど、それ以上に地力が違うもの。そう簡単に勝てるとは思ってないわ。でも、負けるつもりもない」

「そうか……俺は審判だからなにもできんが。しかし、がんばれよ」

 そっと頭をなで、続く動きで髪を梳く。リノンは目を細め、そして、ヴェイルの胸に顔をうずめた。

「勝つから」

「ああ」

 真剣な言葉に、ヴェイルは頷くことしかできなかった。


       ◆


 大会三日目、決勝戦。驚くべきことに、リノンは勝ち上がってきた。むろん、二日目までのような圧倒的な力量差で圧倒することはかなわなかったが、危うい勝利もなかった。

 だが、この決勝戦ばかりは勝手が違うだろう。そう、ヴェイルは予測した。この決勝戦は二つのトーナメントの頂上同士がぶつかり合うものだ。しかし、それ以上に勝手が違うと半田した理由は、相手の男も魔法を主体とするということ。つまり、戦闘スタイルはリノンと似通っているということだ。

 ヴェイルはこの戦いが生半可なものでは済まないと覚悟を決め、所定の位置に向かう。

「両者、前へ!」

 腹に力を入れて会場全体に聞こえるように発声する。だが、今まで以上の熱気と歓声にヴェイルの声はかき消された。

「礼!」

 向かい合って一礼する選手たち。視線が鋭く交差し、火花を散らす。

「位置に着け!」

 互いに背を向けて距離を取る二人。そして、彼らが決められた位置まで下がったのを確認すると、ヴェイルは腕を上げる。会場が静まった。

 耳に痛いほどの静寂。高まる闘志と観客たちの興奮。それらが最高潮に達した瞬間、ヴェイルは最後の試合を開始するための合図として、鋭く腕を振り下ろす。

「開始ッ!!」

 途端、焦熱と紫電が爆ぜた。リノンの操る炎と相手の男が操る雷撃が衝突したのだ。ヴェイルは衝撃を魔法でいなし、勝負の行方を見守る。

 勝負は一進一退だった。直線的で大破壊力を誇るリノンの火炎魔法と男の絡み付くような変則軌道を持つ電撃魔法。突破力はリノンのほうが断然優れているが、男のトリッキーな戦い方はリノンを苦しめる。そして、互いに技量が拮抗しすぎて、決定打を打ち込めない。となれば、先に隙を見せたほうが負けとなるのは必至。

 彼らは互いに精神をすり減らしながら、必死の攻防を繰り広げる。だが、もっとも精神的に参ってきたのはヴェイルだった。決定打を打ち込むタイミングを見逃せば、大惨事を招くことになりかねない。それがわかってたからひと時として気を抜けなかった。

 方々へ飛び火する魔法の余波を打ち払いつつ、試合を見守る。

 長い時間、互いに魔法を打ち合った。観客の声はもはや怒号にも近い勢い。しかし、起こっているが故のではなく、単純に興奮しすぎて言葉になっていない感情を吐き出したためのものだ。

 そして、耳を聾せんばかりの爆音のさなか、ついに一方が隙を見せた。そして、その一方とはリノン。彼女は死角から襲いかかってきた雷撃を回避するために鋭いステップで後方へと下がったのだが、足場が悪かった。というよりも、運悪く丸い石が踏み込んだそこにあった。

 男はその隙を逃さなかった。決して長くはない詠唱と魔法陣への魔素供給を素早く終え、右手を前へ。生み出されたのは巨大な雷の槍。それはすぐさま男の手を離れ、リノンへと向けて飛ぶ。リノンも体勢を崩しながらも、必死で対抗魔法を用意しようとしているが、焦りが余計な時間を浪費させる。

 ヴェイルは駆けた。地の系統に分類される重力魔法を加速として用い、加速の惰性で飛ぶ最中に防御魔法を全力展開する。

 爆音と閃光が空間を満たした。耳をつんざく轟音と目を焼く白い光。

 防ぎきれなかった魔法の余波に吹き飛ばされ、ヴェイルは数十メートルの距離を滑空するような勢いで跳ね飛ばされた。

 審判員としての意地を見せ、失神するような失態は免れたが、立ち上がるのには苦労を要した。頭がぐらぐらと揺れ、視界も定まらない。観客の歓声はどこか遠くの出来事のように耳に届く。

