祭りの後
「ピピピ…ピピピ…」
ある夏の日、鎌倉の由比ヶ浜近くの海辺の家の一室で、アラームが鳴り響いていた。
背の高い男子高校生、中森正太はベッドの中で目を覚まし、アラームを止めて体を起こした。
時間を確認すると…
ー8:20ー
「やべ、遅刻だ!」
彼はそう叫ぶと、慌てて制服に着替え、一階へ駆け下りた。
「正太、朝ご飯食べないの?」
母の中森陽子が声をかける。
「いらない!っていうか、もう遅刻!」
正太は皿の上のトーストを一枚つかみ、口にくわえたまま家を飛び出した。
「ったく、正太ったら…。大丈夫かしら、あんな調子で」
陽子が夫の中森守に言うと、守は穏やかに笑って答えた。
「大丈夫だ。あいつは俺にそっくりだ。きっと大物になるさ」
正太は全力で走り、ようやく学校に着いた。しかし、やはり遅刻だった。
教室に入ると、担任が怒鳴った。
「中森!今日も遅刻か。廊下に立ってろ!」
正太は、いつものように廊下に立たされた。
隣には、短髪の女子高生、上山凛が立っていた。
「あんた、今日も遅刻だね」
「君もだろ」
正太はすかさず言い返した。
「私はいいの。成績がいいから。でもあんたは学年ドベでしょ」
上山に冷たく言われ、正太は黙り込んだ。
しばらくして、正太はふと思い立って尋ねた。
「大学、どこ志望してるの?」
「もちろん東大文一。将来は弁護士になるつもり」
凛は迷いなく答えた。
「すごいな。僕は警察官志望だけど…ドベじゃ無理かな」
正太は苦笑した。
「人生、何が起こるか分からないものよ」
凛はそう言い、やがて朝のホームルームが終わると、二人は教室へ戻った。
放課後。
帰る支度をしている正太のもとへ、友人二人が駆け寄ってくる。
「今日、八幡宮で祭りあるらしいぞ!行かね?」
「まじか!行こうぜ!」
その夜、正太は友人たちと鶴岡八幡宮へ向かった。
境内には無数のぼんぼりが灯り、和太鼓の音が夜空に響き渡っている。
人々の笑い声と屋台の匂いが混ざり合い、夏祭り特有の熱気に包まれていた。
「ははは!」
「ははははは!」
正太たちは馬鹿みたいに笑いながら、夜を満喫した。
大切な人がそばにいるとき、その大切さには気づかない。
失って初めて、どれほどかけがえのない存在だったのかを思い知る。
夜遅く、正太は友人たちと別れた。
「またな!」
「バイバーイ!」
一人で家に戻り、玄関の鍵を開けようとすると…
「…え?」
鍵は、かかっていなかった。
「父さん?母さん?」
暗く静まり返った廊下を進んだ。
返事はなかった。
そのとき、かすかに血の匂いが鼻をついた。
胸騒ぎがした。
正太はリビングへ駆け込んだ。
そして、そこで目にした。
両親が、無残な姿で横たわっている光景を。




