第66話 朝の散歩は楽しいな!
チュンチュン、チュンチュン……
「サエラスさーん、おはようございまーーっす!」
窓に向けて手を振る僕!
「まあ坊ちゃま、いつのまに」
「今日は散歩のお手伝いでーーすっ!」
「グエエエエェェェェェ~~~……」
ブランカちゃんの操縦する空中散歩、
いつも朝チュンを覗かれている僕が、
逆に覗く側になるという、いや別に寝取られてはいないが!
(そうか、こういう視点だったのかぁ)
いや、だからどうという事は無いが、
ちょっぴり新鮮だ、そして中庭を低空飛行、
後ろからも子供ドラゴンの4体がついてきている。
「一気に舞い上がります!」
「うわ、わわわわ! 重力ががが」
後ろで乗っている分には楽しいが、
操縦する方は結構大変なのだろうか、
やがてかなり高度を上げると村全体が見下ろせる。
(結構大きな村だな、そして遠くがヤバそうだ)
森の奥深く、
その上空に見える魔物の影、影、影、
ダークネスドラゴンが逃げてくるレベルなのが、もうそれだけでわかる。
「そういえば、この村って魔物に襲われたりは」
「大きな結界魔法が張られています、昔のものですが、
今居る住民でその防御を継ぎ足すくらいは出来るそうです」
説明を聞くと分散していた集落をここへ統合した際、
ひい爺ちゃん達が大きな魔法防御結界を張ったものの、
長いスパンで見れば年々、薄まっては行くが、それを魔力の高い住民で補強しているらしい。
(今の僕なら、そのお手伝いが出来そうだ)
このあたりはユピアーナ様も把握していそうだから、
やり方とか教えて貰えるならば、やってみたいかな。
「グエッ、グエエッ」
「満足したようです、戻ります」
「あわ、あわわわわ」
今度は急降下でティムモンスター小屋へ、
すいすいすいと天窓から器用に入って行く、
中では水が用意してあってごくごくと飲み始めた。
(遅れてきた子供達も……お湯は少し温い感じだ)
お腹冷えちゃうからね。
ブランカちゃんもお紅茶を淹れている、
ティムモンス小屋にまで用意されているんだ、と思っていると……
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
僕のためだった、
まだ上空は冷えるからありがたい、
真夏は気持ち良いんだろうけど……
(そうだ、ちょっと聞いてみよう)
「ブランカちゃん」
「はい」
「あっ、ブランカちゃんも、お紅茶飲んでよ」
と思ったらお水を飲み始めた、
いや白湯か、湯気が立っているのを飲み干す。
「私はこちらの方が」
「うん、それで聞いて回っているんだけど、
街の観光名所を作りたいんだ、何かアイディアあるかな」
アイテム袋から大量の『闇のキクラゲ』を餌桶に入れるブランカちゃん、
ダークネスドラゴン達がうまうま食べるのを見ながら答えてくれる。
「私は街自体、あまり滞在できないのでわかりませんが、
派手なお祭りとかは、やられていないのでしょうか?」
「うーん、奉るものがあったっけ」「それこそユピアーナ様とか」
魔神伝説を今更、引っ張り出すのか。
「本人は、いや本魔神様は一介のメイドとして過ごしたいみたいだけれど」
「それとは別で良いと思います、あくまでも偶像崇拝とでも言いましょうか」
「うーーーん、でも勇者パーティーに居た事実は公表できないんじゃ」「隠したままで」
魔神祭り、かぁ……
街の住民や観光客が乗ってくれるかどうか、
魔法花火を派手に打ち上げれば良いってことも無さそうだし。
「ありがとう、検討してみるよ」
「では散歩の続きを致しましょう」
「えっ、あっ! そっちがあったか」
奥でしれっと宝箱に擬態しているのが四体、
上部をコンコンとノックすると舌を出して目を覚ませたようだ。
「では先頭は私が乗りますので、最後部を」
「あっはい、じゃあよろしく頼むよ、ハコヨン」
名前はハコイチ、ハコニ、ハコサン、ハコヨンである。
(散歩から帰ったら、今日こそは勉強だな)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「その合成は危険じゃなかったっけ」
「あれ、でも量を均等にすれば良いんじゃ」
「ダルくん、そもそもこの物質は……」
朝食後、街の屋敷で魔法物質学の勉強、
学院に入ってから学ぶ予習を友達三人とやっている、
いや学園でもある程度は図書室で読めたが、僕はおろそかにしていた。
(だって魔法の使えなかった僕には、無関係と思っていたんだもん!)
ちなみに友達は、ちょびっとずつなら使える。
「ダル、三属性を同時に混ぜるのはよほど頭が回らないと危険みたいだぞ」
「うん、でも四属性同時なら」
「分量がシビアだからな、気を付けてくれよ」
そう言いながらも目線がずっとタマラさんの胸だぞロジャー!
まあ勉強の邪魔にはならないからいいけど、あとやっぱりツッコミが入ると捗る、
学院へ行かない三人が僕に教えてそんなに得する事は無いはずなんだけれども……
(いや、目の保養はしているか)
ちなみにこの手のスペシャリストであるナンスィーちゃんは、
言っている事が難し過ぎて僕らにはまだ早かった、
教え方を勉強してきますとか言っていたけど、僕も基礎をみっちり憶えないと。
コン、コンッ
「勉強中、失礼する」
「あっ、どうぞー」
入って来たのはアンヌさんとアンナさんだ。
「どうしたんですか、ふたり揃って」
心の中では『ふたり分離して』と思っています。
「今日は個人的にダンジョンへ潜ろうと思ってな、一応の報告だ」
「……冒険者パーティーとしてオーナーに、許可を……」
「いいのに、でもありがとう、危ないことはしないでね」
まあ大丈夫だろうけど。
「アンナさん、無理しないで」
「怪我したらダルくんが悲しむよ!」
「ダル、ちゃんと良い装備を与えてやってくれよ!」
メイドにまで心配してくれる友人、
とはいえ目線は……いや、もう言うまい。
「では行ってくる」
「行って参ります……」
「うん、ランク上げはそんなに急がなくても良いから」
でも戦闘メイドとしての腕も上げたいのだろうか、
あの姿で戦うのに慣れておく必要があるとか?
ユピアーナ様も学院への準備に余念が無いのかも。
「じゃ、続きをするよ」
「どこだっけ」「属性調合だよね」「ポーションに活用する場合はだな……」
僕らを見て微笑むタマラさん、
うん、相変わらず僕には見えるな、
タマラさんの目が……見えるメカクレ、か。
(って僕まで見惚れてる場合じゃないや)
王都まで、学院まであと18日だ。