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入った理由

思い出したのは、

壁の向こうの暗さじゃなかった。

最初に思い出したのは、外の音だった。

怒鳴り声。

ガラスが割れる音。

床を叩く衝撃。

「お前のせいだろ」

誰の声だったのかは、まだ思い出せない。

でも、その声を聞いた瞬間に、

私は確信していた。

――ここにいたら、殺される。

逃げ場を探して、部屋を見回す。

ドアは塞がれていた。

窓は、開かない。

そして、

壁だけが、やけに脆く見えた。

元々、ヒビが入っていた。

壁紙が浮いていた。

指で押すと、沈んだ。

「……ここなら」

自分でも、正気じゃないと思った。

けれど、あの時の私にとって、

壁の中は「隠れる場所」だった。

石膏を剥がし、

中の空間を広げて、

必死で身体を押し込んだ。

暗くて、狭くて、

息をするたびに粉塵を吸い込んだ。

それでも、

外の音が遠ざかっていくのが分かった。

「助かった……」

そう思った。

その直後だった。

――ゴトン。

何かが、倒れる音。

人の気配が、消える。

外は、静かになった。

「……出よう」

でも、

身体が、動かなかった。

足が、引っかかっている。

腕が、抜けない。

焦って暴れるたび、

壁は、少しずつ崩れた。

――そして、崩れたのは、出口側だけだった。

誰かが、

外から、塞いだ。

「……あけて」

必死に叩いた。

叫んだ。

爪が割れても、叩き続けた。

でも、

誰も来なかった。

時間の感覚が、なくなった。

息は、少しずつ浅くなり、

思考は、ばらばらになっていった。

最後に覚えているのは、

「この部屋に住む人が来たら、助けてもらえる」という

都合のいい期待だった。

――そうだ。

私は、

誰かが来るのを待っていた。

そして、今。

私は「外」にいる。

壁の前に立っている。

じゃあ、

中にいるのは、誰だ?

壁の向こうから、

懐かしい叩く音がする。

――コン、コン。

「……あけて」

私は、壁に手を当てた。

その向こうで、

私が、同じように手を当てているのが分かった。

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