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ななみけ  作者: るべの
22/22

第二十一話:今井の苦悩

気がつけば、今井十話ぶりの登場です(笑

今回は「」が一つというほぼ彼の脳内の話です。

改めてご了承下さい。

「・・・」

 

 今井は迷っていた。言うか、言わないか。


 今ままでの自分ならここで恐れて言うことはできないだろう。


 だが、今の自分ならどうだろう。


 実際今まで彼女との接点はほぼゼロだった。


 だが、この前彼女が唐突に話しかけてきてくれたことによってそれは変わった。


 そのまま済し崩し的に彼女の家まで行くこともできた。


 この前だって彼女の姉に太鼓判を押された(今井が勝手に思ってる)。


 今井は少なからず今の状況に誇りを持っていた。


 だから、彼女に言うことのできる権利ぐらいはあるのではないだろうか。




 

 今井はもう一度、自分の席の横に落ちている消しゴムをチラッと除いた。


 それは紛れもなく彼女の物だ。


 おそらくそれは彼女が机の上で寝ているとき運悪く手が当たり、現在に至っているのだろう。 


 ここで、それを拾い、黙って机の上に置けばいいのではないかという意見が発生するだろう。


 だが、答えはノーだ。


 おそらくこの距離だと自分の手はぎりぎり届かない。と、今井は感覚で分かっていた。

 

 なのでその作戦は決行できない。

 

 

 そして、結局彼女に直接言うという意見に戻ってくるわけである。

 

 だが、今彼女は夢の中。


 彼女の幸せそうな寝顔を見るとそれを邪魔するのも何だか気が引ける。


 

 だからといって、ノウノウとしている暇もない。


 早くしなければ、他の誰かにそれをされてしまうからだ。


 時間は一刻を争う。


 だが、彼女の寝顔は邪魔することはできない。


 

 そういったジレンマに今、今井は挟まれている。


 

 じゃあ、もう放っておけ、と言われるかも知れない。


 でも、それは駄目だ。


 何故だと問われるだろう。


 でも、今井はこう即答するだろう。


 折角のチャンスを無駄にすることはできないと。


 

 何のチャンスだよ? ある人はこうも聞き返してくるかも知れない。


 それにも今井は即答できる自信があった。


 彼女の好感度を上げるチャンスだと。


 

 ある人はこの言葉を聞いて哀しそうな目で見てくるかも知れない。


 だが、今井はそんなことには動じない。


 何故なら日頃から両親に、こつこつやるのが一番だと言われてきたからだ。


 だから、今井は他人からしたら小さなことだと思われることでも誇りを持って取り組むことができた。


 そのお陰で小学校の頃は「頑張っている人」で一位獲得という輝かしい実績を手に入れられたと本気で思っている。

 

 この事もまた、それと同じだと今井は思っていたのだ。



 カツッカツッ



 そうこうしていると何者かの足跡がこちらに向ってくるのを察知した。


 それは古典の川上という女教師であった。


 彼女はまだ若いながらにもしかっりとした教育理論を持っており、その眼鏡の奥底の眼はいつも生徒達を見据えている。

 

 そしてそのため、彼女はその可愛らしい風貌に似合わず、怒らせると超怖いということを今井も風の噂で知っていたのである。


 その彼女がじりじりとこちらに迫ってきている。


 しかし、彼女の目線は自らの手に持った古文の教科書に注がれている。


 そのため彼女はお休み中の雪に気づいていなかった。


 だが、それも時間の問題であろう。


 彼女の足はゆっくりながらも着実に雪の机に向っている。


 雪の席に到達すれば、もう後のことは簡単に想像できてしまう。


 それはまずい。



 そして、今井にはもう一つ懸念材料があった。


 それは彼女が雪の落とした消しゴムに気づくことだ。


 そうなってしまえば、今井の好感度ゲットチャンスも全て星の彼方へ消え去り、雪にも天罰が下ることになる。


 

 どうすればいいんだ。今井はこの緊急事態に心の中で慌てふためき、ただ頭を抱えることしかできなかった。

 


 もう少しで川上は今井の隣を通過することになるだろう。



 その時だった。


 今井の頭に突然二つの解決策が浮び上がってきたのだ。


 

 取り合えず消しゴムを拾う。 


 それがその二つの解決策の共通点だった。今井はそれに倣って取り合えず消しゴムを拾うことにした。

 

 彼女は古文の教科書に夢中であったためそれは難なく成功する。


 今、彼の手の中には間違いなく雪の消しゴムがあった。


 

 そして、ここらが二つの解決策の分岐点であった。


 まず一つ目はこの消しゴムを寝ている雪目掛けて投げるという、まあ何とも飛びぬけたものだった。


 これをすれば彼女を天罰の危機から救いだすことは可能だ。


 しかし、もちろん好感度を手に入れることはできない。


 それどころか好感度を下げてしまうというリスクだって伴う。


 

 今井は取り合えずこの解決策を保留して次の解決策を鑑定する。


 二つ目は至ってシンプルな解決策だ。隣か後ろの生徒にこの消しゴムを回して貰うというものだ。


 そうすれば彼女の手に消しゴムも渡り、彼女を天罰の危機からも救い出せるだろう。


 だが、この解決策には大きな落とし穴がある。


 それは自分の好感度が上がらないばかりか、消しゴムを回したそいつの好感度を上げてしまうという最悪の事態を孕んでいるということだ。


 隣か後ろが女子だったらもしくは変わっていたかもしれない。だが、生憎今井の隣と後ろは男子生徒である。


 今井はこの解決策を即座に頭の中から消し去ったのだ。



 そうこう考えているうちに川上はもう目と鼻の先。


 もう今井には考えている余裕がなかった。


 他人が幸せになるなら、自分が不幸になろう。


 そう思って今井は彼女の消しゴムを握りしめ、それを寝ている彼女の方に向って勢いよく投げつけた。



 

 はずだった。



 

 でも、結果は無残なものだった。気づかなかった。


 まさか緊張でこんなにも自分の手が汗でびっしょりだったなんて。



 今井は後悔していた。

 

 今井は消え去り行く意識の中で見た。


 雪のびっくりして周りを見渡している姿を。


 クラス中の生徒が何かを怯えているのを。


 川上の普段とは似て似つかない鬼の形相を。


 

 後から聞いたことだが、その日その教室で眼鏡が舞ったらしい。


 それはまあ見事に。


 桜の花びらが舞い散るかの如く。綺麗な孤を描いて。

 



 今井がそれを知ったのは次に意識が戻った時、まだ少し寒さの残る廊下の上であったとさ。


 おしまい、おしまい。


 



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