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It is 『It』(後編)

―――Side:クレハ―――



キュキュキュー

「ん」




―わたしは小暮玖久瑠。大学二年生―




知っている。




「アレに心当たりは?」




ふるふる。




無しか・・・




「ここ1年、ストーカー被害にあったことは?」




ふるふる。




コレも無し。

そもそもアレがよっぽど熱烈で病んでるストーカーなら殺気以外は有り得ただろうが・・・

・・・はぁ、ストーカーだったら表の警察に押し付けられるのに・・・

まぁ、アレは少なくともこっち側に分類されるがな・・・

感染した・・・かな?それとも、感染させられて故意に暴走させられたか・・・

どっちにしろ厄介だ。




「地下に何らかの関わりは?・・・まあ、無いだろうが」




ふるふる。




じゃあ確定。




アレは感染した表のニンゲンだ。

裏で感染させられた奴は故意にでもない限りああはならない。




「裏と表のルールは当然、知っているよな?」




こくん。




肯定。




「なら、話は早い。俺が君に教えてやれることは二つ。・・・もっとも、二つ目は聞いたら裏に関わることになる。平和に生きたいなら聞くことはお勧めできない」




キュッキュッ




―一つ目は?―




「死んだ君の友人、関ヶ谷佳奈子を殺したアレは一応、表の人間だ」




キュキュキュッ




―でも、表の人は・・・―




「ああ、表の人間に殺人鬼は居ない。・・・少なくともこの街では、だがな。だが、日常の些細なことから起こる殺人なら表でも起きるさ」




キュキュッ




―じゃあ、佳奈子が死んだのは些細なことから起きた殺人のせい?―




「イエス、でありノーでもある。ここから先は二つ目だ。・・・どうする?」




・・・




沈黙。

当然だ。このことを知ってしまえば裏に関わりを持つことになる。

一度知ってしまえばそのようになってしまう分水嶺。

俺は強制はしない。




スッ・・・




ソファから立ち上がり備え付けのコーヒーメーカーへ。

七種のコーヒー、三種の紅茶、ココア、ホットチョコまで淹れる事ができる優れものだ。

コーヒーとココアを一杯ずつ淹れる。




コトッ




「飲みながらゆっくり考えるといい。君のこれからを決める大事な選択肢だ」




そう言ってココアを渡す。




キュキュ・・・




―ありがとう―




「気にするな」




そう言ってコーヒーを飲む。

再び、思考の海へ。

アレは俺の同類の成れの果て。

そう考えると反吐が出る。

俺も、ああなっていたのかも知れない・・・

俺は、あの子を犠牲に・・・




くいくいっ。




そう考えていたら服を引っ張られた。

そちらを向くと少女が居る。




「・・・どうした?」




―辛そうな顔をしていた。大丈夫?―




そんな心配そうな顔をするな。

俺は所詮他人だ。

―――あの子を、思い出してしまう―――




「・・・ああ、問題ない。他人の心配をする暇があるなら自分の心配をしておけ」




「・・・」




・・・やめろ。

あの子と同じような顔をするな・・・

自分のほうが危機的な状況に置かれているのになぜ赤の他人の心配ができる?




あの(最後)を思い出してしまう・・・




旅人だった俺に向けられた笑顔を・・・




俺を縛る、トラウマを・・・




自分に止めを刺した俺を最後まで心配していたあの顔を・・・

あの、子を・・・




ギュ・・・




「なっ!?」




頭を抱え込むように抱きしめられた。

なぜ?理解不能。

小ぶりな胸の感触を感じる。

なぜか、落ち着いた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




気まずい・・・




「・・・すまない、醜態を見せた」




キュッキュキュキュー




―気にしないで―




本当に情けない。

大の男が見た目中学生の女性に慰められるなんて・・・

ああ・・・穴があったら入って土葬されたい・・・

本来ならこっちがケアしてやるべきだってのに・・・




・・・くい




と、自己嫌悪に陥ってるとまた、服を引っ張られる。




「ああ、なんだ・・・その・・・そんな申し訳なさそうな顔をするな。あれは俺の失態だ。いいな?」




・・・こくん




隣に座っている小暮玖久瑠がうなずく。

俺が慰められた後からなぜか距離が近い。

・・・何と言うか・・・ワルで通ってるヤンキーが野良猫に擦り寄られてるところを見られたような感じでなんとも決まりが悪い・・・

うん、そんな感じだ。




「・・・それで、二つ目はどうするんだ?」




なんとなく、答えは判る。




キュッキュキュッ




―教えて―




予想通り。




「良いんだな?後から聞かなかったことになんてできないぞ?」




キュキュキュッ




―知ったからって、表に居られなくなる訳じゃないでしょ?―




「ああ、確かにそうだな」




キュッキュキュッ




―じゃあ、大丈夫。だから教えて―




「判った」




ようこそ、地下へ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「君と君の友人を襲ったアレはアウターズ。いや、アウターズが力に飲み込まれたなれの果てだ」




