笑うガードマン
「別に規則違反を犯したわけじゃないからね。クビにするわけにはいかんだろ」
「主任は見ていないからですよ」
「そんなにひどいのか」
「そういうのじゃないんですが…一度見に行ってくださいよ」
「分かった」
警備会社の人事主任は、工事現場に乗り込んだ。
請け負っている現場は建物前の歩道だった。
歩行者が多く通る場所で、資材を運ぶ車両が歩道を乗り越えるため、交通整理員を配置している。
その中の一人が、問題のガードマンだ。
主任はその男が受け持っている場所へ近づいた。
歩道をトラックが横切る。
日焼けした真っ黒な顔の男が歩行者を待たせている。
トラックの尻が消えると、手招きするように歩行者を流す。
問題はない…と、主任は思いながら、車両の出入り口に近づいた。
問題のガードマンは島田雄吉。土木作業員をやめ、パートで来ている。
主任は島田のすぐ前に来た。
島田は、通ってもいいと赤い棒を水平に振った。
確かに問題はない。
「問題はないよ」
「ちゃんと見られましたか?」
「ああ、見たよ」
「妙じゃなかったですか?」
「別に」
「おかしいなあ…」
「何が問題なんだ?」
「苦情が来てるんですよ」
「それを先になぜ言わない」
「それが、微妙でして…」
「そんなこと、そっちで処理しなさいよ」
「いいんですか?」
「私には、何が問題なのかは理解できんが、現場がそういうのなら、そうしてもいい。しかし、理由を聞きたい」
「笑うんです」
「なに?」
「女性を見ると笑うんです。真っ黒な顔で、真っ白な歯で、ニタニタ笑うんです」
主任はマニュアルのページをくり始めた。
了