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【最終章:100日目】 戻らない、戻らなくていい

朝、目が覚めたとき、なぜだか涙がにじんでいた。


夢を見ていた気がする。

でも、その内容はまるで思い出せなかった。


ただ、胸の奥にあった“重さ”がなくなっていた。


(……呪い、解けたんだ)


確信はなかったけど、たしかにわかった。


“何か”が、終わった。

そして、“ここから”が始まる。


鏡の前に立った。

そこには、もう“男だった頃の俺”はいなかった。


髪は肩に触れるほどに伸びて、

目元は丸く、唇は柔らかくなっていた。

声を出してみても、そこに“陽翔”の面影は残っていなかった。


でも、不思議と怖くなかった。


(これが、今の私)


そして、それでいいと思えた。


呪いが解けたということは、

“戻れる”という選択肢があったはずだった。


だけど――


「戻らない、戻らなくていい」


口にした瞬間、胸の奥にすとんと落ちる感覚があった。


私はもう、“女になった”んじゃない。


“私になった”んだ。


誰かの期待でも、役割でも、

過去にしがみつく理由でもない。


私は、“私”という生き方を、

自分の意思で、ようやく選べた。


学校に向かう道のりは、やけに穏やかだった。


すれ違う人の目も、通りすがりの声も、

気にならなくなっていた。


制服のスカートが風に揺れて、

ブラウスの袖が腕にやさしく触れる。


全部、“自分の一部”になっていた。


悠真が校門前で手を振っていた。


「おーい、……って、その顔。なんか、吹っ切れた?」


「うん。今日から、ちゃんと“私”でいる」


「……そっか。じゃあ、“これから”よろしくな」


「うん、よろしく」


それは、始まりの挨拶だった。


呪いは終わった。


でも、私はまだ生きていく。

愛されることの意味を知って、

自分を受け入れて――


これからの毎日を、“私”として進んでいく。


──100日目。私は、もう“戻る”必要なんてなかった。



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