【第17話/33日目】 悠真と歩く、ただの帰り道が苦しい
夕暮れ前の空は、少しだけ春の名残を残していた。
放課後のチャイムの余韻がまだ残るなか、俺と悠真は、学校の坂をくだっていた。
会話は、とりとめのないものばかりだった。
「そういえば、あの理科のプリント出した?」
「うわ、やべ……忘れてた」
「だと思った。俺が持ってきといて正解だったな」
そんな会話。そんなテンポ。
いつも通りの、変わらない“幼なじみ”。
だけど――
(なんで、こんなにも苦しいんだよ)
隣を歩く悠真との距離。
肩が、あと数センチで触れそうなほど近い。
何度も歩いた帰り道なのに、今日はなぜか、ひとつひとつの足音がやけに大きく感じた。
視界の端で、悠真がふと俺の方を見た。
「髪、結ぶの慣れたな。後ろ、崩れてない」
「……ありがと。結んでもらったわけじゃないけど」
苦笑しながら言ったのに、心は全然笑えていなかった。
どこかで期待してる自分がいた。
なにかを言ってほしくて、けど、言われたら怖くて。
そのくせ、言われなければ、それもまた寂しい。
(これって……なんなんだよ)
悠真の手が、ぶらりと揺れている。
自分の手と並んで、まるで何かを待っているみたいに。
「なあ、陽翔」
「……ん?」
「最近、お前のこと、ちょっとわかんねーって思うことあるんだよな」
その言葉に、鼓動が跳ねた。
「それって……どういう?」
「んー……いや、なんでもねえ」
結局、悠真はごまかすように笑って、何も言わなかった。
けどその一言は、十分すぎるほど俺の心を掻き乱した。
(“俺”じゃなくなってるのを、あいつは感じてる)
でもそれを言葉にしない優しさが、逆に残酷だった。
気づかないふりをすることが、いちばん痛いときがある。
「……ねえ、悠真」
「ん?」
「もしさ、俺が……」
そこで言葉が詰まった。
もし俺が、もう“男”じゃなかったら?
もし、もう“陽翔”じゃなくて、“陽菜”として生きることを選んだら?
――そんなこと、言えるはずなかった。
「……なんでもない」
そうやって誤魔化した声が、
妙に澄んで耳の奥に残った。
“呪い”か、“恋”か。
それを決めるのは、まだ少し先のことだと、どこかでわかっていた。
でも今は、ただ隣を歩くだけで、
息苦しくて、でも隣を離れたくない自分がいた。
──33日目。“言えない”想いが、いちばん重たかった。
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