【第14話/28日目】 思い出の祠と、破れた札
放課後、誰にも告げずに再び足を運んだ。
あの日と同じ神社、あの日と同じ、忘れられた祠。
夕日が斜めから射し込んで、石段の影を長く伸ばしている。
風の音も鳥の声も、まるで何かを遠ざけるように、やけに遠く感じられた。
静かだった。
あまりに、静かだった。
俺は、ゆっくりと祠の前にひざをついた。
記憶の底に、微かに残っていた“あの場所”。
木の枝にぶら下がった無数の結び札。
幼い手で書いた文字。にじんだインク。小さな願い。
――《けっこんしよう はると》
それが、結城遥香との“約束”だった。
「……ごめん」
誰に向けたのか、自分でも分からない。
けれど、自然と口から漏れた。
風が、ふと吹いた。
落ち葉が一枚、ふわりと祠の奥に舞い込む。
そこに、何かがあるのを見つけた。
古びた札の、破れかけた端。
紐も解け、半分以上ちぎれている。けれど、かろうじて読めた。
――《けっ……しよう は……》
間違いなかった。あのとき、俺が結んだ札だ。
「俺、忘れてたんじゃない……“捨てて”たんだ」
そう思った瞬間、胸の奥がズキンと軋んだ。
時間が経つほどに、薄れていくはずの記憶。
でも、忘れたふりをしていたのは、自分の方だった。
「約束、破ったのは……俺だ」
遥香は、あの場所にずっといた。
何年も、誰にも言わず、俺との約束を信じて待ち続けていた。
でも俺は――ただの“子供の遊び”だと、心の奥で決めつけていた。
その結果が、“今”だった。
祠に吹いた風が、破れた札を巻き上げて、空へと放っていく。
それを見上げた瞬間、目の奥がじわりと熱くなるのを感じた。
泣きたくなんか、なかった。
でも、あの札が空へ消えていくのを見ていると、何かが自分の中で崩れていく気がした。
「もう……戻れないんだな」
たとえ身体が戻ったとしても、
心だけは、もう“あの頃”に戻ることはできない。
忘れていた何かが、今、ようやく俺に追いついてきた。
──28日目。約束を破ったのは、俺自身だった。
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