朝起きたらハムスターになってた
楽しい夢から田野原咲良が目を覚ますとハムスターになってた。
洞窟を抜けるように布団をてけてけと出ると、「あれっ?」と言った。
自分の部屋だ、やたら広いけど。鏡の前へ登っていって、自分の姿を認めると、「ききっ!?」と声が出た。
「おかあさーん!」
部屋を出ようとしたけどドアが開けられない。
仕方なく開けてもらえるのを待っていると、ちょうどすぐに外から開いた。
「咲良ちゃん、そろそろ起きないと学校遅れるわよ」
「おかあさん! 見て見て! あたしハムスターになっちゃった!」
「あら、かわいい」
「呑気なこと言わないでよ! あたし、これ、戻れるの? どうなっちゃうの?」
「いいじゃない。ハムスターの暮らしって楽しそうよ? それにあなた、とってもかわいいゴールデンハムスターじゃない」
「そ……、そう?」
仕方なく受け入れることにした。そのうち戻るかもしれないと信じるしかない。
おかあさんがお世話をしてくれた。うんちもしっこも勝手にどこででも出てしまうので、ありがたかった。
おかあさんが買ってきてくれた食べ物が、どれもこれも美味しそうに見えた。
ひまわりの種は油っこくてとても美味しかった。
ビーフジャーキーを両手でもって食べてると魂が抜けるような心地だった。
コオロギもジャンボミルワームも激うまだった。
受け入れてみたらハムスターはとっても楽しかった。
回し車に乗って走っているだけで充実する。
歩きながらうんちやしっこをしてるだけで楽しい。
眠くなったらとろとろに溶けて眠るのがめちゃめちゃ気持ちよかった。
ちょこちょこと動き回ってるだけで幸せだ。
悩みなんかひとつもなくて、生きてることが楽しくて仕方がない。
「おかあさん……。あたし、一生ハムスターでいい!」
「そうね。学校にも行かなくていいし、そのほうが幸せかもね」
おかあさんはにっこり笑ってそういった。
おかあさんは知らないみたいだけど、咲良は知ってた。
ハムスターの寿命は2〜3年。2年で人間の年齢に換算すると75歳になる。
それでもいいと心から受け入れて、咲良もにっこり笑った。
人間はハムスターが短命なのをかわいそうとか思うのかもしれない。
でも咲良はそのぐらいがちょうどいいことを、身をもってわかった。幸せの爆発みたいに生きて、天国に行く時も、ハムスターは幸せなのだ。