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【第9話/17日目】 妹・美月の「お姉ちゃん」発言

夕方。

塾帰りの美月が、いつものように玄関から「ただいまー」と声を上げた。


俺はリビングで、課題を広げたままソファに沈み込んでいた。

体育の授業で感じた“視線”がまだ尾を引いていて、集中できるはずもなかった。


「……あれ? 陽翔、またワイシャツのボタン開いてんじゃん。ほら、これじゃ“胸”目立つって言ったでしょ?」


「……っ、うるさい、黙れ」


反射的に言い返す声が、裏返りそうになるのを必死で抑える。

それでも、美月はまったく気にする様子もなく、俺の隣に座り込んだ。


「ふーん……でもさ」


そう言って、美月は俺の顔をちらりと見て、ぽつりと呟いた。


「なんか、ほんとに“お姉ちゃん”って感じになってきたね、最近」


一拍、間が空いた。


(今、なんて……?)


顔を上げると、美月は真顔だった。

冗談でもなく、からかいでもなく。ただ、自然な感想として口にしたという表情だった。


「……お前、今、“お姉ちゃん”って言ったか?」


「うん。だって、もう“お兄ちゃん”って感じしないもん。鏡見てみ? 声も表情も、ちょっと前と全然違う」


さらっと言って、立ち上がると、冷蔵庫を開けにいった。


俺は、その場で動けなくなった。


胸が、じんわりと熱くなる。

“否定”じゃない。“嘲笑”でもない。

ただ、ありのままを見て、そう言っただけ。


でも――それがいちばん、心に刺さった。


家の中では、変化しないフリをしていたつもりだった。

美月にも、いつも通りの態度を貫いてきたつもりだった。


けど、もう隠せる段階じゃなかった。

それを、一番近くで見ていた美月が、自然に認めたという事実が、何よりの証明だった。


「……勝手に姉にするなよ」


ようやく出てきた言葉は、すごく情けなかった。


「へーい。でもそのうち、スカートも似合うようになると思うけどね~」


気楽な口調。

でも、その軽さが逆に嬉しくて――俺は、何も言い返せなかった。


──17日目。“変化”は、家の中にも届いていた。

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