表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/42

【第22話/45日目】 妹と一緒に、女湯へ

「は? いや、待て、美月。俺は……!」


「だからさー、もう“お兄ちゃん”じゃなくなってきてるんだから、こっち入っても違和感ないって」


その一言で、すべての抵抗が崩れかけた。


家族で温泉に来た週末のことだった。

父は仕事で来られず、母と妹の美月と俺の三人。

食後、当然のように「女湯行くよ」と言われ、拒否しきれずにいたら――


「じゃ、先行ってるね〜」


そう言って母が先に脱衣所へ消えていき、気づけば美月とふたりきりだった。


「どうせ、男湯入ったら変な目で見られるんだし、あんたももう“そっち”でしょ?」


「……っ、でも」


「大丈夫。私が守る。最強の妹だから」


茶化すように笑うその言葉に、もう何も言えなくなった。


脱衣所の空気は、ほんのり甘くて、石鹸の香りが漂っていた。

シャツを脱いで、ブラのホックを外す。

それだけで、心臓の音がうるさいほど響いた。


(俺……何やってんだ……)


でも、“女の身体”としての自分は、すでにもう、そこにあった。


鏡に映る素肌。

胸元の柔らかいカーブ。

腰のライン。細くなった手首。


誰がどう見たって、もう“女の子”だった。


「こっちこっちー、脱衣かごそこね」


美月の先導で浴場に入ると、湯気と暖かな蒸気が全身を包み込む。


数人の女性たちが談笑していたけれど、誰もこちらを二度見することはなかった。

当たり前のように、ただ“女性”として空間の一部に溶け込んでいた。


「湯加減、最高すぎる……ふぅーっ」


肩まで湯に浸かりながら、美月が伸びをした。

隣で俺も、そっと息を吐く。


落ち着かない。けど、不快じゃない。


視線が刺さることもなく、

無理に男らしく振る舞う必要もなく、

この空間では、俺は“普通”に呼吸ができた。


「……変だな」


ぽつりと呟くと、美月がちらっとこちらを見た。


「何が?」


「こんな状況、怖くてもおかしくないのに。……なんか、落ち着く」


「それ、たぶんね。“もう、自分で選んでる”ってことなんだと思うよ」


「……選んでる?」


「うん。身体が変わってるからじゃなくて、自分で“今の自分”を肯定してるから。だから怖くないんじゃない?」


まるで大人みたいなことを言う妹に、苦笑しそうになったけれど――

その言葉は、まっすぐ胸の奥に響いていた。


湯のなかで、自分の身体を見下ろす。

“誰かの呪い”じゃなくて、“自分の選択”として。

この変化を、今日初めて、ちゃんと受け止めた気がした。


──45日目。女湯で初めて、“わたし”が自然に呼吸をした。

この作品が面白い、続きが読みたいと思ったらブクマ・評価・リアクション・感想などよろしくお願いします。


続きを書くための励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