【第1話/1日目】女としての“始まり”──胸の違和感と高鳴る心音
朝――
スマホのアラームに押し潰されるようにして、俺は目を覚ました。
「ん……うわ、寝坊……?」
時刻は、いつもより15分遅い。
制服を引っつかみ、慌ててベッドから立ち上がろうとした、その瞬間だった。
(……え?)
胸に、違和感があった。
柔らかい何かが、Tシャツ越しにふわりと動いた。
昨日まではなかった感触。たしかに“膨らみ”がある。
指でそっと触れてみると――わずかに張っていて、敏感に反応する。
「……うそだろ……?」
寝ぼけてるだけだと信じたくて、洗面所に駆け込む。
鏡の前でTシャツをめくると、そこには“見慣れたはずの自分”の体が、微妙に――でも確実に、変わっていた。
(これって……まさか、昨日の……あの祠?)
思い出したくなかった“あの声”が、脳裏に蘇る。
「百日以内に愛されて、満たされたとき、呪いは解ける。さもなければ、お前は女になる」
まさか、冗談じゃなくて?
冗談じゃないにしても、なんで、こんなふうに?
そもそも、“愛される”って、どういう意味なんだよ。
心臓が、ドクンと鳴った。
自分のものとは思えない速さで、胸の奥が脈打っている。
「……落ち着け。大丈夫、気のせい、きっとホルモンのバランス的なアレだ……」
無理に笑おうとしても、顔がひきつる。
手のひらが汗ばんで、制服のシャツを着ると、布が胸元にほんの少し突っ張った。
違和感。けれど、それだけじゃない。
どこか、身体が“軽い”気がした。
そして、そのくせ妙に感覚が鋭くて、制服の襟が首筋に触れるだけでゾクリとした。
通学路。いつもの道。
でも今日は、誰の視線もが、妙に気になる。
(見られてる? いや、考えすぎだろ……)
それでも、何かが始まってしまったことだけは、はっきりとわかっていた。
「女になる」って言葉が、現実のものとして、俺の100日間を蝕み始めていた。
そして――
その変化は、これっぽっちも俺の許可なんか待ってくれないらしい。
──1日目、カウント開始。
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