第53話 今朝は朝チュンではなくて!
ザーー、ザーーー……
(今朝は雨かぁ……)
ちゃんとした添い寝じゃなかったからという訳じゃないけれども、
こっちに来て初めての雨はいかにも寒そうだ、ベッドから出たくない。
ブランカちゃんは……うん、普通に寝てる、ごく普通に、スヤァって感じで。
(普通の、王都に憧れる女の子って感じなんだろうな)
こういう子の未来も背負っていかないといけない、
子って言っても僕よりひとつお姉さんだけどねっ!
それにしてもクール系って美人だよね、黙っていれば。
(ナンスィーさんの実験が上手くいけば、一度連れて行ってあげたいけど……)
行くならあのお母さんも一緒かなあ、
僕が学院に連れて行くメイドの年齢って、
ユピアーナ様は反則として、最年長は28歳のカタリヌさんだ。
(経験豊富で色々とまとめてくれる、執事が別で必要になってくるな)
メイドが八人を超えたら義務なんだっけ?
ちゃんと男性の相談できる人が王都で構えてくれていると助かる、
でもなあ、実家で信頼できるのって姉上ひとりだから、執事の派遣を頼むにしてもなぁ。
「グエエエエェェェェェ~~~……」
あっ、ダークネスドラゴン!
雨でも普通に参加するのか、後ろの子ドラゴンも。
操縦しているのは……おお知らない男性だ! 雨具で固めてるけどおじさんっぽい。
「……あっ、パパ」
「えっ?! ブランカちゃんおはよう」
「お、おおおおはようございます! わ、私、一緒に寝ちゃったんですよね」
指一本触れてないけどねっ!!
「……もう行っちゃった」
「あれ、パパです」
「そうなんだ」「昔は名のあるテイマーだったそうです」
じゃあ、もう引退しちゃったのか、
悪い魔女にでも捕まっちゃったのかな?
コンッ、コンッ
「御主人様、失礼をする」
「ご主人様、失礼致します……」
一緒に入って来たアンヌさんとアンナさん、
一人二役が段々と板についてきたとでも言おうか、
息が揃い過ぎだけど、ちゃんと別々のメイドに見える。
「おはよう、ってもうコレは一巡したってこと?!」
「そうなるな」「……そうですね」
「なるほど、ということは今日はブランカちゃん、ベッドの掃除をしてお休みだ」
紅い顔をして頷いているけど、
いや、本当になんにもしていないぞ?!
だから掃除も楽だね、って部屋全体の掃除もあるか。
「そころで御主人様、学院まではあと何日だ」
「21日ですが、21日後に学院へ到着していないといけないので」
「……出発はどのくらい前に」「単純に、手段にもよるけど5日~7日かかるから」
あと、途中でおそらくしなきゃいけない事も多い、
寄るのは学園もある姉上の街、そして父上母上の住む辺境伯家、
さらにはおっかない爺ちゃんの住む魔導都市……少なくともこの三か所は泊まる。
(そのうちのどこかで執事の相談もしたいけど……)
相手が力がある程、信用ができないんだよなあ、ひい爺ちゃん亡き今。
僕は父上がおっかない、でも爺ちゃんはもっとおっかなくて父上も怖がるレベル、
その爺ちゃんはひい爺ちゃんが凄くおっかなかった、が、僕にはやたらと優しかった。
(魔王退治の代償で力が無くなっても怖がってたから、よっぽどなんだろう)
だから心配しているのは、
ひい爺ちゃんが亡くなってしまったことで、
爺ちゃんや父上がより僕に対し遠慮なく、厳しくならないかという事だ。
(そのあたりは心配のないようにする、とは遺言に書いてはあったけれども)
何より『たったひとつ、何でも僕の言う事を聞いてくれる』権利はうちの爺ちゃんも担当だ。
などと回想、長考していたらアンヌさんの方から声をかえてきた。
「では残りの準備期間は14~15日くらいと考えて」
「そうですね、そこまでで、どこまで何が出来るか」
「メイドもメイドで考えるが、打ち合わせに参加して欲しい」「もちろん」
身体を整えたブランカちゃんもベッドから出る。
(いや、ほんとに何もしてないし、たぶん何もされてないよ!)
「私も連れて行っていただけるよう、頑張ります」
「うん、カタリヌさんに言っておくよ」
「推薦して下さるのですか?!」「いや、そのなんだ、ちゃんと見極めてあげてって」
さあ、朝食をいただいたら今日も訓練と勉強だ。
「あっそうだ、ユピ……アンヌさんとアンナさんって」
「「はい」」
「デートとかしたことあります?」「ユピならある」
あっ、ユピアーナさんが化けた拳闘士ね、
つまり今のアンヌさん、が当時使っていた名前である、
勇者パーティー『クリスタルパレス』のサブメンバー。
「王都でですか」
「そうなるな」
「ちなみに相手は」「勇者の甥っ子だな」
えええええええええ前々国王の?!?!
「ええっと、デートの内容は」
「手を繋いで城下町の散歩だ」
「その時の、お相手の年齢は」「七歳か八歳だ」
可愛らしいデートだこと。
「そうですか、まあデートといえばデートですね」
「焼いたのか?」「いや、僕ってデートの仕方を知らないから」
「では王都に着いたらデートをしよう」「あっはい、目立たない程度に」
メイドとデート、か。
これも一巡させられそうだけど、
将来のお嫁さん候補相手に、エスコートの練習だな。
「あ、あの、あのののあの」
「ブランカちゃん、どうしたの」
「デート、ダルマシオ様とのデート、楽しみにしておりますっ!!」
もう行く気でいるよ……。
(よし、まずは友人から『デート』について、改めて情報収集だ!!)
でも、雨でも来てるかなあ……??




