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ななみけ  作者: るべの
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第七話:仁の学食

昼休みのチャイムが鳴り響く。


その音を聞きながら仁は右に掛けている弁当に手をかけようとした。



だが、その手は虚しくも空を切る。



そこで今朝、雛が


「ごめん、今日は部活があるから、お弁当作れないね。ごめんね」


と、言って慌しく学校に走っていく情景を思い出した。


どうやら日並祭というもうすぐ行われる彼女の学校特有のイベントで演劇部の発表があるらしいのだ。


そういえば昨日も「絶対、来てね。絶対だからね」と、強く念を押されたの思い出した。


仁にとっては妹の晴れ舞台を見に行かない訳がないのだが、妹は心配らしい。


可愛い妹だ。そんな事をひっそり胸の内に秘めながら、仁は学食に向うべく立ち上がる。



「仁。弁当食うで~」


「あ、俺学食だから」


勢いよく自分の席に向ってきた加藤をさらっとかわし教室の外に出た。



「え、6話ぶりに出てきたのにこれで終わりかいなっ!! 」


と、背後から意味不明な言葉が聞こえたが気にしないことにする。





「やぁやぁ、これは仁君ではないか」



学食に入ってすぐ、やけに眠たそうな声につられて仁は振り返る。


そこには茶色髪を少しカールさせて腰まで垂らした女の子がいた。


「あぁ何だ。八王寺か」


「何だとは何だ、それと私のことは唯と呼べと何度言われれば気が済むのだ」


文字に返すとそれなりに怒っているのだなと分かるが、この声には全く覇気がない。



「そんなこと言ってたっけ? 」


仁は見下ろしてそう言う。


彼女の身長がちょうど仁の胸の辺りにあるので自然とこの体勢になってしまうのだ。


「ふふふ、恥かしがりやさんだな」


ほんの一瞬だけ八王寺が笑う。だが、相変わらずの抑揚のない平淡な口調は変わらない。



「そういうことじゃねえよ」


「雪は呼び捨てにしてるのに」


「そりゃ家族だからな」


「ほほぉ、でも君は昔、雪ねぇと呼んでいたそうじゃないか」


声には相変わらず感情は感じられないが、その顔には確かに不適な笑みが浮かんでいた。


「そりゃ昔の話だろ。一応、アイツは双子の姉だしな普通のことじゃないか」


仁は冷静に彼女の言葉に対処する。こういうのは熱くなると負けだ。



「ふふふ、ここまではね」


そう言って、彼女は唇の右端を大きく吊り上げる。



「どういうことだ? 」


対して仁は動揺を悟られぬように表情一つ変えず聞き返す。



「君はいつも雪に会うたびに、“雪ねぇ大好き”と言っていたそうじゃないか」


「身に覚えがないな」


ズドーン。そんな音が頭の中で響いたような気がした。


雪、帰ったら分かってるんだろうな。そんな事を考えながらも仁は冷静に対処する。



「ふふふ、君、声が震えてるよ」


「そんな戯言を」


「君、そんな汗っかきだっけ? 」


冷静に対処したはずだが、生理現象まではどうやら操れなかったらしい。


頭からボタボタと落ちてくる汗を憎んだ。


仁は潔く負けを認める。



「何が目的だ? 」


「苺パフェってところかな」


そこで彼女には珍しく優しい微笑みを浮かべた。





「それで、雪は元気なのかい? 」


苺パフェを美味しそう(なのか? )に頬張りながら言う彼女に仁は、


「あれ以来会ってないのか? 」


あれ以来とは卒業式が終わってから家に遊びに来て以来ということだ。



「まあな。あのアホ、メールアドレス間違えて教えやがったからな」


「そりゃまあ・・・すまんな」


仁は箸を置いて、片手を出して、ごめんな、のポーズを取る。


「どうして、君が謝る? 」


「そりゃだって、一応は弟のわけだし」


「・・・君も大変だな」


そこで何故か同情の眼差しを送ってくる八王寺。


彼女も雪に振り回されていた一人なので同情してくれたのだろうか。


だが、どっちかというと八王寺が雪を振り回していた印象が凄く残っている仁であった。



「ま、もう慣れたけどね」


そう言いながら唐揚げを口に頬張る。ここの唐揚げは結構美味しいのでお気に入りの品である。



「それで、メールアドレスを君に教えてもらおうと思うのだが」


そう言った後、八王寺はポケットから真っ赤な携帯を取り出す。


「お、分かった。ちょっと待ってろ」


仁も慌てて携帯を取り出す。


それを見た八王寺は少し呆れた様な顔をして素っ頓狂なことを言ってくださる。



「・・・ほんと、君達は仲がいいんだな」


「待てっ何でそんな話になる」


「そのストラップ・・・確か二つ合わせるとハート型ができるやつだろう」


「そ、それがどうしたよ? 」


「私は雪の携帯にその片方を確認済みだ」


そう眠そうにいい終えて、彼女の口角は吊り上る。



「そ、それは偶然だろ」


「じゃあ、その片方はどこにいったのだろうな」


「そ、それは」


「・・・」




「捨てた」




「・・・」



「・・・」



「・・・もっとマシな言い訳はつけないのか」



先程までずっとニヤケていた八王寺の顔が呆れ顔に変わる。口調も平淡ではあるが何処か呆れたような言い草だった。



「だって本当だもの」


「・・・開き直るな」



変な空気が二人の間に流れる。



「まあいいさ。私は雪からそのストラップの意味も聞いている」


「知ってたのかよっ!! 」


「いや、カマかけです」



表情一つ変えず、てへっ、と言ってピースサイン。



「うっ!! 」


「ふふふ、もう言い訳はできんぞ」



「あぁぁーー、もういい。そうだよ。そうですよ」


「まぁそんな怒るな。全部嘘だ」


「どっからだよっ!? 」




「“雪ねぇ大好き”から」



え、嘘ですよね。仁は目を丸くする。



「・・・え? 」


「...カマかけ大成功」



つまり、仁はまんまと八王寺の罠に引っ掛かり、八王寺に恥ずかしい過去を知られたことになる。



「うわぁぁぁぁぁ」


仁はもう何が何だか分からなくなりました。



そんなこんなで仁のメンタルはズタボロです。




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