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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人類失格【1話お試し版】

 

 2027年12月24日22:16



 ──もういいや。


 どうにでもなっちまえ。


 あきらめるな?

 イジメられる方にも非がある?


 イジメってそんなに生易しいモンじゃないんだよ!


 スマホを取り上げられて自分のチンコの写真を撮られてSNSにアップされたヤツなんてそういないだろ?


 だから俺はこのボタンを押す。




 〈人類を滅ぼしますか? YES or NO〉





















 入学して2日目。

 まだ友だちと呼べるクラスメイトが一人もいない。

 高校生活において最初の数日間が一番大事。

 この期間に高校生活のほとんどが決まるといって過言ではない。

 だが、親の都合で家から離れた高校に入学した。

 だからまわりに知り合いが誰もいない。


「鳥尾くん……だっけ? 俺、城山蓮、よろしく」

「あっ、うん、こちらこそ!」


 たしか……名前は城山。

 入学式で新入生代表として挨拶していた。

 近くの席の女子たちが噂をしていたのが聞こえた。

 この辺りでは有名な土建会社の御曹司らしい。

 将来、政治の道に進み、日本の国政を導くのが夢だそうだ。


 身長推定180cm。

 容姿端麗。

 清潔感あり。

 運動神経良さそう。

 人当たりの良さ……。


 どれをとっても俺と比べようもないほど、ハイスペックな人間。


 ──いや、俺とこの人はつり合い取れないでしょ?

 クラスの中心人物として、皆に気を配っているんだと思う。

 だから俺みたいなモブキャラにも声を掛けて回っているんだと思う。


 俺、鳥尾臣はいたって普通の見た目と身長。

 成績も運動神経も良くも悪くもない。

 いわば凡人。

 どこかの部に入って、そこそこな学園ライフを送れたらいい。


 入学してすぐの頃は、そう漠然と思っていた……。


















「じゃあ、好きな人と(・・・・・)ふたり一組のペアになるように」


 3か月後、俺は俗に言う〈ぼっち〉になっていた。

 体育の授業。

 今日は出席している生徒が奇数だから必ずひとり余る。

 ──そして、かならず俺が余りものになる。


 好きな人とペアになれ、か。

 こういうことを平気で言う教師って、たぶんどこにでもいるんだろうな……。


 教師とふたりで毎回組んでいるが、けっこう苦痛だ。

 中学の時はその辺、先生が気を使っていたのかも。

 出席順とか身長順とかで無理やりペアを組ませていたのを覚えている。

 あれが先生の配慮だって高校に入って気づかされた。


「先生、プリントが1枚余りました~」

「あれ? おかしいな? ……まぁいいか」

「──先生、俺、まだもらってません」

「えーと名前なんだっけ……じゃあこれ」


 ホームルーム。

 担任は俺の名前すら憶えていない。


 一番奥の窓側の席。

 列の前数人によるいじわる。

 プリントが回ってこなかった。


 教師からプリントを受け取って気づいた。

 1度グシャっと潰されたプリント。

 教師に渡す前に誰かが握り潰したんだろう。


 だが、これくらいまだマシな方。

 トイレなどで教室から出る度に教科書が窓から投げ捨てられる。

 机の引き出しに押しピンが入っていて怪我をする。

 トイレで用を足していると外から色々物を投げ入れられる。

 朝、教室に入ると机の上に花が飾られている日もある。


 それでもなんとか耐えられる。

 でも、SNSぼっちは本当に苦しい。


 おそらく俺以外のメンバーでウィンスタやLIMEでSNSのグループを作っている。

 休み時間にほとんどの連中が、スマホを見てニヤニヤしている。

 なにかされる度に嫌な顔をする俺。

 それを隠し撮りして共有でもしているのかもしれない。


 嘲弄。嗤笑。諷刺。蔑視。冷嘲。──ありとあらゆる隔たりが俺と彼らクラスメイトにある。それは到底埋められるような溝ではない。


「いじめを0に!」

「愛は地球を救う」

「そこのアナタ。イジメは犯罪です」


 最近やけにこういったイジメ防止関連のCMが多い。

 体感的にはCMの半分くらいはこういったCMが割合を占めるようになった。


 だが、それだけではこの世から、いじめは無くならない。

 毎日、鈍感な教師たちとどこまでも残酷になれるクラスメイトに挟まれ俺のメンタルは日々削られていった。


「鳥尾くん、もしかしてイジメに遭ってないかい?」


 城山……。

 もしかして、城山は知らないのか?

 そう言われると、みんなスマホを見てニヤニヤしているのに彼だけはスマホを普段ほとんど見ない。


「ううん、大丈夫だから」


 彼が知れないなら、黙っていた方がいい。

 城山くんの性格なら、みんなに注意するかもしれない。

 そしたら今度は彼がイジメの対象になってしまう。


 そもそも俺がイジメられるようになったのは、俺のせいではない。

 俺の父、鳥尾彰吾(とりおしょうご)が妻殺人未遂のせい。


 俺が小学生の頃に服役した。

 だが、たった3年で刑期を終え、刑務所から出てきた。


 父親の鳥尾彰吾には祖父の遺産がある。

 そのため、俺が物心ついてからずっと働いていない。

 毎日、近所のパチンコ店に通っていた。

 だから俺が小学生の頃からクラスメイトに色々、噂されていた。


 そんな祖父の遺産目当てに結婚した俺の母親だが、男がいたらしい。

 殺されそうになったので、遺産相続の権利を手放し、すぐに離婚した。そんな噂を皮肉にも小学校のクラスメイトから聞いた。


 だから電車を乗り換えて30分もかかる誰も俺を知らない遠くの高校を選んだのに。


「今日一緒に遊ばない?」


 ある日の放課後。

 高校に入って、はじめて遊びに誘われた。

 でも俺と一緒にいるだけで、仲間だと思われるのではないか?

