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【第30話/70日目】 わたしはもう、“ぼく”に戻れない?

朝、制服を着る前に鏡の前に立った。

無意識のようにブラのホックを留めて、スカートに手を伸ばしかけ――ハッとした。


(……あれ?)


今日もシャツを着るのに、何の躊躇もなかった。

メイクを軽く整えるのも、髪を整えるのも、“自然”になっていた。


“自分”が変わったことに、いちいち驚かなくなったというよりも、

変わっていくことを、もう“拒んでいない”自分がいることに気づいた。


そして――

それが、怖くなかった。


胸元にそっと手をあてた。

柔らかくて、あたたかくて、そこにちゃんと“今の私”が生きている気がした。


(……このままでも、いいかも)


ふと浮かんだその言葉に、自分で驚いた。

けれど、それはあまりにも自然すぎて、否定する気持ちさえ起こらなかった。


(戻るべき“自分”って、なんだったんだっけ)


たしかに、最初は元に戻るためにもがいていた。

男の身体を取り戻すことだけを考えて、女になることに怯えていた。


けれど、いまの私は――

自分の声に、違和感がない。

友達の“女言葉”にまぎれて笑う自分が、そこにいる。


悠真と並んで歩くことも、

遥香と並んで祠に手を合わせたことも、

すべて“男の俺”じゃできなかったことだ。


「……もう、“ぼく”じゃなくてもいいのかな」


その呟きは、誰に向けたわけでもなかった。

でも、胸の奥が静かに肯いた。


否定も、拒絶も、もう必要なかった。


それでも――


まだ、“決めた”わけじゃない。

まだ、“誰かに満たされた”わけじゃない。

だから、物語は終わらない。


けれど、もしも誰かが、

この“私”を受け止めてくれるなら――


──70日目。もう“戻ること”が、答えではない気がしていた。

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