第二十話:夢の給食
「夢ちゃんっおはよっ」
「おはよう、夕菜ちゃん」
爽やかな朝。元気よく挨拶を交わす少女達。
今日は月曜日、それは一週間の始まりの日である。
ランドセルを背負った少年少女たちがある一つの場所に向っていた。
それが登校である。
「夢、夕菜、おはようっ」
いかにも活発そうな少女が二人の少女の中に後ろから突然分け入る。
二人の少女は一瞬びっくりような表情を見せたがその少女の顔を見るやいなや笑顔を浮かべた。
「おはよう、佳奈ちゃん」
二人の少女の声が揃うのを見て佳奈と呼ばれた少女はうんうんと、微笑みながら2、3回頷く。
「元気そうでなによりだ」
「え? 何々、夢ちゃん風邪をひいてたの? 」
佳奈の言葉を聞いた夕菜と言うおとなしそうな少女が心配そうに雪の顔を覗き込んだ。
「え、そんなことないよ? 」
雪は全くそんなことはないようで少し焦った表情を浮かべながら両手を前に出して横に振った。
「じゃ、どういうこと? 」
雪から佳奈に視線を向きなおした夕菜は首を傾げながらそう言う。
佳奈は少し言いにくそうな表情を浮かべて、うーんと一回唸る。
その行動に二人の少女はどうしたのだろうと頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「ほら、お姉さんと二重跳び、終わっちゃったじゃん、だからさ・・・」
「あ、あれ夢ちゃんすごく好きだったもんね・・・」
そう言いながら二人は悲しそうな顔をしながら夢のほうを見た。
だが、夢は全く悲しそうではなかかった。それだけではなく、少し嬉しそうでもあった。
「それは大丈夫なの」
「え、どういうこと? 」
夢のきっぱりと言い切ったその言葉に佳奈と夕菜の声が重なった。
「だってね、次からはお姉さんと三重跳びが始まるんだって」
「へぇ・・・それは誰が言ってたんだ? 」
佳奈はそんなことはあるはずがないと思いながらも、そう聞き返した。
「雪ねぇっ!! 」
「・・・」
この沈黙が意味するのはいったい何なんだろうか。
佳奈は夢の無邪気な笑顔を見ていると本当の事を言えなくなってしまった。
「それとね、ボク昨日お姉さんにあったんだよっ」
「えぇ、夢ちゃん、それ本当!? 」
夢はそんなこともお構いなしに楽しそうに話を続ける。
夕菜も彼女をいるのかどうかは分からないが彼女の話に必死で食い付く。
佳奈は始まることのない“お姉さんと三重跳び”を待ち焦がれる夢を少し気の毒に思いながらも、夢の言葉に耳を傾けていた。
「うん、霞ねぇのお友達だったらしくてねっ、それでねっ」
「そんな焦んなくてもちゃんと聞いてやるから」
佳奈は興奮して矢継ぎ早に言葉を繋ぐ夢に微笑みながら落ち着くよう促した。
いつもはしっかり者の夢だが自分の好きなことになると度々こういう風になる。
そんな夢を見ていると佳奈は何となく微笑ましい気持ちになるのだった。
佳奈は夢が昨日の出来事を事細かに話しているのを聞いていると、突然肩を叩かれる。
「よっ山村っ!! 」
一瞬はっとして後ろに振り向いた佳奈だったがそこにいた憎らしい笑顔を浮かべた少年を見ると溜息をついて、
「何だ、伊本か・・・びっくりさせるなよ」
と、面倒臭そうに言った。
「何だってなんだよ、おいっ」
伊本は口をすぼめる。
「あっ、伊本君おはよう」
「よう、加藤っ!! 」
だが一瞬で笑顔になって夕菜に向って手を挙げる。
「それでね、あのね本当にね美しいひとでね」
ちなみに夢はまだ自分の世界に浸っていた。伊本は夕菜の後ろでずっと口を動かしている夢を見つけると少し苦笑いを浮かべながらも挨拶をしようと決心する。
「よう七海っ!! 」
「あっ伊本君、おはようっ」
伊本が挨拶をすると夢はすぐに彼の顔を見てにっこり笑顔を浮かべて返してきた。
そんな彼女の無邪気な笑顔を見て伊本の頬は少し赤らんでいた。
そんなこんなでいつもの四人が揃い、学校まで向うのであった。
―
時刻は十二時を回った。
現在この小学校では給食が行われている。
この学校では給食時に近くの四人と机をくっつけて四人一組での体制を取っている。
そのため、先程の四人で給食を共にしている状態であった。
「伊本、プリン貰うぞ」
「駄目だよっ」
「何で? 」
「お前自分のあるだろ」
「いや、もう食べたし」
「じゃあ、もういいだろう」
「駄目だ」
「何でだよっ? 」
「もう一個欲しい」
「理由になってないっ!! 」
けち~と、言いながら佳奈は頬を膨らまして夢の方に目を向ける。
「それでね、それでね、サインとか貰ってね」
「うん、うん」
夢はまた自分の世界に入り込んでいて、それに夕菜はニコニコしながら相槌を打っていた。
佳奈は苦笑いを浮かべながら、
「夢、プリンちょうだい」
と、言った。
「え、? あ、いいよ」
一瞬キョトンとした夢は佳奈のほうをみるとにっこりと笑って自分のプリンに手をかけようとした。
「いいのかよっ!! 」
「うるさいな、どうしたんだいきなり叫んで? 」
「いや、どうしたじゃないよ。七海はいいのか? プリン好きだろ」
「あ、好きだけど、佳奈ちゃんが欲しいなら別にいいかなって」
「何がいいんだよっ。こいつはもうプリンすでに食ってんだぞ」
「お前が何で怒ってるんだよ」
伊本は自分を拗ねたように睨んでくる佳奈と首を傾げている夢を見ながら、うー、と唸った。
「うーん、でも佳奈ちゃんプリン欲しいんだもんね」
「ああ、そうだな」
伊本はそんな二人を見て、うー、と更に大きな声で唸って、
「分かったよっ!! じゃあ、俺プリンやるよっ!! 」
「そうか、ありがとな伊本」
ヒョイッと伊本のプリンを取ろうとする佳奈。
だが、伊本は伸びてきた手から自らのプリンを逃がす。
「何だよ、くれるんじゃないのかよ」
「いや、俺がお前にやるんじゃなくて、お前は七海に貰って、俺が七海にプリンやるんだよ」
「じゃあ、私がお前のを貰っても一緒だろ」
「違うよっ!! 」
伊本は佳奈の言葉に必死に反抗する。
「何だよ細かいやつだな、じゃあ夢、貰うな」
「はい、どうぞ」
そう言って夢は優しく佳奈にプリンを渡す。
受け取った瞬間、佳奈の顔は一目で分かるぐらい明るくなった。
「ありがとな、夢」
そう言って、すぐさまプリンに齧り付く佳奈。
そんな佳奈を一瞬横目でチラッと見てから伊本は傍にあるプリンを夢に渡す。
「ほら、七海」
「ありがと、伊本君」
ニコッと全く邪気のなき笑顔を見せる夢。
その笑顔でプリンの十倍は得したと思う。
恥ずかしさで目を逸らしたとき、微笑みながら一連の流れを見ていた夕菜に目が合って更に恥ずかしくなった。
そんなこんなで、微笑ましい給食が終わる。




