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【6】



「ホント意味不明だよ。使い物になるか分からない女を加担させるなんて、組織はいつから粗大ゴミの回収を始めたのかと思ったね」


「……迷惑を掛けないよう頑張ります」


「そういうセリフは天馬にでも言っときな。あたしはあんたの面倒見るつもりないから」


 そう言い残し、彼女は去っていった。

 微かに煙草の臭いのする服を手に中へ戻る。


 ――そこでふと、お腹が空いていることに気付いた。

 時刻は午後五時過ぎ。

 ここで目覚めてから考える余裕がなかったものの、昨日の昼食後から丸一日以上、食べ物を口にしていない。空腹を感じるのも当然だ。


 ベッドに服を置くと、周囲を窺いつつ廊下へ出た。相変わらず人の気配はなく静まり返っている。


 先ほどの研究室へ行き、分析器へ向かっている天馬に声を掛けた。


「あの……今後、何か食べ物を支給していただくことはできるのでしょうか」


「フロアの隅に食堂と売店がある。必要なものは自由に調達すればいい」


「現金はお財布に入っているだけしかありません。カードは使えますか?」


「金の心配はいらない。全部タダだ」


「タダって……どういうことですか?」


「質問の意図が分からない」


「私に立派なワンルームを用意してくださったり、タダで食堂や売店が使えたり。その……いいのかな、と思いまして……」


「城之内製薬は医薬品において、世界でもトップクラスのシェアを誇っている。研究チームには有名な化学賞を受賞している人間も多くいる。そんな城之内製薬の人間が入れば新しい戦力になるかもしれない。そのため『しばらくは研究員と同じ待遇で』と許可が出た――と言うより、それを交換条件としてお前の世話を引き受けたんだ」


「……交換条件?」


「最初は『研究室に閉じ込め、最低限の栄養だけ与えればいい』という話だったんだが。まともな飲食も寝床もなしに仕事を続けさせればどうなるか、子供でも想像できるだろう」


「……倒れてしまいますね」


「俺も麻里奈も厄介事に巻き込まれたくないという点だけは意見が一致しているから、上手く話を付けておいた。上としても『しっかり餌をやっておけばいずれ使い物になる、組織にとって有益な手駒となりうる』と考えたんだろう。役立たずと判断されれば話は変わってくるが、今は好きなだけ飲み食いすればいい」


 どうやら私は相当な期待を持たれているようだ。

 確かに城之内製薬の技術開発は世界最高レベルであり、私自身、難関試験を突破して入社したことは事実だが――。


「しかしここでの生活や仕事を考えれば、この程度の待遇では割に合わないと思うようになるだろう。少なくとも、お前のように〝普通〟の人間には」


「……どういう意味です?」


「いつか分かるときが来るだろう」


 天馬の表情は、それまでになく暗いものに見えた。


「話が逸れたな。食堂はここを出て右、真っ直ぐ進んで突き当たりを左に曲がった正面だ」


「食堂っていうくらいですから他の研究員さんも出入りしているんですよね? 組織の関係者でない私が一人で行って大丈夫なんですか?」


「このフロアには俺たちしかいないと言っただろう。大丈夫だ、行けば分かる」


 研究室を出ると、言われたとおり廊下を歩いて食堂に入った。食堂といっても先ほどの研究室より狭い。自動販売機が複数と、四人掛けテーブルが三卓置いてあるだけの空間だ。


 この場所にも窓はない。

 換気扇の音だけがノイズのように聞こえる。

 どの部屋も同じなのだろうか。


 壁に面して設置されている自動販売機のボタンには《ハンバーグ》《ドリア》などのメニューが書かれていた。自販機の隣には壁に埋め込まれる形で、大きな電子レンジのようなものがある。その小窓には《取出口》と書かれていた。


 メニューボタンを押すとどこかで食事が作られて、取出口へ届くのだろう。他の階も同じシステムで、食事専用エレベーターのような仕組みかもしれない。


 ミートソースパスタのボタンを押すと、取出口の上に付いているランプが点灯した。食事が届くのを待つ間、他の自販機の商品欄を眺める。


 全部で三台並んでいる自販機のボタンには歯ブラシやシャンプー、化粧品類などの文字が表示されていた。天馬の言っていた〝売店〟というのはこれか。


 アラーム音が聞こえ、釣られるように左を見た。

 食事が届いたようでランプが点滅している。


 取出口の中を確認すると、トレイに乗ったミートソースパスタとフォーク、グラスの水が置かれていた。トレイごと取り出し、テーブルについてパスタを口に運ぶ。不味くはない、でも特別に美味しいわけでもない……〝普通〟という言葉がピッタリの味。



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