表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

3.正統王国

国境を越えると北方王国とは違う、正統と自ら名乗ってしまう程の古い王国の匂いがした。街道は整備されているが、石畳に歴史を感じた。街道の脇には名もない遺跡が点在している。

「ここから王都までは四日。馬を飛ばせば三日で着くって、宿屋の主人が言っていたな」

「これからは、気ぃつけて行きや」

ケトが言った。

「そんなに危ない道なのか?」

ケトは小さく鼻を鳴らした。

「ええか、ここは生き馬の目ぇ抜く国やで。ちょっとでも気ぃ抜いたら、財布も荷物も全部持ってかれんで」

「そうなのか?」

「そないやで。商人は笑顔でこすい真似しよるし、衛兵かて袖の下もろたら知らん顔や」

俺は手綱を握り直し、深く息を吸った。

「分かった。気をつけて進むことにしよう」


正統王国はエウラシア大陸の中央にあって、大陸で最も古い王家が治めている。貴族文化が発達し、芸術、学問、礼法が洗練された文化の都だ。


街道を進んで三日目、ようやく王都の美しい尖塔群が見えてきた。

王都には白い石で築かれた尖塔がいくつも立ち並んでいて、尖塔の都とも呼ばれている。その姿は美しく、旅人はその荘厳さにしばしば息を呑むほどだ。


王都の城壁は高く、入口の門は立派だった。けれど警備は国境ほど厳しくなく、冒険者登録証で問題なく通る事ができた。門をくぐると、石畳の大通りには、人や馬、商人の声が渦巻いていた。


「やっと着いたな。ここでエルフの国の情報が少しでも聞ければいいんだが」

「心配いらんわ。案内役はもう決めてあるさかいな」

「ケトが? 猫の知り合いでもいるのか?」

「ちゃうわ。エルフの国ゆうたらエルフに決まっとるやろが」

半信半疑でケトについていくと、王宮の前に出た。

くたびれた姿の俺は、すぐに王宮の衛兵に睨まれた。

「ケト、こんなところにお前の知り合いなんかいるのか?」

外套についた泥を気休めに払いながら、俺はケトに声をかけた。

「ちょっと待っとき」

ケトはそう言って姿を消してしまった。


俺は王宮の表門から少し離れて、衛兵の視線を避けながらケトの戻りを待った。

やがて背後から気配を感じて振り向くと、表門とは別の道からケトが戻ってきた。

しかも黒髪のエルフを連れている。

そのエルフは黒い胸当てに大振りの剣を下げ、絵画から抜け出したように美しく、精悍だった。


「君がケトの新しい相棒か。俺はラヴァンドレル・エル・ヴィオドール。ラヴァンと呼んでくれ。王都で騎士の指南役をしている」

ラヴァンが手を差し出したとき、俺はあまりの美しさに気後れして、その手をすぐに握れなかった。けれど、エルフが笑顔で首をかしげた姿が、あまりに親しげだったので思わず手を伸ばしていた。

「俺はレオン・フォルク。ケトの契約者は俺の母ですが、今はまあ、相棒です」

「よろしく、レオン」

ラヴァンはそう言うと、素早くケトに向き直り、ケトを捕まえた。

「ケト! 久しぶりじゃないか。元気だったか?」

ケトは激しく嫌がっている様子だったが、不意を突かれて抱きしめられ、頬ずりされている。

「やめ~や。これやからほんまは、お前と会いたなかったんや」

「そんなこと言うなよ、ケト」

その精悍な姿とは裏腹な様子に俺はしばらく口がきけなかった。ケトがやっとラヴァンの腕から逃げ出すと、俺の肩に逃げるように飛び乗ってきた。

ひと息つくとケトは本題に入った。

「そんなことよりや! あんたに頼みあって来たんや。この兄ちゃんをエルフの国まで案内して欲しいんや」

「エルフの国へ?」

人間がそんなところに何の用があるのかと、訝しんでいるのが分かった。

「母が病気で、妖精の森の泉の水が必要なんです」

「なるほど。だが精霊の泉の水は万能薬ではないぞ?」

「分かっとる。ほんでも可能性あるんやったら、賭けてみたいんや。ワイの命の恩人なんや」

「わかった。ケトの頼みなら断れないな。明日の朝、東門に来い。山脈越えが一番早い。山脈を抜ける最短の道を案内する」

「えっ!明日? 指南役の方は大丈夫なんですか?」

「俺の雇い賃は高いが、早い方がいいのだろ?」

「は、はい、・・・あの、いくらぐらい・・・」

「ははっ、冗談だ。明日からちょうど休暇でな。おかげで暇を持て余さずに済んだ」

「あ、ありがとうございます」

俺は思いきり深く頭を下げた。

そんな俺にケトが小声で囁いた。

「こう見えても、ラヴァンは頼りになるんやで」

「それは見れば分かるよ」

「ワイの目ぇには、全然頼りにならんように見えるけどな」

「まあ、ケトの前ではな。そうかもしれない」

俺は笑った。ラヴァンはそんな俺たちを見て、微笑んでいた。

「では明日だ。しっかり休んでおくといい。山脈を越えるのはひと苦労だからな」

その時、不安で重かった気分が少し軽くなった。

これからは、どう見ても頼りになるラヴァンが案内人になってくれるのだから。



ここまでお付き合いありがとうございました。

このお話が「面白い」「続きが読みたい」と思ってくださいましたら、ブックマーク登録、★★★★★評価いただけると嬉しいです。励みになりますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