朱華と華朱
黒い炎が渦巻き、蒼い炎が打ち返す。立派な巨木が一本あるだけの見晴らしのいい丘。
ゆっくりと歩いてくる女性が一人。緋色の髪は黒い炎に巻かれ、ふわりと浮き上がる。
瞳に強い強い憎しみを宿し、過去で会ったときよりもさらに憎悪を膨らませた華朱。
黒い影が身体を護るようにまとわりついている。それが憎悪なのか、魔力なのかわからない。
「許さない……私のすべてを奪った…あなたを……」
憎悪は真っ直ぐ朱華へ向けられている。目を逸らすことができないほど、ただ朱華を見ていた。
完全に狙いは彼女だ。殺す気でいるのはすぐにわかる。
「華朱、朱華は殺させないよ。たとえ君でもね」
護るよう背に庇う柊稀。彼女を刺激するとわかっていて、彼はあえてやった。
自分が誰を選んだのか。ハッキリと彼女へ伝えるように。
沈黙が辺りを包む。ここで彼女が引き下がるとは考えられない。引き下がるぐらいなら、過去まで行かないだろう。
「……殺す」
小さく呟かれた言葉。
「じゃあ、僕が相手だ」
剣を抜けば、さすがに華朱の表情が揺らぐ。彼女にとって柊稀は大切な人。傷つける真似はしたくないのだ。
そう思う思考能力は残っていた。
「まって。私が相手する」
「朱華?」
「これは…きっと私がやるべきだから……」
自分から殺されてやろうとは、今の朱華は思わない。柊稀といたいと望み、その道を選んだ。
だから死ぬという選択肢はない。ないが、彼女の憎しみは自分が受け止めるべきだと思っていた。すべてを奪ったことは事実であるから。
「わかった。でも、やばくなったら入るよ」
「うん」
彼は護ると決めた。決めた以上、危なくなれば見て見ぬふりをするわけにはいかない。
相手が誰であろうが、どんな気持ちだろうが柊稀には譲れないことだ。
朱華はゆっくり前に出た。造られた者と、それにより居場所を失った者。二人の視線が絡む。
「私は…殺されるわけにはいかない…」
「殺すわ。絶対に!」
剣など手にしたことがなかった華朱が、たったこれだけのために短い期間で覚えたのだろう。
(誰かが教えた? 朱華の存在と、そこに本来華朱がいるはずだったことを教えた人がいて、剣術も教えたのかな)
そうでなければ、華朱が真実を知ることはなかったはずだと、柊稀は気付いてしまった。
それが邪教集団の者で、華朱がこうなることを意図的にやったのだということ。そのために剣術も教えたのだろう。
(でも、なんで?)
なぜ彼女だったのか。精霊眼があるからなのか、それがわからない。
二人の戦いを見ながら考えていた柊稀は、背中に悪寒が走った。
なにかとてつもなく強い者が見ているような、そんな感覚を感じたのだ。敵意を剥き出しにして。
どこにいるのかと探るが、見ている者はみつからない。ただ、なんとなく覚えがある気がした。
(どこで…華朱といるのか…華朱と……まさか!)
ハッとしたように見れば、黒い影が目に入る。思いだすのは黒い獣。華朱を過去へ移動させるだけの力を持つ、獣族の祖と思われる獣。
あのときより遥かに禍々しく感じる力。鋭い視線。華朱の憎悪に影響されたように強くなっている。
(邪教集団は、もしかしてあの獣が目的だったのか?)
始祖竜を狙っていたことといい、そうなのかもしれないと柊稀は結論が出た。
(そんなことのために……)
華朱が憎むように仕向けたのか。そう思うと邪教集団に腹が立つ。けれど、そのおかげで朱華と出会えたのも事実。
少し複雑な心境で柊稀は二人の戦いを見守った。二人に挟まれた自分だからこそ、しっかりと見ておかなければいけないと。
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