第13話:進軍
その日の訓練終了後すぐさまライラは頭角を現し成長を続ける4人の騎士達を天幕へと召集した。4人の騎士達は訓練後でフラフラになりながらもその突然の召集へと馳せ参じる。天幕の中へと入るとそこにはライラだけでなくケディックとグランツ、そしてミハイルが座って待っていた。その錚々たるメンバーの顔触れに一瞬で姿勢を正す4人の新人騎士達。
「うふふ。まずは日々の訓練お疲れ様です。あなた方を呼んだのは他でもありません。今後軍議をする際はあなた方4人に召集をかけますので常に気を緩めることのないように。ではさっそく軍議を始めますので空いている席に着きなさい」
有無を言わせない雰囲気に押され、喜びを表したい気持ちを押し殺し席に着くフリオとエンディー、そしてエルトとダグラス。特にエルトは緊張と喜びで気持ちを落ち着かせるのに人一倍苦労していた。
「ではこれよりニザンツ城塞への援軍について軍議を始めます。お父様説明をよろしくお願いいたします」
「うむ。まずはこれを見てくれ」
そう言ってケディックは前に展開されていた地図のある部分を指し示す。そこにはルラン国北方とオルド国との国境線付近の山脈地帯が記されていた。
「このヘイルド山脈はルラン国とオルド国を隔てる天然の巨大な壁だ。旧帝国軍は唯一通行ができるこの場所にニザンツ城塞を建設したが、今は対帝国連合に奪われたままだ」
ケディックは地図上のヘイルド山脈を示し、滑らすようにニザンツ城塞のある場所を指し示す。その言動にフリオ達は自分達新人に向けての説明であると即座に察し、ケディックの一言一句を聞き漏らす事の無いように耳を傾ける。
「だが、今朝このニザンツ城塞を任されていたゼノース・ロドリが帝国へと寝返り、我らに援軍を要請してきた。そこでその援軍をライラに任せる。わしからは以上だ」
ケディックはライラへと目配せをし席に着く。そしてライラが前へと立ち、説明を続ける。
「この1か月、対帝国連合は即座に東マイバルに戦力を集中させ守りを固めたため睨み合いの状況が続いていましたが、ここにきてニザンツ城の裏切りにより、敵は城を落とすために戦力を分散せざるおえない状況となっています。そのため、帝国は東マイバルを落とすため主力を伴って総攻撃を開始することになりました。わたくし達は帝国軍が東マイバルを落とすまでここを守り切るための援軍となります。うふふ。ですので、失敗は許されません」
楽しそうに笑うライラとは逆にフリオ達は重責から固まった。
「明朝、ニザンツ城塞に向け進軍します。軍議終了後直ちに準備に取り掛かりなさい」
要点を伝えきり軍議は終わりを迎えようとしていた。その時新人の様子を見ていたグランツが口を開く。
「新人。わかんねぇこととかあったらどんどん聞いていけ。実践になった時に疑問を持ったままにしないことは大事だぞ。臆すな! 細かい事でも聞いていいんだからな。そのための軍議だ」
緊張をほぐすようにニカッと笑うグランツにホッとする新人達。そんなグランツに背中を押されるようにフリオは質問を口にする。
「では恐れながら、なぜゼノースは帝国へと寝返ったのですか?」
「先の戦争で対帝国連合は大軍を失い、更に身代金により経済にも大打撃を食らったために疲弊しきっています。もともとロドリ家は帝国にいた者達ですのでこれを機に帝国へと恩を売り、返り咲きと共に地位向上を狙っているのでしょう。ですが、これはわたくし達にとってもまたとない好機。逃すわけにはいきません」
「あの、ここってそんなに重要なとこなんすか?……すいません。俺にはよくわからなくて」
せっかく軍議にまで呼ばれるところまできたが、田舎から出て来たエルトにとって地理や世情には疎く、恥ずかしさから少しうつむいた。
「うふふ。エルト良い質問です。ここは天然の要塞でもあるのです。先程も説明した通り、ここは巨大な山脈が連なっているため、この場所を抑えることができれば敵の進軍を阻むことができ、かつ我々が敵国へ進軍しやすくなる場所なのです。そのため敵もニザンツ城を取り戻そうと必死で抵抗しています。ゼノースとしても恩を売るなら今寝返るのがベストなタイミングなのです」
