第4章:試される価値
数日後、学園中を騒がせるイベントが発表された。
「全校対抗・模擬バトルトーナメント」
年に一度、学内最強のチームを決める能力バトルだ。
勝てば奨励金、昇級推薦、そして何より“全校の注目”を浴びる。
生徒たちは皆、組むべきパートナーを探し、必死に準備を始めていた。
だが――
「で、誰かお前と組んでやる奇特なやついたのか?」
「無能力者は観客席で見てなよ、そっちの方が似合ってるぜ?」
どこへ行っても、ユウトに向けられるのは冷笑だけだった。
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その日の放課後、ユウトは教室の窓際で、静かにノートを広げていた。
そこには、彼が独自に設計した戦術図――無能力者のための戦闘理論がびっしりと記されていた。
「3秒以内に相手の能力動作を見極めて、1.5秒で位置移動。0.5秒後に仕掛け起動……」
全ては“勝つため”。
ただの記録ではない。命をかける戦いの、唯一の武器だった。
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「……一人で出場する気?」
声をかけてきたのは、エリスだった。
「エリス……お前は、誰と組むんだ?」
「……まだ決めてない。でも、私と組んだら君が狙われる」
「もう狙われてるさ、ずっと」
苦笑を浮かべたユウトに、エリスも少しだけ微笑んだ。
「なら、一緒に戦おう。あなたに賭けてみたい」
その言葉は、まるで冷たい鉄を温めるようだった。
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大会当日。
広大なフィールドには、全校生徒が集まっていた。観客席には教官陣とスカウト、そして上級機関の審査員の姿もある。
ユウトとエリスのチーム名は《ゼログラヴィティ》――重力とゼロの融合。
1回戦の相手は、炎と風を組み合わせたコンビ。
能力同士のコンボ攻撃が持ち味の強敵だった。
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「試合開始!」
瞬間、フィールドに火の玉が飛び交い、風がそれを加速させる。
視界が燃え上がり、音が砕けるように鳴る。
ユウトは即座に防煙カーテンを展開。エリスが重力操作で視界を捻じ曲げ、敵の正確な照準を妨害する。
「左から来る!」
ユウトの声に反応し、エリスが空間を“重く”する。敵の身体が一瞬、地面に沈んだ。
「今だ――!」
ユウトが投げた装置が爆ぜ、敵の足元が凍結。
同時に彼は回り込み、訓練用ナイフを相手の首元に当てた。
「判定、ゼログラヴィティの勝利!」
その瞬間、観客席が騒然とする。
「まただ……!」
「無能力者が勝ったぞ……!」
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バトルの終わり際、対戦相手の一人が悔しげに呟いた。
「……なんなんだよ、お前。能力もないくせに……!」
ユウトはその言葉に静かに答えた。
「“能力がある”ってのは確かに強い。でも“能力がなくても勝てる”って証明できたら――もっと多くの人が、立ち上がれるんじゃないか?」
その言葉に、誰もが言い返すことができなかった。
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その夜、ユウトの名前は学園ネットで急上昇ワードとなり、《ゼロの異端児》という異名と共に拡散された。
彼の戦いは、ついに“無視できない存在”になり始めていた。