第50話 特訓、特訓、また特訓!
(あと22日かぁ……)
朝食を終えた僕はまず剣の稽古、
数日ぶりにサエラスさんにしばかれた。
「ほら坊ちゃま、五か所を防ぐイメージを!」
「あっはい、右上左上、右下左下、あと頭ですよね」
「防御を見極められれば、後は攻撃にも転用できますわ!」
なるほど、防ぐイメージは攻撃のイメージにも生かせられるのか。
とはいえ相変わらず僕は防戦一方、これ、いつまで持つかなぁ……?
グァキンッ!!
「ぐあっ、剣を弾かれた!」
「ほら、転がりながらでも良いから早く拾って!」
「はあっ、はあっ……」「本来ならば、追い打ちを受けていますよ?」
……手厳しいなあ、
なんとなく添い寝をして貰ってから、
厳しい部分はきっちり厳しくしようとしている気がする。
(情が入って、甘口になるのはまずいってことね)
まあそれは僕も望むところだ、
学院で実際にそこまで戦うことは無かったとしても、
精神面を鍛えておくに、越したことはない、僕だって男だもの。
「でやあっ!」
「出足が遅い!」
「ぐあーっっ!!」
容赦なく背中を打たれた!
「どの姿勢でも五カ所の意識を忘れずに!」
「そ、そうですね」
「早く剣を拾って!!」
……学園で友人らも含め、
女子と話していた事を思い出すな、
結婚すると夫に容赦なくなるけど、下地には絶対的な深い愛があるって。
(だからこれも、愛の剣と思って……!!)
相手はメイドだけれどもね!!
「っせいやーっ!!」
「はいはい、打ち方も躱し方も、弱くなってきましたよ」
「ま、まだまだーー!!」
こうして、へとへとになるまで、
いや、ぶっ倒れるまで剣の稽古をしたのだった。
「ふう、ふう、ふう」
「……もう時間のようです、坊ちゃま」
「あ、ありがとう、ございましたー!」
軒下にへたりこんで水をがぶ飲みしていると、
アンナさんがやってきた、そして回復魔法を……
「……良い汗を流したようですね」
「はい、サエラスさんほんっと強いです」
「最初からご主人様の、戦闘メイドとして計算されていたのでしょう」
と中庭を見ると……
「よろしくお願いします!」
「はいブランカ、容赦はしませんよ」
「私も、戦闘メイドに加えていただけるよう、頑張ります!」
あーあ、今日は僕付きメイドのはずのブランカちゃん、
メイド服で戦いはじめちゃった、サエラスさんもメイド服だけれど。
戦闘メイドかあ、学院三年生で最大、八人が同時に闘う事になる、受ければだけれど。
(よくよく考えれば、勝てば相手のメイドが貰えるって事は……)
王都で借りる屋敷がメイドせいぜい十人住めるとして、
倍の十六人とかになったらどこに住まわせれば良いのだろうか、
まさか屋根裏部屋とか、納屋とかに押し込む訳にもいかないし。
(勝って増えた場合を考えるのは、時期尚早かな)
そもそも戦わないって可能性が高いし。
「……それで、ご主人様」
「はいアンナさん、どうしました」
「落ち着いたら今度は……魔法バトルの訓練です……」
ひえええええ……
「わかりました、お手柔らかに」
「……当たっても痛くない魔法で……攻撃しますね」
こうして昼食まで、
濃厚な特訓を受けたのだった。
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「今日も来てたんだ、いや別に良いけど」
お昼、街の屋敷に友達三人が食べに来ているというので行ってみた。
(僕は聞いてないぞ、それに今日は……)
「おう、一応は顔を出さないと」
「タマラさん休みなのは知っているよ」
「ダル、アンナさんを連れて来てくれて、ありがとう!」
まったくもう、僕の取り巻きは……
別にたかられているような悲壮感は無いけれど、
こうもメイド目的があからさまだと、ねえ……まあいいけど。
(ブランカちゃんは酔うから来れないよ!)
「それで王都へはいつ出発なんだ?」
「んー、調整中かな、寄る所もあるし」
「それで俺たちはどこまで連れて行ってくれるんだ?」「えっ」
初耳である。
「ダル、俺らとダルの仲じゃないか!」
「はあ、まあ」
「取り巻きとして、ダルが不安の無い所までついて行ってやるよ!」
……ええっと、不安の無い所まで……?
普通、王都に近づくにつれて不安になって行く気が。
つまりは、王都まで連れて行けということか。
(僕をダシにして、遊びに行きたいだけなんじゃ)
「気持ちは嬉しいけど、すでにメイドが多い」
「馬車をふたつにしたらどうだ?」
「別にダルくんと別でもいいよ!」「そう、こっちにはタマラさんとかアンナさんとか」
(それが目的かあああああ!!)
うん、わかりやすくて清々しいね!
「……ま、学院じゃなく卒業した学園までならいいよ」
「いいのかタマラさんと!」
「そっちじゃなーーーい!!」
でもまあ、僕の友達らしくって良いな。
(転移魔方陣が王都まで行けるようになったら、連れて行ってあげてもいいかも)
なんだかんだ、
秘密は守ってくれる、と思う。
「じゃ、昼食はご馳走するけど、終わったら僕も特訓があるから」
「えっ、何の」「学院のクラス分けテスト、その勉強だよ」
「なら仕方ないけどアンナさんは置いてって」「俺らそれだけでいいから」
その言葉に苦笑いするアンナさんであった。
(……小一時間だけ相手させて、帰ってもらおうっと)
そういやコイツら、
闇の村は知っているのだろうか……??




