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ななみけ  作者: るべの
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第三話:今井の初恋

今井は眺めていた。


艶のある黒髪を腰の辺りまで伸ばし、端正な顔をした女神(今井ビジョン)を。


その女神(今井ビジョン)は窓際で彼女の友達である宮岡と何やら楽しそうに会話をしている。


「でさ、また仁に叱られちゃってさぁ~」


「雪...今月に入って何回目なの...それ」


初めに笑いながら話しているほうが女神(今井ビジョン)もとい、雪である。


後者の控えめな印象を受ける話声のほうが宮岡である。


「う~ん、数える気も起こらないや」


「...」


そう言ってまた笑う雪。今井曰く、その笑顔がいいらしい。


「それでいいの...雪は」


「ん? 」


あからさまに、何が?とでも言いたげに首を横に傾ける雪。


「いや、だから...仁君にそろそろ愛想尽かされるんじゃ...」


「んー大丈夫でしょ」


そう言って、また屈託のない笑顔を浮かべる雪。もう一回言うが、今井曰くこれがいいらしい。


「でしょって...」


そう言って、宮岡は小さく溜息を吐き出す。



「まぁ、そんなことよりもさ。奏、私ん家来ない? 」


唐突に話を変える雪。二人の会話ではよく見られる情景であった。


「そんなことよりもって...」


宮岡も再び小さく溜息を吐きはするが、慣れたものですぐ雪の会話についていく。


「何でいきなり... 」


「いやぁ~、それがさぁ私よりゲームが弱い人が家にいないからさぁ、奏ならと思って」


「...」


暫し黙る宮岡。その顔には何やら少し考えている様子が見受けられる。そして、


「...行く」


宮岡は少しいつもより強い口調でそう言った。彼女にも雪にそう言われてプライドが黙っていなかったのだろう。


「よっしゃ、決まりっ!! 」



いつもと同じ会話だった。ここまでは。だが、その日は違った。



「今井も来る? 」


窓際から数えて二番目の列の後ろから二番目、雪の席の右斜め前の席に居座る男に唐突にかけられた言葉。


「えっ!? 何で僕っ!? 」


自分でも何て声を出すんだと思った。反射的に喉から出た声はそれぐらい裏返ったものだった。


おそらく顔は茹蛸の様に赤くなっているのだろうなと思うぐらい体温も急激に上昇していた。



そう今井は雪に恋していた。



「だって、ゲーム下手そうだからさ」



だから、そんな満面な笑みを浮かべながら言った彼女の言葉も今井の耳には入っていなかった。



そんなこんなで今井の青春が始まる。



「ここか・・・」


今井は立っていた。目の前にはそれはそれは一軒家が建っている。まぁ何というか一軒家なのだ。


表札に彫られた七海という文字でその一軒家が初恋の人のそれであることが分かる。


ちなみに何故、今井一人で立っているかというと、時は少し遡る。



「あっ。学校に靴忘れた」


そんなことを他人事のように述べる雪。溜息を吐く宮岡。キョトンとした目をする今井。


「...ここまでよく気づかなかったね」



と、まあそんなこともあり雪と宮岡は学校へ引き返すことになる。


宮岡も行く必要はなかったのだが今井と二人きりは流石に空気が持たない思ったのだろう。


今井も同意見なので何もいう事はなかった。


そして、今井は雪に「これ家までの地図」と、四つ折にされた紙を渡された。


今井はそれを何気なく受け取って思った。


(何でこんなの持ってるんだ・・・? )


そう思い、雪に聞こうと顔を上げたところで宮岡が雪の後ろで首を横に振っているのが見えた。


おそらく、「聞いてあげないで」という意味なのだろう。


なので今井は聞かないことにする。そして、何も考えないことにする。


決して、未だに雪が帰り道で迷っている姿などは想像していない。



そんなこんなで今に至る。


今井は恐る恐る家に近づく。心臓は激しく鼓動を打ち、手は震えていた。


そして辿りつくインターホン。上昇する体温は耳まで真っ赤に染め上げていることだろう。


ゆっくりとインターホンのボタンを押す。



ピンポーン



「はい。どちらさまでしょうか」


男の声。今井は雪の兄だろうかと思った。



「えっと...えっと...」


滝のように流れる汗。何故か息が切れてくる。やばい、やばい・・・。


「・・・」



そこからのことはあまり記憶にない。









「えっと...雪さんと、はぁはぁ...(ゲームを)やりにきました」



ガチャッ









そんなこんなで雪が帰ってきてやっとこさ今井の変態疑惑は解けましたとさ。



「危ない、警察に通報するとこだった」



ちなみに後「0」押すだけでした。



それまたちなみにゲーム大会は雪の全敗で終わる。



「あぁぁぁぁ、私は誰だったら勝てるのよぉぉ」



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