第11話:新騎士団結成
勝利の勢いのまま敵野営地の1万を拘束、捕虜にすることにも成功し、あとは身代金を請求するために経理の整理をするだけとなったケディック騎士団は、歴史に刻まれるであろう大勝利を皆でわかちあっていた。その中心人物はもちろんこの戦場の最大の功労者でもあるライラだった。
「ライラ!! 見事だった!! やはりお前は天才だ!! 初代様が認めるのも納得な鮮やかな勝利であった!! お前がいなかったらあと3年はかかっていただろう!!」
「うふふ。お褒めのお言葉恐悦至極にございます。お父様」
あまり大口を開け笑うことをしない我らが騎士団長の娘に対する愛情と無条件の信頼にベテラン騎士達は驚いていたが、ケディックが身贔屓するだけの実力に舌を巻いた。奇抜だが説得力のある戦術、的確な指示、大胆不敵な態度。これほどまでの名将はそうそういないだろうと。
二人の親子を感嘆と見つめるベテラン騎士達の側で新人騎士達はケディック騎士団の勇猛さと鮮やかな軍事行動の数々を間近で観察でき、帝国一の騎士団たる所以をその身をもって知る事ができた感激に浸っていた。そして何より、その騎士団を先導し、見事大勝利を掴み取ったライラを見る目が180度変わるのだった。
「ライラ団長まじですげぇ!! 俺! 俺!! このまま団長について行きたい!!」
自分とそんなに歳が変わらないであろうライラにエルトは目を輝かせ心情を吐露する。そんなエルトに同意するようにフリオもうなずいた。
「……俺も、あの方について行きたい」
そんな男二人の興奮をまたしても冷静に物事を見ているエンディーは小さく溜め息をつきながらボソッと呟く。
「俺もできればあの人について行きたいけど、俺達ってケディック様の騎士団入りの試験に合格したってことだから、ケディック様の騎士団ってことじゃないの?」
別動隊を滅することに成功した新人達は確実にケディックについていくことを許されている。ケディックについて行けばこの先の安泰は確定も同然だろう。しかし、ライラの騎士団は新たに発足されたまだまだ不安定な状態。だが実力はピカイチ。短い間だったとはいえ、ライラに対する信頼と尊敬の念の芽生えたものはとても大きなものだった。新人達は顔を見合わせ沈黙する。ほとんどの者が決まり切っている2択に本気で悩んでいた。そこへ件の父娘が近づいていき、父は顔を訝しがらせながら新人達に問いかける。
「劇的な勝利をしたというのに浮かない顔だな」
新人達はその声に顔を向けた。そこには相変わらず威厳と貫禄が眩しい憧れの騎士団長と美しく微笑む神秘的とすら感じさせるもう一人の勇ましい団長が立っていた。ケディックに見劣りすることのないライラに最年少騎士のエルトの気持ちは爆発寸前まで高ぶってしまう。
「ケディック様! 俺、ケディック様の騎士団に入りたくて田舎から来たっす!……でも!! 今はライラ様について行きたい気持ちが強くて……!! その……!!」
勢いよく発言したまでは良かったが、この先を何と言っていいかわからなくなって思わず口籠ってしまったエルトを援護するようにフリオが続く。
「閣下。あなた様の御恩に報いたい気持ちも本心なのですが、ご息女様の鮮やかな手腕と自身通りの結果を出すその生き様にこの先も迷わずついて行きたいと思ってしまいました。どうかこのままご息女様...... いえ、ライラ団長に付き従う許可をいただけないでしょうか」
二人の真剣な目にエンディーも小さく笑いながら同意するようにケディックを見た。そして次々と新人達は決意を固めていき、最終的にすべての新人がライラについて行きたいとケディックを見つめた。そんな新人達にケディックは更に顔をしかめた。
「何を言っている。お前達の団長はライラだと言っただろう。わしは最初からライラの騎士団として入団させるためにお前達を取ったにすぎん」
「「「 え!? 」」」
すぐさま新人達はライラに視線を移した。
「うふふ。あぁでも言わなければ動かないと思いまして。そんなにも強い気持ちでいてくれて嬉しいです」
美しい微笑みを浮かべ続けるライラに新人達は思いきり脱力し、その場にへたり込んだ。
