第3章「無能力者の戦い方」
それから数日間、ユウトは放課後の時間をすべて“旧図書保管庫”に費やしていた。
エリスの協力のもと、ゼロコードに関する資料を読みあさり、自分だけの戦い方を模索していた。
能力がないなら――頭を使えばいい。
力を持たないなら――技術を磨けばいい。
「能力は“道具”の一つに過ぎない。なら、別の道具を使えばいい」
その夜、ユウトは一人、寮の部屋で自作の道具を組み立てていた。
机の上には、小さな筒状の装置が並べられている。
「この“簡易圧縮爆雷”……成功すれば、相手の注意を一瞬逸らせるはずだ」
分解、設計、再構築。
能力に頼らない分、彼の頭と手は常に動き続けていた。
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数日後、学園では「対能力戦トレーニング」が開始された。
生徒たちはランダムにチームを組まれ、擬似バトルを行う形式だ。
案の定、ユウトはあらゆるチームから拒否された。
「無能力者? 足引っ張るだけだろ」
「せめて怪我しないように隅で見てろよ」
それでも彼は、ひとりでフィールドに立った。
教官たちはあきれたように笑っていたが、その中に一人、興味深そうに彼を見ている者がいた。
銀縁の眼鏡に黒のロングコート――教授だった。
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「第3訓練、開始」
バトルフィールドに立ったユウトの相手は、炎を自在に操る男子生徒だった。
「へへ、悪いけど一瞬で終わらせるぜ? お前なんかに時間使いたくないんでな」
男は笑いながら手を振ると、地面から火柱が立ち上がる。
ユウトは一歩も動かない――その瞬間、腰のポーチから閃光弾を放った。
バンッ!
眩い光と音がフィールドに走る。
「うっ、なに……っ!?」
男が目を覆った一瞬――ユウトは距離を詰め、足元に仕込んだスライディング式罠を起動。
カチリ。
男の足元が凍結し、バランスを崩して転倒した。
「今だ――!」
ユウトは相手の首元に模擬ブレード(訓練用)を突きつけた。
「判定、ユウトの勝利」
審判がそう告げた瞬間、フィールドは騒然となった。
「うそ……まさか……無能力者が?」
「ありえねぇ、今のはただの偶然だろ!」
だがその“偶然”は、他の生徒の目にも明確に映った。
戦略、冷静な判断、そして準備。
彼は、力ではなく“知恵”と“技術”で勝ったのだ。
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訓練後、ユウトは廊下を歩いていた。
「君、なかなか面白い戦い方をするね」
声をかけてきたのは、あの“教授”だった。
彼は薄く笑みを浮かべて、ユウトを見下ろす。
「……あなたは?」
「私はただの観察者だよ。君のような“異常値”を、少し調べたくなっただけだ」
「異常……?」
「能力を持たず、それでもなお“可能性”を掴みかけている。ゼロコードは、そういう者にしか開かれない。――面白いと思わないか?」
彼の言葉に、ユウトは答えなかった。
だがその夜、ユウトは独り言のように呟いた。
「ゼロだから、何にでもなれる。……だったら俺は、最強になるよ」
その言葉が、決してただの願望で終わらないことを、彼自身がまだ知らなかった。