 城山に迷惑がかかるのは困る。

 軽く断ったものの、どうしても俺と一緒に行きたい場所があるらしい。


 熱心に誘われたので、こちらもつい折れてしまった。

 わざわざ一度自宅に帰って着替えてきてと頼まれた。

 駅前での待ち合わせ。

 まあ、それならクラスメイトに見つかりにくいだろうからOKだと返事した。


 学校の門を出て、約1時間後。


「お待たせ、じゃあ行こうか」


 城山は私服に着替えて待ち合わせ場所に現れた。

 大きめのサングラスをしていて、最初誰かわからなかったくらいだ。


 どこに行くのか説明もないまま、どんどん先に行く城山の後をついて行く。

 繁華街──それもラブホなどが立ち並ぶ通りで高校生にとっては場違い感が半端ではない。


「今から俺の友だちが来るから、ここでちょっと待ってて」


 城山が急にトイレに行きたくなったそうだ。

 こんなところで待ち合わせ?


 ホテル街のど真ん中。

 センスの悪い金色のライオン像の前で待っていてと頼まれた。


「オニーサンが鳥尾くん?」

「はい、そうですが……」


 数分も経たないうちに知らない女性に声を掛けられた。


 30代……いや、40代くらいの女性。

 厚化粧のうえ、年齢に見合わないヒョウ柄の派手な服。

 今時こんな服を着ている人いるんだ。

 テレビでしか見たことがない。


「それじゃ……」


 そう言って差し出された手。


「ちょっ、ふざけないで」


 手を出されたから自分の手を乗せたら、勢いよく払われた。


 お金を出せ?

 もしかして、金でこの女性(ひと)を俺が買うって意味?


 無理無理無理。

 これって、エッチするってことでしょ?

 下手したら自分の親と同じぐらいの歳の女の人と。

 それも金を払って。


 誤解だと説明したところスマホを見せられた。

 鳥尾という名の俺によく似た写真の男子高校生が写っている。

 どう見ても俺じゃん。もしかして誰かにはめられた?


 その疑念は、女性と別れて数分後に確信に変わった。


 女性と別れた後、城山がクラスの連中を数人連れて現れた。


「げっ、マジでいる。キモイんだけど?」

「ほら、この画像見て」

「オバサンとヤっちゃってるじゃん。マジかよ、コイツ」


 クラスでも陽キャな男子と女子グループ。


 城山がスマホの画像を連中に見せている、隠し撮りしてたのか? よく考えてみると、金色のライオン像はあるラブホの入り口にあるモニュメントだ。その前で40代の女性と話していればそりゃ勘違いされる……。


「俺をここで待たせたのは城山、お前だろ?」

「え? 変態がなんか話しかけてきた。ゴメン、こっち見ないで!」

「テメー! 城山っちが迷惑がってんだろ! ぶっ殺すぞ」


 この日を境に間接的なイジメで済んでいた俺の学校生活は激変した。毎日クラス全員から白い目で見られて、イジメグループから頻繁に暴力を振るわれるようになった。


「おい鳥居、目にアザができてるぞ? イジメられたんだろ、でもお前が悪い」

「ちょっ、山セン! ウケるんだけど? 教師が言うソレ?」

「あん? 俺はなにも知らない。お前らの好きにしろ!」

「山セン、最高かよ!」


 いつの間にか噂が教師まで広がったのか?

 今まで空気のように扱っていた俺を教師も一緒になって言葉で責め立てる。


「あっ、殺人未遂のサイコパパの息子じゃん!」


 あちこち痛む身体を引きずって帰ろうとしたら城山に呼び止められた。


「城山……どうしてそれを?」

「お前の同中に知り合いがいてね。最初から知ってたしw」


 父親は浮気した母親をその浮気相手と一緒に殺そうとしたと言われている。だが、証拠不十分で釈放されたが、世間の目は冷たかった。母親は家を出ていき、父親と高校から20km以上も離れた街にふたりで住んでいる。


「おっと、俺に手を出したら、明日は歩いて帰れないぞ?」


 一発ぶん殴ろうかと思ったが、やめた。

 こんなヤツを相手にするほど今の俺には余裕がない。


 思えば、最初から城山がすべて仕組んでいたのかもしれない。俺という生贄を見つけて、この3か月入念に罠にかけていたのかも。そう考えると思い当たる節がいくつも出てきた。


 ──もういいや。

 校門の近くから踵を返して、校舎に戻る。

 そのまま校舎の屋上の鍵を開けて、フェンスを乗り越えた。


 どうせ俺が死んでも誰も悲しまないだろ?

 せめて、ここから飛び降りて、俺をイジメた連中の居心地を悪くしてやる。


 そう覚悟を決めて、フェンスから手を放そうとした。

 すると、突然目の前に光る文字が浮き出て、ある意味をなした。




 ──────────────

 人類は不要ですか?


 YES or NO

 ──────────────












【ご連絡】

 本作を読んでくださり、ありがとうございます。

 お試し版は、いかがだったでしょうか?

 同時にお試し版を他に3作品投稿しており、この中でもっとも好評を得た作品を正式に長編として書いていきたいと思いますので、本作の続きが気になる。鳥尾の復讐を見たい! など思ってくださいましたら作品フォローや☆評価をお願いします。

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