 しばらくしてようやくまともになった目で競技場を見回せば、そこは惨憺たる状況だった。地面は深く抉れ、観客席と競技場を隔てる柵は歪み、一部は溶解していた。

 だが、それよりも確認する事項がある。リノンはヴェイルと同じ方向へ吹き飛ばされているはず。そう判断し、すばやくあたりを見回すと、すぐに彼女の姿が見つかった。

 抉れ、吹き飛んだ土を被って汚れてはいるが、目立った外傷はない。そのことに安堵し、男の姿を探す。

 しばらく走り回ってようやく見つけた彼は、魔法の反動で足が地面に食い込み、そして、最後の衝撃の影響でか失神し、後ろにのけぞってすさまじい体勢になっていた。

 人を呼んで彼を助け出すと、ヴェイルは再びリノンのもとへと向かった。彼女もすでに助け起こされ、意識も取り戻していた。

「負けた……わね」

 そう彼女はつぶやき、唇をかんだ。ヴェイルは言葉をかけず、一度息を大きく吸ってから、

「勝敗を発表する! 勝者はキール・ウェーバー! 彼に盛大な拍手を! そして、惜しくも優勝を逃したものの、リノン・マクスウェルにはその健闘をたたえて暖かな拍手を!」

 ヴェイルの口上に、万雷のような拍手が会場いっぱいに響いた。リノンの負けではあったが、大会はこれにて閉幕。あとは三日目の出場者に対して贈答品を送る次第だが、

「どうしようかね……」

 壊滅的な状態の競技場を見て、ヴェイルはため息をついた。


       ◆


 結果として、表彰は競技場の前で行うことになった。優勝者には炎を宿した桜花刀、“緋炎”と大会と並行して行われていた賭博による賞金を。その他三日目出場者には賞金のみを渡した。

 興奮も冷めやらぬ優勝者や観客たちを尻目に、ヴェイルたちは言葉を交わす。

「一応、祭りの一大イベントはこれで終わりだな」

「そうだね。でも、僕たちにはこれから片づけという大仕事が待っているんだ」

「頭が痛いな。それに、これが本当に町の発展につながるのだか、いまさらながら疑問だな」

 ソラスの言葉に答えたのは、ヴェイルやキリエスではなく、見知らぬ男だった。

「あんたら、たしかこの大会の主催者だったよな?」

「ええ、そうですが……あなたは?」

「ああ、すまねぇすまねぇ。オレは新聞記者をやっていてな、ずいぶんと興味深いものをみせてもらったよ」

「だが、武道大会ぐらいなら、都市でも開かれてるだろ?」

「それはそうだがね……しかし、オレがもっとも注目したのはそこじゃなくてだな」

 男は優勝賞品を抱きしめながら応援者にもみくちゃにされている優勝者をみやり、

「ああいうものを作れる技術を持つ者がまだまだこの町にいるってことが重要だと思うんだ。よければ、あれの製作者に会いたいんだがね」

 ヴェイルたちは顔を見合わせた。キリエスは一度咳払いをしてから、

「実は、こいつがその製作者です」

 そう、ヴェイルの背中を叩いた。

「ほう? こりゃずいぶんと若い。階級は?」

「……大三級、だ」

 男はしばし無言になった後、盛大に笑い出した。

「そうかそうか! こりゃ、将来が楽しみだな! オレも記者としてできることはやってやるから、お前ももっともっと精進して、都会の連中を見返してやれ。ここにはこんなすごいもんがあるんだ、ってな!」

「そう、だな……」

 ヴェイルは物思いにふけった。大三級工匠までなったはいいが、この町に限界を感じ、それ以上の位を目指さなかったのだが、

「俺が見返す。ああ、そうだな。やってやるよ」

「そうよ。それでこそ、ワタシの婚約者なんだからっ」

 振り向けば、リノンがいて、彼女はヴェイルの腕に抱きつく。

「来年は絶対優勝して、言うこと聞いてもらうから、覚悟してなさい」

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