双狼の襲撃3
双子と二人の激しいぶつかり合い。その片隅で蒼翔が慣れない治癒魔法を使う。
「ご、ごめん。僕が避けられなかったから」
「大丈夫だ。気にするな」
辛さは見せないようにしているが、辛いはずなのだ。焼けただれた肩から背中を見れば、それぐらい蒼翔にもわかる。
「ごめん、これぐらいしかできなくて」
弓の腕だけなら誰にも負けない自信があった。けれど魔法の腕は違う。
彼女は魔法が苦手だった。風竜王の末裔ということもあり、魔力は強いのだが、強すぎる魔力をうまく使えなかったのだ。
「だから、気にするな。蒼翔がこうなるよりマシだろ」
跡が残るにしても自分は男だからいいが、女性にとなれば話は変わる。
「こんなときだけ女扱いするなー」
「わかった。これからは、ずっと女扱いすればいいんだな」
「えっ…」
さりげなく言われた言葉に、驚いたように見上げた。今、自分がなにを言われたのか理解するには、数十秒を要した。
「蒼翔、もういい。あっちに加勢する」
肩が動くのを確認し、虚空が剣を取り立ち上がる。
まだと思ったが、これ以上は蒼翔の腕では無理だとわかっていた。その代わりに、サポートをするのだと弓を握り締める。
ゆっくり立ち上がり、警戒されてないことを確認。今、虚空は完全に外れたところにいる。
どちらも双子に集中しているなら、それを利用する手はない。二人を見ながら冷静に分析していく。
(どちらから止めるか……)
厄介なのは李黄だと、彼は気付いていた。戦闘能力の高さは李黄の方が上だと。
(速さは李蒼か……属性に合わせてなのかもしれないな)
李蒼は水を属性に持つ。力は水と氷を操り、素早さがメイン。
李黄は地を属性に持つ。力は地と炎を操り、攻撃力と防御力が高い。
(だが、捉えられない李蒼よりやれるか)
どちらが捉えられるかと問われれば、李黄だと思う。そう思わせるほど李蒼の素早さはレベルが上だ。
狙う相手が決まればあとは動くだけ。虚空の足が地を蹴った。
普段、聞こえない耳の変わりに魔力を使う虚空は、豪快な魔技とは裏腹に繊細に魔力を操れる。
「捉えた!」
「くっ…」
放たれた魔力が李黄の影を捕まえ、動きを封じた。
「それで我の動きを止めたつもりか。笑わせるな!」
「光!?」
しかし身体が強く輝きだし、周囲から影を消し去ってしまう。他にも使える力があったと知り、虚空が悔しげに表情を歪めた。
一方、星霜も苦戦を強いられていた。戦い方が力押しなところもあり、李蒼を相手にするには少しばかり不利。
何度吹き飛ばされたかわかったものではない。
「まだ立つか?」
「当たり前だ!」
何回吹き飛ばされても、動きを止めるわけにはいかない。ここを任された以上、彼は最後まで持ちこたえる気でいた。
「お前が主のために動くよう、俺も譲れねぇんだよ」
頑固で真面目な堅物。星霜は黒耀をそう評価している。
子供の頃から交流があり、いつか自分の魔法槍士になる存在だと聞かされていた。ずっと見守ってきた大切な魔法槍士。
(あんなあいつは、初めて見た)
昔から表情を変えることはなく、必要なことしか話さない。そんな彼が、微かに見せた感情。
ずっと傍で見てきたからこそ、細やかな変化に気付けたのだ。
「俺も、邪魔させねぇぞ」
不敵に笑えば、李蒼が微かに笑みを浮かべる。笑うのかと少しばかり驚いたが、彼女は造られたとはいえ感情があり、思考がある。
失礼だったな、と考え直す。
刀は役立たないと判断すれば、星霜も素手に切り替える。刀を振るよりも、幾分かマシになるはずだと。
「肉弾戦もできたのか」
「町中で刀振り回せないからな」
拳と拳が空を切り裂き、受け止め、殴りかかるのを繰り返す。どちらかが蹴れば、足を掴み受け流そうとする。
刀を使っていたときよりも、まともな戦いになったような気がしなくもない。
意外と思えたのは、李蒼がフェアな戦いを望むこと。星霜は魔法が得意ではないため、合わせるように李蒼は魔法を使わない。
(あっちより、こいつの方がまともだな)
考え方も戦い方も、李蒼の方がまともだと思えた。隣で戦う姿を見れば、尚更のこと。
(まぁ、うちもか……)
半身の異常さを理解するだけに、星霜はなにも言えない。
「お互い、相棒に苦労するな」
おそらくこの苦労は彼女もだろう、と思える。どうやら互いの相棒は、同類のようだから。
「……ふむ。それは同意しよう」
李蒼も隣の戦いを見て頷いた。これは、このあとなだめるのが大変だなと思ったのだ。
しかし、それは目の前にいる青年も同じこと。いかなるときも冷静なのは、彼女の長所とも言えよう。
どんなときでも冷静に物事を判断できる。だからこそ、彼女はわかっていた。
この戦いは既に意味をなさない。相手は自分達を押さえることだけ考え、奥へ行くことは考えていないのだ。
「お前は冷静だな」
拳をぶつけ合い、互いの考えが読めたのだろう。どちらとなく動きは止まった。
「相棒があれだからな」
李黄を見ながらため息をつく。もはや目的など忘れて戦っている。
スイッチが入れば止まらないのはいつものことだとわかっていたが、さすがに呆れるというもの。
「しかし、お前も人のことは言えないな」
「あぁ、俺の相棒もあれだからな」
わかっていたのだろ、と問いかけるように見れば、李蒼は頷く。
「ほどほどで止めるしかないさ。あっちは頼むよ」
「あぁ、止めとく」
無意味な戦いだとわかっていたが、互いにほっとくと判断したようだ。止めるのが面倒だったのかもしれない。
すべての結末を見届けるよう、星霜と李蒼は丘の方を見た。どちらも仲間が気になっているのだ。
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