第1章:目覚め、そして排除
光が差し込んでいた。
まばゆい白に包まれた空間で、少年は静かに目を開けた。
「……ここは……?」
天井には見たことのない金属質の構造体が張り巡らされ、側面には透明な液体が入った無数のチューブ。ベッドは硬く、冷たい。
まるで、未来の医療施設のようだった。
目をこすりながら起き上がると、突然頭の中に電子音が鳴り響いた。
――【転生完了。被験体コード:ユウト。登録完了。】
「転生……?」
記憶の断片が戻ってくる。
事故――雷に打たれたような感覚。そして、意識を失って……ここに?
「冗談だろ……」
だが、冗談ではなかった。
彼の名はユウト。十五歳。
日本で普通の学生として暮らしていたはずの彼は、今や見知らぬ世界の“被験体”として登録されていた。
扉が開き、白衣の女性が入ってくる。髪は銀色、瞳は機械のように無機質だ。
「おはよう、ユウト。今日からあなたも“コード保持者”として生きてもらいます」
「コード……?」
「この世界では生まれた時に、1人ひとつ“能力コード”が付与されるの。あなたも今日からテスト対象よ」
彼女に導かれるまま歩くと、広大なホールに到着した。中には同世代の少年少女たちが並んでおり、手のひらから火を出す者、空中に浮かぶ者、雷のようなエネルギーを纏う者もいた。
「では、ユウト君のコード発現を確認します」
女性研究員がユウトの前に端末をかざす。
ピッ。
――【能力コード:なし】
一瞬、場が凍りついた。
「……え? もう一度確認してみて」
研究員が再度スキャンする。だが、結果は変わらない。
――【能力コード:なし】
「まさか……コード無し? 本当に?」
ざわつき始める子どもたち。中にはクスクスと笑う声も混ざっていた。
「おいおい、能力も持たずにここに来たってのかよ」
「なんだよ、欠陥品じゃん」
誰かがそう言った。
笑いが、次第に暴力へと変わっていくのに、時間はかからなかった。
⸻
夕暮れの中、ユウトは一人、校舎裏でうずくまっていた。制服は泥だらけ、顔には殴られた痕が残る。
だが、彼は泣いていなかった。
「俺だけ……無能力……? 本当に、そうなのか?」
ふと、ポケットの中から一枚の紙切れが落ちた。
それは昼間、図書室の隅で偶然見つけた古い文書だった。英語でも日本語でもない奇妙な文字で書かれていたが、ある部分だけははっきりと読めた。
《ゼロコード――それは、“何も持たぬ者”にのみ許された可能性の鍵である》
「ゼロコード……?」
風が吹き、夕日に照らされた彼の瞳が光を帯びる。
「……だったら証明してやる。俺が“無能”なんかじゃないってことを」
彼の中で、何かが静かに目を覚まし始めていた。