―アウターズ?―




「そう、アウターズ。裏の人間たちが異常な力を持っている奴等に付けた総称だ。最下層の奴でも存在だけなら知っている」




―力に飲み込まれたって?―




「単純だ、アウターズになって得た力を抑えることができなかった。それだけだ」




―じゃあ、アウターズはどうやって力を得るの?―




「いい質問だ。アウターズは二つの方法で力を得る。『感染した』か『感染させられた』かだ」




―何が違うの?―




「感染方法とリスクとリターン。『感染した』アウターズはいつの間にか感染している。得る力は強力だが感染初期の内に力に飲まれて自我を殆ど失い本能的に行動するようになる奴が9割を占めている。と、言っても自我のないアウターズはその力を殆ど発揮できない。」




「『感染させられた』アウターズは『感染した』アウターズによって感染させられて力を得る。自我を失った『感染した』アウターズは本能的に襲った奴を喰っちまうから必然的に自我を失ってない『感染した』アウターズの子飼いだ。」




「大抵、『感染させられた』アウターズの力は『感染した』アウターズのソレよりは弱い。純血と雑種のようなもんだ。稀に強い力を持つことがあるがな」




―じゃあ、『アレ』は『感染した』アウターズ?―




「その通り。この街においては表の人間が感染させられる事なんて刹那的な確立だ。ゼロでは無いが有り得ないといえるレベル。まあ、力に飲まれている時点で天然モノってのは間違いないだろう。アレ見たいに力に飲まれたアウターズはまともな奴らと分ける為に『レギオン』と言う総称が付いてるんだ」




―レギオン・・・外れた者からも外れているって事?―




「ああ、そうなんだろうな・・・さて、話を戻すがアレはレギオンで力は風のC3か強化系統のD1だろうな」




―?―




「あー・・・アウターズやレギオンが得る力ってのは単純に肉体的な物に加えてもう一つばかり有るんだ。・・・例えばアウターズになった事で強化された肉体をさらに強化したりするものや超能力じみた物、魔法みたいな物だってある。で、アイツは逃げるときに視認できる速度以上で逃げていった。時間を操るようなレア物は確率的な問題で出ることは有り得ないから必然的に強化系統か風になるんだ。・・・風の場合は光の屈折率を変えて姿を見えなくしたんだろう」




―えっと・・・D1とかC3って・・・何?―




「スマン、説明するのを忘れてた。力の強さを判別する簡易的だが細かいやつだ・・・っと正式な階位分けはめんどくさいしややこしいから今は勘弁してくれ。F3~A1までで16段階に区別される。例えば・・・マッチやライター程度の規模の炎を発生させるのが炎のF3・・・つまり、一番下でこの街一つぐらいなら軽く焦土に変えられるのが炎のA1って事だ。・・・A1クラスってのは人外魔境の巣窟って感じだから一概にそうとは言い切れないんだけどな」




・・・まぁ、アウターズの中で初のA1クラスが自分の力を暇つぶしに一番下の出力から最大出力まで上げていって付けたお遊びみたいなもんだ。




そう、付け加える。

曰く、人類最強。

アウターズなんて十分人外な癖に人類最強ってのもおかしいが・・・裏においてアウターズの立場を変えることになった大災害の張本人。

その日から、アウターズはその存在が認知されている裏において人類として扱われることになったとか・・・

ヴェノム・レイ。

あの女のことは教えなくてもいいだろう。

アウターズについて知っていても自分から裏に行かない限り係わり合いになることは無いのだから・・・それに、関わるようならば初めて会うときによく分かる。




「さて・・・説明は以上だ。後は帰るなり泊まっていくなり好きにすればいい」




そう言って突き放す。

見過ごせなくて助けてしまったが最後まで面倒を見るつもりなんてさらさらない。

ん?なら最初から助けるなって?

知るか。今の俺に言うな。あの時の俺に言え。




「・・・俺は寝る。もし泊まるなら好きな部屋を使え」




―・・・―




立ち上がり、ドアに近づこうとして止められた。




「・・・なんだ?」




―・・・―




なにやら一生懸命に書いているようだがやたらと嫌な予感しかしない。

俺は、嫌な勘に限ってよく当たる。




―何でも屋、なんでしょ?―




「ああ、仕事に見合った正当な報酬さえもらえれば大体のことはする」




ペラ・・・




―じゃあ、依頼する。わたしをアレから護って―




「確かに、君はアレの標的になってるな・・・構わんが報酬は?安くは無いぞ?」




―わたしの所有する財産とわたしがあなたの所有物になる・・・たりない?―




「・・・」




絶句し、納得する。

なるほど、一見気でも狂ったかのように思えるが良く考えている。

恐らく、自分の身を守ることに関してはこの提案は実に優秀だろう。

俺の所有物になる事で依頼が終わった後の自分の身の安全も考えているのだろう・・・が、裏の人間にその条件じゃ拙い。




「アホか君は?俺の所有物になる?なにをされようが文句は言えないって事だぞ?犯されようが、売り飛ばされようが、だ」




―わかってる。でも、あなたがそう望むなら何をされようと構わない・・・それに―




「・・・それに?」




―それに、わざわざ忠告してくれるあなたなら信頼できる―




・・・ミスをしたな・・・俺の負けだ。




「・・・負けたよ。その依頼、受けてやろう」




―ありがとう―




「・・・礼なんか言うな。あくまで依頼されたからやるだけだ。さっさとシャワーを浴びて寝ろ。明日やらなきゃいけないことが増えたんだ。・・・ああ、風呂は向こうの突き当たりだ」




―わかった―




「・・・チッ」




舌打ちをして自分の寝床に行く。

明日からもっと面倒くさいことになりそうだ・・・

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