【第10話/18日目】 巫女の霊が囁く“選択”の意味
日曜の午後。
誰にも言わず、俺はひとり、あの神社へ足を運んでいた。
なにかに導かれるように。
それとも、なにかから逃げるように。
踏みしめる石段の音だけが、まわりに響いている。
風のない空気の中で、草木のざわめきが遠く感じた。
そして――
“祠”の前に立った瞬間、空気が変わった。
目には見えない何かが、そっと背後から肩を撫でてくるような感覚。
次の瞬間、声が響いた。
「来たのですね」
振り返ると、そこにはまた、あの巫女の姿があった。
白と赤の装束。少し古風な顔立ち。どこか現実離れした、けれど優しい目。
「……あなた、やっぱり本物なのか」
「そうです。そして、あなたが“変わっていく”のも、本当のことです」
言葉に、否定の余地はなかった。
だって俺自身が、誰よりもその“変化”を、日々の中で感じている。
「……俺、何か悪いことしたんだよな。罰、なんだろ。これ」
「罰? ふふ、違いますよ」
微笑んだ彼女の表情に、怒りや冷たさはなかった。
あるのは、静かな優しさと、哀しみのようなもの。
「これは罰ではありません。あなたが“選ぶ”ための時間なのです」
「……選ぶ?」
「はい。たった一度きりの人生のかたちを、あなた自身の心で決めるための時間」
「でも俺は、望んでなんかない。男でいたかった。普通でいたかったのに……」
声が震えるのを止められなかった。
でも彼女は、首を横に振る。
「人はみな、“普通”という幻想の中で生きようとします。けれど本当は、自分の内側にしか正解はありません」
「あなたは、まだその“心の声”に触れていないだけ」
「けれど――いずれその声は、あなたを導くでしょう」
静かな声。けれど、それは胸の奥に鋭く突き刺さるようだった。
「忘れないでください。あなたは“変わらされている”のではなく、“変わっていく”のです」
「そして、その変化を“受け入れるかどうか”を選ぶのは、あなた自身なのですよ」
風が、そっと吹いた。
まるでその言葉を包み込むように、木々が優しく揺れる。
気づけば、巫女の姿はもうなかった。
けれど、胸の奥には確かに、彼女の言葉だけが残っていた。
呪いじゃない。これは――“選択の時間”。
その真意が、ようやく少しだけ、心に入り込んできた気がした。
──18日目。選ばされるのではなく、選ぶ。
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