第47話 お風呂でメイドが一人二役!
「御主人様、今日は私だ」
「……ご主人様、本日は私です」
「えっと、アンヌさんとアンナさんですよね」
すなわちユピアーナ様ひとりだ、
(お風呂番は必ず二人って、そんなの僕は決めてはいないけれど……)
「これもまた練習だ」
「……今日は私が身体を洗いますね」
「あっはい、大丈夫かな」
身を任せると、それなりに……
アンヌさんが僕を洗うとアンナさんは手を添えるだけ、
アンナさんが僕を洗うとアンヌさんは手を添えるだけ。
(まだ意識が片方に寄っちゃう感じだな)
交互にやってなんとか二人同時で動こうとする、
でもこれ1人で集中してやった方が早くないか?
あえて利点を言えば、左右の移動をしなくても良いくらいか。
(でも、どっちかが魔石なんだよな、これどっちだ?)
などと考えていると左右から話し掛けられる。
「御主人様、今日まで色々と試してみたのだが」
「はいアンヌさん、何でしょう」
「アンヌとしては、口調はユピアーナに近いものとなった」
……そういえば、丁寧な言葉遣いを試した時があったっけな、
でもユピアーナさんが今後ずっとメイドを演じ続けるのであれば、
片方は、豪胆な方は素のユピアーナさんが出せる方が、良い。
「別に構いません、というかその方が『アンヌ』さんらしいです」
「良かった、ただあくまで『メイド』である立場は弁えるつもりだ」
「もうそのあたりの確認はやめましょう、また揉めたく無いですから」
続いてアンナさんが。
「……私はあくまで魔法使い、……白い皮を被った黒い魔女がメイドをしている、……と」
「なんだか悪だくみをしていそうで良いですね、僕は好きです」
「弱そうなメイドが実は底なしに強かった……、とか、やってみたいですね……」
でもなあ、すぐ強さがバレてしまいそう。
「……それと御主人様、……気付かれましたでしょうか」
「えっ何を?」
「私とアンヌ……アンヌと私の、違い……です」
見た目は全然違う、身長も身体つきも。
声の感じはまあ元が一緒だから同じだけど、
口調は頑張って変えている、強い拳闘士風と溜めてゆっくりな魔法使い風。
(あとは……今更、名前が違うとか言ったら四歳児だと思われるな)
「逆に聞くけど、何をあえて違う風にしているの?」
質問を質問で返す高等テクニック、
メイドの主人でないと許されないねっ!
「なあに御主人様、聞いての通りだ」
「……ご主人様なら、もう気付いていらっしゃるかと……」
「それをあえて、詳しく説明して貰おうかな、確認のために!」
(さあ、答えを言いたまえ!!)
「ああ、私アンヌはダルマシオ様のことを『御主人様』と呼び」
「……私アンナは、ダルマシオさまの事を『ご主人様』と呼ぶ」
「「たった今を持って、そう決めました」」「わかるかーーー!!!」
僅かなイントネーションの差じゃないか!!
そういやカタリヌさんとタマラさんも僕のこと、
微妙に『ダルマシオ様』と『ダルマシオさま』で変えてたな。
(まあいいや、好きにさせよう)
「後は、おいおい」
「……それ以外は、これから決めます」
「もう拳闘士と魔法使いで、だいぶ違うから!」
という会話をしているうちに、
僕の全身が綺麗に洗い終わったようだ。
「では御主人様、お湯を」
「……左右から交互に、アンヌと……アンナ……交代々々(こうたいごうたい)に」
「うんわかったよ、手短にね」
そして頭からざばぁー、ざばぁーーーっとかけて貰った後。
「御主人様、このあと試してみたい事があるんだ」
「……ご主人様、よろしいでしょうか……」
「なんだろ、僕の協力で、力になれる事があったら、内容によっては」
内容も聞かずに了承すれば、
何だかとーっとも悪い予感がしそうだね!
「では今からアンヌとアンナでメイド服を脱いで、一緒にお風呂に」
「……どのくらいシンクロしているか、不自然が無いか……見て、欲しい、の……」
「あーごめん、それは僕がもうちょっと(二人に)慣れてからかな、するにしても」
顔を見合わせるアンヌさんとアンナさん、
こういう事もできるんだ、まるで合わせ鏡みたいな。
「御主人様、昔、以前聞いた話なのですが」
「うん。封印前だよね?」
「……主人は全裸にしたメイドを横一列に並べて、にやにや眺めるものかと……」
(何その情報、片寄り過ぎいいいいい!!)
でもイメージとしては、
五十代くらいのおっさん貴族が面接でやっていそうだ。
「そういうのはまずひとりでやって、あっ、ふたりか、
どっちにしろ、そういうチェックはナンスィーさんあたりで」
「そのナンスィーは」「……今夜のお相手ですよね」
うん、そうらしい。
(ちょっと怖いな)
「じゃ、風呂上がりのキンキンに冷えたミルク飲みたいから、準備しておいて」
「わかった御主人様」「……魔法で冷やしておきます」
「うん、そしてその、なんていうか、距離は学院に行くまで、少しずつ近づかせて行こう?」
すでに一回、添い寝済みとはいえ。
「御主人はお望みとあらば、な」
「わかりました、脱衣所でお待ちしております……」
出て行った劇団ユピアーナ、
いや団って言っても一人二役だけれども。
(僕もこの、メイド環境に慣れないとなぁ……)
そして風呂上がり、
ミルクは本当の意味でキンキンに、
それどころかカチンコチンになっていた。
「いや解凍、解凍ーーー!!」