【第2話/3日目】下着売り場と、思春期の終わり
朝、制服を着るのが億劫になっていた。
というのも、昨日以上に胸元が主張していたからだ。
シャツのボタンを一つ閉めるたびに、ピンと張る布地。
ぴったりした下着を着ていないぶん、動くたびに擦れて、妙な感触が残る。
(……もう限界だな、これ)
自分の体が“変わってきている”という現実に、そろそろ本気で向き合わなければならなかった。
でも、誰にも相談できるはずもない。悠真には絶対ムリだし、美月には……下手したら茶化されて終わる。
だから――
放課後、人通りの少ない裏通りにあるショッピングモールへと、俺は一人で向かった。
目的はひとつ。女子用の下着。
言葉にするだけで、顔が熱くなる。
店に入る前に、何度も深呼吸を繰り返した。
(……見た目は、まだ男子っぽいし……変に見られたらどうしよう)
そう思うと、足が止まる。けれど、もう誤魔化しきれない。
胸の違和感は“羞恥”と“痛み”の混ざったようなもので、歩くたびにチクチクと意識を削ってくる。
意を決して、下着売り場の前へ。
明るい照明。壁一面に並ぶ、可愛いレースや淡い色合いのブラ。
──どう見ても、俺がいるべき空間じゃない。
足音がやけに響いて聞こえるのは、気のせいじゃないだろう。
だけど、思い切って手に取った、白地のシンプルなスポーツブラ。
レースも装飾もない、機能性重視のやつ。
(これなら、ギリ……いや、それでも……)
そのとき、すぐ近くから店員の声がした。
「お探しのサイズなど、ございましたら、お気軽にお声かけくださいね」
女の人だ。優しい声。
だけど、びくりと体が跳ねた。俺は、とっさに商品を棚に戻して、目線を逸らす。
「い、いえ、大丈夫っす……」
声が裏返りそうになったのを、喉の奥でなんとか押し込めた。
心臓がバクバクとうるさい。顔から火が出そうだ。
結局、袋に入れてもらう間も直視できなかった。
商品を手にしてからは、猛ダッシュで店を後にする。
……帰り道。
日が沈みかけた空を見上げて、思わず苦笑した。
(何してんだ、俺……)
けど、カバンの中にある“あれ”は、今の俺にとって必要なもの。
思春期の終わりというより、何か別のステージの始まり。
“男”の皮を、少しずつ脱いでいくような感覚が、今もまだ、胸の奥に残っている。
そして――
その“変化”は、思ったより、悪くなかった。
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