「ふはははははは!! まぁよい! 自らついて行きたいと思わせることは大事なことだ!! さすがは我が娘よ!! それに、臆さず口にしたお前達のこの先も大いに楽しみだ!」
ケディックの口から直接期待しているという言葉を貰い、思わず口角が上がる新人達。そんな新人達にライラは今後の方針を伝える。
「皆。これよりわたくし達は隣国、東マイバル国へ圧をかけるために、お父様方と共にここに残る事になりました。まだまだ気を緩めてはいけませんよ」
マイバル国。この国も元は栄華を誇っていた帝国の一部だった国である。今では東と西に別れてしまっているため早々に取り戻したい国だ。そしてこの国を取り戻すことは、北に位置する対帝国連合の一つ、オルド国の隣に位置するテミスト皇国を抑えるために必要な国でもあるのだ。
ルラン国を奪取した今、この東マイバル国は帝国に対して敵国が突出した形になってしまった。そのため、ここに対帝国連合の主力が集まってしまうと三方向の堅い守りが完成してしまうため、本来ならこの勝利の勢いのまま取り戻したいところではあるが、他との連携が必要不可欠のためにこの場所で様子を見るしかないのだ。
更にやっかいな事に、ルラン国の北方と敵国オルド国の間には巨大な山脈が連なっていて、その麓には旧帝国軍が建てた城塞が今なおオルド国が所有している。そのため、テミスト皇国を援助するオルド国を止めることができない状況でもあった。
そしてテミスト皇国の左隣には帝国にとって強敵であるエルバレン大国が位置していた。この強敵を抑えているのが帝国領であるスルタ国だが、このスルタ国の隣に東マイバルが隣接しているため、エルバレン大国と東マイバルとにスルタ国は戦力を分散する形になっているため慎重にならなければならない状況である。
「まずはこの場に留まり基盤を固めつつ、帝国領である西マイバルと連携を取りながら東マイバルを攻め落とす事になりそうです。いつでも動けるよう準備を怠らないようにしなさい」
「「 は!! 」」
ライラの説明に改めて気を引き締め、気合を入れる新人達は皆良い顔をしていた。
「うふふ。ではもう一つ、大事な事を伝えます。フリオ」
「は……はっ!!」
突然名前を呼ばれ、思わず声が上ずってしまったが、姿勢を正し次の言葉を待つフリオ。
「あなたの功績は目覚ましいものです。わたくしが放った偵察隊よりも偶然とはいえ早く別動隊を発見し、何より皆の士気を上げるその姿は上出来です。よってあなたを副団長に任命します」
「……!! お……私が……ですか?……っ。誠心誠意努めさせていただきます……!」
「うふふ。期待していますよ」
静かに笑って親子は天幕へと戻っていった。その後ろ姿をフリオは感激しつつ涙が出ないようグッと耐えながら見送る。一瞬の間のあと新人達は次々とフリオへ祝福の言葉をかける。なかでも一番喜んだのは幼馴染であり、フリオの苦労を誰よりも知っているエンディーだった。
「フリオ!! やったな!! お前なら絶対やれるって!! 団長は見る目あるぜ!」
「エンディー……。ありがとな」
お嬢さんではなく団長と呼ぶエンディーにフリオは嬉しくなった。どんな人物であろうと滅多に人を認めることのないエンディー。軽薄そうに見えるエンディーだが中身は公明正大なのだ。そんな本当の姿を幼い頃から知っているフリオはエンディーが認めた人物に認められたという事実も嬉しかったのだ。そして、やはりパーシバルの名を気にせずフリオという個人を買ってくれたライラに感謝と改めて尊敬が心の中を占めていく。
「~~~!! いいなぁフリオ!! 俺も団長の役に立って認められたい!!」
「まだお子ちゃまなエルト君には無理無理。もっと頑張らないといけないなぁ」
「うるさい!! ちょっと歳が上ってだけで偉そうにすんな!! お前らなんてすぐに越えてやるんだからな!!」
「越えてやるってことは自分が下だって認めるんだな?」
「てめぇ!!」
エルトとエンディーのやり取りを見ながら笑う新人騎士達。彗星の如く現れ、大勝を飾ったライラと共にきっとこの騎士団は輝かしい歴史を刻んでいく。そんな未来へ思いを馳せる新人達だった。だが、現実は残酷である。この時はまさかあんな地獄を経験していくことになるとは誰一人考えてすらいなかった。