呆れることなく答えてくれたライラにエルトは安堵と嬉しさから顔を上げる。続けてエンディーも疑問を口にする。
「俺もいいですか? そのニザンツ城の兵力とか敵の兵力ってどうなってるんですか?」
「ニザンツ城は全軍1万で籠城しているようですが、実際の戦力は8千程。敵はそれを1万5千で囲っています。いずれにせよ膠着状態が続いている状況です。ですがそれも時間の問題でしょう」
ニザンツ城の物資が尽きてしまえば敗北してしまう。その前に援軍へと赴く必要があるのだ。だが現状を知った今、不安の方が勝ってしまった。これから自分達が援軍へ行ったとしても人数的に不利な状況に足を踏み入れなければならない。しかも東マイバルを帝国が攻め落とすまでどれ程の時間がかかるのかもわからない。
更に攻撃に特化した戦い方も戦術も訓練していない新人だけの援軍で本当に戦力になるのだろうか、と思わず不安な顔を浮かべるフリオ達にライラはクスっと笑った。
「安心なさい。東マイバルへはお父様の騎士団も参陣するのです。その身をもってして教示を受けたあなた方ならその強さがわかるはず。分散された東マイバル程度、わけありません」
フリオ達は確かにと納得した。訓練に付き合ってくれているケディック騎士団からは常に底知れない余裕を感じていたし、新人達のレベルに合わせて適度に力を強化していっているのもわかっていた。
「そしてこの1か月、全力で訓練に取り組んでいたあなた方なら充分な戦力となります。うふふ。そのあなた方を指揮するのはこのわたくしです。わたくしにその身をすべて預けなさい。存分に力を発揮させ必ず勝利させます」
不敵に笑うライラに4人の胸が熱くなった。この絶対的な自信と確実に叩き出す成果に魅せられて付き従うと決めたのだ。気づけば4人の顔は明るくなっていた。そんなライラ達を見つめながらケディックは小さく微笑んだ。
軍議終了後、新人騎士達はすぐさま準備を済ませ明朝に向けて体を休めるために眠りにつく。そして目覚めるとそこにはライラからの贈り物が待っていた。
「す、すげー!! 団長! 本当にいいんすか!?」
エルト達は目を輝かせながら新調された甲冑を身につけ、与えられた馬に跨る。
「うふふ。皆、訓練をよく頑張りましたね。これは、お父様とわたくしからです」
さすがは公爵家と感激する新人達。その財力を惜しみなく自分達のために使ってくれることにも心から感謝し、喜んだ。この方達のためにも頑張らねばという思いが増す。
「新人共! 俺らのためにも頑張ってこいよ!!」
その声に振り返る新人達。相変わらず悪い笑いを浮かべ、小さく手を振っているベテラン達に雷に撃たれたように突然思い出す。
「や、やべー。そういえば俺らあの人達にめちゃめちゃ借金があるんだった……」
冷汗をかきながら決まずそうに呟くエンディーに皆も同じようにうつむく。訓練中捕虜になった者は容赦なく身代金を請求された。それはお金だけでなく酒やたばこ、更には馬を求められた者も多くない。
「し、死ぬ気で稼がないと俺ら終わるっす……!!」
涙目になり苦悶の表情を浮かべるエルト達を尻目にライラも軍馬へと跨り、しばしの別れとなる愛する父へと声をかける。
「ではお父様、行って参ります」
「あぁ。またすぐに会えよう。行ってこいライラ」
微笑みを浮かべ、小さくうなずくとライラは号令をかける。
「皆、ニザンツ城塞へ向け進軍します」
「「 はっ!! 」」
気持ちを切り替え号令に従い勇ましく進軍を開始するライラ騎士団。その成長した姿をケディック騎士団は嬉しそうに見送った。
「あいつらのためにもさっさと東マイバルを落とすとしますか! な、団長!」
快活に笑ってグランツはケディックの背中を軽く小突く。
「うむ! ではわしらも準備を済ませ進軍しようぞ」
それぞれの為すべき目的のために着々と事を進める騎士達。新人達は期待と不安を胸に勇ましい後ろ姿を見せ続ける我らが美しき団長の後を続く。




