双狼の襲撃2
積極的に攻撃してこなかった為、彼女が防ぎに来るということを失念していた。相棒となる李黄は、雷耐性が強いと、忘れてはいけなかった。
「李蒼を傷つける奴らは、みんな許さない」
ふわりと髪を撫でる風が吹いたかと思えば、辺り一体に炎が巻き上がる。
今の雷で、彼女のスイッチが入ってしまったようだ。戦闘態勢になった李黄が、李蒼より少し劣る速さで、李蒼以上の力を見せつけてくる。
「李蒼、李黄……」
「口出しするか?」
敵意を剥き出しの李黄に、飛狛は首を振った。手出しはしない。ただ、気になっただけ。
「主の命なら、朱華を殺すことに荷担するのか? お前達は朱華の気持ちを理解できるんじゃないか?」
それがどうしても気になった。
飛狛はこの中で誰よりも知っている。李蒼と李黄がどのような経緯で造られ、どのような扱いを受けていたのか。
だからこそ、朱華のことを理解できるはずだと。
「なら、お前達に仕えるのに聞いてみろ。我らと変わらないだろ」
李蒼の言葉に、ハッとしたような表情を浮かべる。説得はできない。
説得するつもりが、納得させられてしまったと気付き、飛狛は険しい表情を浮かべる。
この二人を止めるには、力付くでやるしかない。もしくは華朱を止めるのだ。
「我らは、我らの意思で主殿に従っている。間違っていようが我らには関係ない!」
一瞬で詰められた間合い。力強く打ち付けられた李蒼の拳が、容赦なく陽霜を吹き飛ばす。
「くっ…」
なんとか叩きつけられるのを回避し、反撃しようとすればすでに目の前にいる。体制を崩したところに李蒼の蹴りが放たれる。
「やらせるかぁ!」
蒼翔の放った矢が雷を帯びて襲いかかる。弱点なら集中的に攻めてやるつもりだった。微かにでも効くのであれば、使うべきだと思ったのだ。
しかし、赤い瞳が金色に変化し弾いてしまう。次の瞬間、水の渦が周囲を氷へと閉ざす。
水と氷が荒れ狂い、視界が奪われる。
「蒼翔!」
「えっ…虚空!」
呼ばれる声で前を見れば、金色の炎が向かってくるところ。李蒼に意識が偏っていて、李黄を気にしていなかったのだ。
庇うように身体を抱き抱えられ蒼翔は、直撃を免れた。
「くっ…うっ……」
代わりに蒼翔を抱き抱えた虚空が直撃を受け、左肩から背中を焼かれる。
金色に輝く瞳で李黄が冷ややかに見下ろす。邪魔をする限り、二人は徹底抗戦するつもりだ。主が望むままに。
「黒耀お兄ちゃん、隙を作ります。先へ行ってください」
「柏羅?」
「主を止めるしかないと思います。一瞬ならみんなでやれば隙を作れます」
彼女達は主が命じない限り、決して攻撃をやめないだろう。だからこそ、先へ進む必要がある。
こちらに残る戦力を考えれば、送り出せるのは一人。
陽霜と星霜は二人で一緒という考えがあり、虚空はあの怪我では行けない。それに、耳の問題もある。
援護しかできない瑚蝶、蒼翔、莱緋は問題外だ。行くなら柏羅か黒耀しかない。
「行きたそうにしていますね。なにかあるんじゃないですか」
柏羅は気付いていた。彼が目の前の戦いより、その奥を気にしていることに。
「……あぁ。助かる」
不謹慎にも笑みを交わし、二人はすぐさま引き締めた。
事前に話はしていたのだろう。柏羅が双子へ目配せすると、了承の意を伝えるよう頷く二人。
瑚蝶、莱緋も同じように頷くと、準備は完了だ。怪我をした虚空には下がってもらうのが一番。
動くとしても、彼なら察してくれるだろう。なんの問題もない。
陽霜が李黄へ、星霜が李蒼へ同時に斬りかかる。一秒の狂いもない攻撃に、どちらも援護へ行くことはできない。
それは問題もなく、どちらもが相手を蹴り飛ばした瞬間、瑚蝶と莱緋の魔法が放たれる。
視界を奪うほどの強い光が柏羅によって放たれた瞬間、黒耀は動いていた。
「……っ」
(さすがだ)
二人の隙をついても咄嗟的に攻撃をしてきたのを見て、戦闘能力の高さを知る。この魔道生物は、敵としては非常に厄介だ。
けれど、それぐらいで動きは止まったりしない。仲間が作ってくれた大切なチャンス。
無駄にするわけにはいかないと黒耀は突き抜けた。
通り抜けた黒耀を追おうとすれば、頭上高く跳び上がり柏羅が背後に回る。
「お前らの相手は、俺らだよ」
刀を構え星霜が油断なく李蒼を見れば、応えるように戦闘体制。
「あなたは、僕だよ。ここからが……本番だ!」
目付きも雰囲気も変わり陽霜が斬りかかる。戦い方も変わった相手に、李黄が唸り声を上げた。
「ふっ、狼は狼らしくしてな!」
地面を蹴ると同時に、先手を打たれないよう李黄が動く。素早さではやはり李黄が上だ。そこで勝負をしても意味がない。
(速さでは、絶対に勝てない。狼は耳もよければ、鼻も利く。こちらは殺すわけにもいかない、か)
色々な条件が重なり、自分の置かれている状態が不利なのは理解している。それでもこの二人を相手にするには、自分と星霜が適任だと思う。
一騎打ちに持ち込めば、少なくともここで足止めぐらいはできるだろう。
(弱点は風……。けど、効くのか)
李蒼が効かないなら、李黄も効かないと考えるのが普通。そして、李黄の方が使える力も多く、強い。
陽霜にしては珍しく、不機嫌そうに舌打ちした。
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