第54話 ひょっとして暇なのか!
「おーい、おはよう」
「久々に雨降ってるね」
「ダル、どうせ一日中、家に籠ってるんだろう?」
我が街ダクスヌールの屋敷
やはり雨でも来ていた友達三人、
ここでようやく、僕は気が付いた。
(あっ、学園卒業したから、暇なのか)
三人ともこの街に就業予定だが、まだ時間がある。
「相変わらずやる事がいっぱいだよ、カイル、ディラン、ロジャーと違って」
「いやいや、取り巻きとしてこうして」「ここへ来るのも仕事みたいな」
「ダル、俺たちにも手伝わせてくれても良いんだぜ?」「はあ、ありがとう」
熱弁みたいなことを言っている三人だが、
相変わらずふたりの視線はタマラさんとアンナさんの胸部だ、
まあ、せっかくだから聞きたかったことを聞いておくかぁ。
「三人はさ、デートってどこへ行く?」
「えっ、タマラさんと?!」「アンナさんとデートしていいの?!」
「ダル、お前……物わかりが良くて嬉しいよ、タマラさんとアンナさんとデートさせてくれるなんて!!」
なんでそうなるんだよう!!
「違う違う、僕が王都で恋人にしたい相手をデートに誘えるとしたらって考えて、
三人なら例えばこの街でどんなデートをするのかなあって」
「やっぱりタマラさんと」「相手は置いといて!」「そうだな、やっぱり……」
おお、貴重な情報を聞けるか?!
「相手の女性に合わせるかな!」
「人任せかっ!」「タマラさん、どこへ行きたい?」
「そうですね、恋人相手なら、あまり人通りの多くない所が」
……タマラさん、メカクレなはずなんだけれども、
添い寝をして貰って以来ずっと僕は目が見えるようになった、
前髪ぎりぎりで隠れているはずが、逆にぎりぎりわかる……そういう闇魔法か何かなのか?
(三人に確認しようか、いやいいや話の腰を折るし)
「嫁に出たウチの姉ちゃんなら、眼鏡屋さんで眼鏡選んで貰っただけでウッキウキだった」
「あっそうか、ちなみにカイルならタマラさんにならどんな眼鏡を」
「んー、落ち着いた感じかなメイドさんだし」「あの、私は特に目が悪くは」「そうだねごめんね」
でも眼鏡をかければいつでも目が確認できるというか、
レンズの無い『ファッション眼鏡』とかいうのもあるって、
学園に居たとき聞いた覚えがあったような、これは彼氏の趣味でも付けさせられるな。
「ディランはデートへ行くなら」
「この街だと観光できる所とかあまり無いからね、
うちの両親はレストランでひたすら会話で落としたとか言ってた」
やっぱり食事かあ。
「それじゃあディランが連れて行くなら」
「散歩したあとレストランで、でもまだ奢れないかな」
「うーん、やっぱりデートだと男が出したいよね」
とは言ってはみたものの僕のお小遣いだと……
そういやウチのメイドのお給金いくらくらいなんだろ、
新しいメンバーのね、ユピアーナ様の懐から出てたら少し罪悪感が。
(あとでカタリヌさんあたりに聞くかな)
「ロジャーは?」
「ダル、好きな人と一緒に過ごす、それだけでもうデートだ」
「はあ」「妹は店を見て回るだけで楽しいって言っていたぞ」
ウィンドウショッピングとかいうやつね。
「お金が無いと、そうなるかぁ」
「ちゃんと手は繋ぐんだぞ、手を繋いで」
「大体わかった、それで三人とも、デートの経験は」
……黙り込む三人、沈黙が痛い。
(学園でも無かったのかよ!)
さすが僕の取り巻きとでもいうか、
人選を間違えたとでも言いましょうか、
かといって次期領主として、女の子紹介するとかまだできないし。
「あの、ダルマシオさま」
「はいタマラさん」
「王都なら王都でデートの場所は山ほどあるのでは、王都ですし」
そりゃそうか。
「となると王都経験者はディランだな」
「まず最初に言う、金がかかる」
「でしょうね」「遊園地と観劇と闘技場観戦が三大デートスポットらしいよ」
……街の本屋で王都の観光地紹介でも探してくるかな。
(メイドだとナンスィーさんが王都経験者か)
ユピアーナ様もだけど情報がおそらく80年前だ。
「良い事を思いついた!」
「カイル、聞かせて」
「メイドでデートの練習をしたら良いんだよ!」
……それもメイドの仕事か、
僕からすると相手はワンディちゃん一択だな、
でもまだ回収してないので……ブランカちゃんの身体が外界に適応できれば。
「ということでダル、俺たちと集団デートしようぜ」
「えっと、男は俺ら四人だよな、女性は」
「タマラさんとアンナさんと俺の妹と、あとひとりサナさんとか!!」
サナさんというのは冒険者ギルドの新人受付嬢である、まだ十七歳だっけ。
「次期領主特権でそれはなぁ」
「無理なら適当なメイドで良いよ、あのちっこい人とか」
「サンドリーヌさん? 多分うるさいぞ」「デートの内容にか?」「いや、セクシーセクシーって」
セクシーアピール禁止!
って次期領主特権で命じたいくらいだ、
いやメイドの主人として……デートでそれは良いのかっていうのはあるが。
(カイル、ディラン、ロジャーが顔を見合わせて、頷いた!)
「ということで」「王都へ出発するまでに」「デートよろしくなダル!」
「えええええ決定?!」
「ただウチの妹が学園から戻ってくる日に合わせないといけないから……」
結局、友人に押し切られてしまいました。
(まあいっか、別にウチのメイドが口説き落とされるとか無さそうだし)
いやメイドでも恋愛は自由だからね! 多分。
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「……おかえりなさい御主人様」
「あれ、アンヌさん、ずっとこっち?」
「はい、分離の練習ですね……、私が本体、あっちが魔石です」
つまり戻って来た闇の村でアンヌさんが普通に居て、
街の屋敷ではアンナさんが普通に……通りで口数が少なかったはずだ。
「意識は共有できてるの?」
「はい……、今もご友人が三人、ずっとタマラかアンナの胸を見て喋ってらしゃいますね……」
「それはそうと口調! 最近のアンヌさんじゃない!」「……長距離の分離中は片方に寄ってしまいます、まだ」
つまりアンヌさんの姿だけどアンナさんの口調っぽくなってるのか、
これをちゃんと使い分けできるように訓練中っと、色々と大変だぁ。
「それはそうと雨だけれど、僕の今日の訓練は」
「それは私がご説明を」「サエラスさん!」
「雨の日はティムモンスター小屋ですね、広さも高さも十分過ぎますから」
行くと小屋の隅ではダークネスドラゴンが丸まっていて、
子ドラゴンは村の子供達と遊んでいた、そうか雨の日は屋内公園にもなるのか。
「さあ坊ちゃま、剣を」
「あっはい、では中央で」
「終わったら私……私が、次の相手をしよう!」「アンヌさんも、よろしく」
こうしてドラゴンや子供たちの見守る中、
僕の戦闘訓練は雨でも続けられたのであった。
(学院へ出るまで、暇は無さそうだ……)