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ただの太郎

作者: 狭間閉間
掲載日:2026/03/08

昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。

お爺さんは山へ柴刈りに行き、帰ってくると今度はお婆さんが川へ洗濯に行きました。

二人は家を空けることはしません。まだ赤ん坊の太郎がいるからです。

太郎は息子夫婦の子供、つまりお爺さんとお婆さんにとって孫にあたります。息子夫婦は太郎が生まれてすぐに流行り病で亡くなってしまったので、お爺さんもお婆さんもそれはそれは大切に太郎を育てようとしていたのです。



お爺さんとお婆さんが太郎を育て始めてから何年か経ちました。

太郎はお爺さんとお婆さんの下ですくすくと育ちました。

太郎はお爺さんとお婆さんが甲斐甲斐しく世話したおかげか、とても良い子に育ちました。


太郎は年齢が上がるにつれ村の子供たちと交流することが増えました。とりわけ犬の子、猿の子、雉の子と親しくなりました。

お爺さんとお婆さんは寂しい気持ちもありつつ嬉しく思いました。


太郎は犬の子たちと遊ぶのが楽しくて仕方ありませんでした。特に駆けっこをしたり、かくれんぼをしたりして野山で遊ぶことが大好きでした。


ある日のことです。野山で遊ぶのに疲れた太郎たちが休憩していたところ、犬の子が何やら鼻をすんすん言わせて何かを探し出しました。


何をしているのだろうと他の子たちは不思議に思いました。


犬の子はずんずん進み、そう長くない時間のうちに白くて小さいきのこが何本か木の根元に生えているのを見つけ出しました。


「すごいすごい」

「どうやったの」


皆が犬の子を褒めたので犬の子は得意気でした。

一通り褒め終わった後、猿の子が少し落ち着きなく辺りを見回しました。それから猿の子は木にするするとのぼり、太い枝に乗りました。そして枝の先になっている実を取りました。


ぼくだってすごいでしょ


猿の子はそう言いたげな顔つきです。

それを見た雉の子は自分もそれくらいできるとばかりに枝に飛び移りました。


太郎も他の子のように何かをしようとしました。

しかし、他の子供たちに自慢できるような何かがないことに気が付きました。

太郎は何もできませんでした。



数年が経ちました。

太郎は随分背が伸びて立派な偉丈夫になっていました。太郎はその体格を活かして力仕事をするようになりました。お爺さんもお婆さんも仕事をこなすのが大変になってきたので、太郎にとても感謝しました。


ある日、太郎は幼い時分に親しかった犬の子の家に向かいました。


「太郎、来てくれてありがとう。今日はよろしく頼むよ」


出迎えたのは茶色い毛並みに精悍な顔つきの雄犬でした。

小さかった犬の子も今や成犬になっていました。もはや犬の子とは呼べませんので、犬さんと呼ぶことにします。


「2階建てにしたいんだ」


犬さんは家庭を持ったので家を普請したいということで信頼のある太郎に任せたかったのです。


太郎は張り切っていました。気合の入った太郎は金槌や鉋を使ってみるみるうちに家を建て直しました。


太郎が家に不備がないか確かめていると、二人、いえ、二匹が近づいてきました。


「わあ。すごい」

「ほんとだねえ」


二匹は柔和な顔つきの黒毛の雌犬と昔の犬さんそっくりの犬の子、つまり犬さんの家族でした。


「いつも主人がお世話になっています」


犬の奥さんは挨拶を皮切りに太郎に感謝の旨を長々と伝えましたが、やがて買い物に行かなければならないことを思い出して切り上げました。


「そろそろ行くよ」

「うん」


犬の奥さんが子供と共に買い物に向かい、見えなくなったあたりで犬さんが様子を見にやってきました。


「良い家だ。太郎ありがとう。これからも頑張っていかなくちゃって思えたよ」



太郎は家を建てて良かったと思いました。しかし同時に立派な犬さんを見て太郎はつい気持ちをこぼしてしまいました。


「君はすごいね。ぼくは未だに良いところがないよ。この先ずっとかもしれない」


太郎は少し情けなく思いました。

ここで会話が途切れ、太郎はいよいよいたたまれなくなってきましたが、犬さんが沈黙を破りました。


「え、太郎そんなこと思ってたの? びっくりして声が出なかったよ。昔、僕がきのこを見つけたときのことを覚えてる? あのとき真っ先に褒めてくれたのは太郎だよ。僕だったら出来なかったと思う。それに僕の家を今まさに作ってくれたじゃないか。太郎だから任せられたんだよ。まだ足りないようだったら他の人たちにも聞いてみよう」


犬さんはそう矢継ぎ早に言いました。そして猿、雉、鬼など、色々な村人を集めました。犬さんは事情を説明して村人たちに太郎を褒めるように促しました。

するとどうでしょう、村人たちは太郎の良いところを次々に言ってのけたのです。


「足を挫いたとき、家まで送ってくれた」

「柿を食べ損ねたとき、分けてくれた」

「友達になってくれた」

「愚痴を嫌な顔せずに最後まで聞いてくれた」

「悩みも聞いてくれた」

「畑仕事を手伝ってくれた」

「失敗したとき笑わずに慰めてくれた」


お爺さんとお婆さんも駆けつけてきました。

お婆さんとお婆さんは太郎のことを何より優先しますので、太郎を褒める場を逃すはずがありません。

お爺さんとお婆さんは集まった村人全員が言った良いところよりも更に多くを2人で語りだしました。

それからこう締めくくりました。


「太郎や、そばにいてくれるだけで嬉しいんですよ」

「そうじゃ。生きてるだけでえらい」


太郎に助けてもらったという村人はその後も続々と集まり、最終的に九十九人にもなりました。


太郎はこんなにも自分に感謝している人がいることに気が付いていませんでした。

じわじわと実感した太郎は嬉しくなって皆に感謝の気持ちを伝えました。


嬉しそうな太郎に皆が嬉しくなって、ついには宴会を開きました。

やんややんやの大騒ぎです。


宴もたけなわになってきたところで、騒ぎを聞きつけた村長が現れました。何事かと皆に尋ねたので、皆は太郎の善行をありったけ話しました。


すべて聞き終えた村長は太郎を見て思い出しました。

杖のつきどころが悪く転びそうになったところに支えてくれた青年がいたことを。

その青年が太郎であったことを。


村長はこの青年に百人の村人を助けた褒美として百太郎(ももたろう)と名を与えることにしました。


太郎は百太郎として、この先も皆を助けることに勤しみましたとさ。



おしまい


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