第十九話:心の心
「仁、それは流石にひどいぞ」
「兄さん、それはちょっと・・・」
と、現在仁は二人に物凄く冷たい目で見られている。
だが、そう言われても仁には何故、花宮 心が泣いているのか全く分からない。
「仁にぃ、女の人を泣かせるのは駄目だよ」
「仁・・・私は信じてるぞ」
と、しまいには雪と夢にも哀れみの目を向けられる始末。
仁はこの場をなんとかしたいながらも全く解決策が見つからずやり場がない状態だった。
「いや、あのさ・・・これは、あの、どういう」
仁は動揺でしどろもどろになりながら、皆に説明を促す。
「仁、覚えてないのか? 」
見かねた霞が溜息をついてから仁に尋ねる。
その目は真剣なものだった。
「いや、覚えてたらこんなことにはならないって・・・」
「うぅ」
わざとらしい咽び声が耳を通る。その度に冷や汗が首筋を滴る。
「姉さん、ヒント、ヒントちょうだい」
仁は一刻も早くこの事態から逃れようと霞に助けを求める。
「うーん、あれは仁がちょうど小学生高学年ぐらいの頃だったかな」
そう言われたところで小学生高学年なんて範囲が広すぎる。
もちろん仁の頭の中の検索エンジンには何一つヒットしない。
仁は霞の次なる言葉を待つ。
「・・・」
だが、霞は仁の顔を見たまま口を開こうとしない。
「・・・」
そのまま30秒程が経過した。
「ってそれだけっ!? 」
「え、そうだけど? 」
霞は何で自分が責められてるのか理解できないといった表情を浮かべて首を傾げていた。
「いやっそれだけじゃ何も分からないだろっ!! 」
「いや、そんなこと言ったて私も覚えてないんだし」
「うぅ、うぅ」
事態が更に悪化したあああ。
「おいおい」
両手を挙げてお手上げのポーズをしている姉に向って呆れ顔を向けることしかできない仁であった。
「じゃあ、雛教えてくれ」
「あ、えっと・・・」
雛にそういうと、雛はどこかやり場のないような戸惑いの表情を浮かべて目を泳がせた。
「・・・私もあんまり詳しいことは覚えてない、かな? 」
「うぅ、うぅ、うぅ」
「・・・」
事態の悪化が防げないいい。
これ以上は駄目だ、仁は瞬間的にそう悟った。
ここは冷静に分析すべきだ。残る証人は後二人。
だが、先程の反応からして夢は初対面だろう。なので、ここはパス。
そして、問題の雪なのだが、これも先程は初対面の反応をした。
しかし、雪は元来忘れ症なのである。
つまり、雪は本当は花宮 心に会っている可能性は否定できない。
いや、だからこそ雪に話を振ることによってまた余計な地雷を踏んでしまうかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お手上げです。そう思った時だった。
「うぅ、あれは、うぅ、・・・私が初めてこの家に来たときのことぉ」
堪れなくなったのか、心は自分から鼻声で言い出だした。
それはこれ以上ないヒントだった。
この発言に仁は何かをひらめいたかのように叫んだ。
「あっ、思い出したっ!! そうそう、そうだよ、なっ」
思い出せねええええええ。
だが、こう叫んでしまった限りはもう後には引けない、仁は皆に目配せをする。
それに皆は一斉に頷く。
「あ、あぁ、そうだったな、うん、確かにそうだ」
「そうだ、本当にあの時は楽しかったなあ」
「あぁそういえば皆でトランプとしたっけなあ」
夢を除いて皆が一斉に棒読みでそう言った。だが、雛だけはやはり演劇部の維持だろうか、棒読みではなかった。
まあ、そんなことはどうでもいい。
雪、そんなトランプとか言って大丈夫なのか?
「うぅ、花札だよぉ・・・」
ほらぁ、雪ぃぃぃ、っていうか花札ってぇぇぇ、渋いなあああ。心の中でそう思う仁だが、もう終わったことは取り返せない。
なので仁のやるべきことただ一つだった。
「そ、それより、花宮さんはどうして、ここに? 」
それは、全力で話を逸らすことだ。
「あぁ、そうだ」
何とか話を逸らすことに成功したようで、心は霞の胸の中からようやく離れる。
目が少し赤く腫れていてのを見て、こちらの罪悪感がまた少し促進された気がした。
でも、まあ泣き止んでくれたようだ。仁がそう胸を撫で下ろした矢先―
また、彼女の顔が曇り出した。
「うえーん、お姉さんと二重跳び、終わっちゃったよぉぉぉ」
更に大きな地雷踏んだああああああ。
そんなこんなで、慰めるのに小一時間かかって終わる。
「・・・もう知らない」




