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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
四部 朱華と華朱編
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双狼の襲撃

 激しい憎悪と殺気、なによりも強大な力が村の中に溢れる。ざわつく村人へ、落ち着くよう声をかけるライザとミルダ。


 家の中で待機するように呼び掛けながら、二人は姿が見当たらない娘を捜す。


 各家を訪ね、声をかけていれば、柊稀もいないことを知る。二人でどこかにいるのかもしれない。


「行きそうな場所は?」


 村に詳しくない仲間達は捜しようがなかった。けれど、これは間違いなく華朱の襲撃だ。


 虚空が問いかければ、二人は考え出す。夜遅くに柊稀と朱華が行くような場所だ。


「……約束の丘」


 村外れにある丘。二人の遊び場は森だったが、大人になってからはよく丘にいたことを思いだす。


 もしかするとそこにいるかもしれない。


「二人は村を守ってください。必ず、連れて帰りますから」


「そうそう! 僕らに任せて!」


 氷穂が微笑みながら言えば、蒼翔もいつもの調子で笑いながら言った。


 なにかあったときのことを考えてか、夜秋と秋星は村へ残ったが、飛狛は華朱がいるならとついていく。過去の世界まで襲撃に来た彼女が、ずっと気になっていたのだ。


 彼がここへ残りたかったのも、彼女が気になってのこと。できるなら救いたくて。


 わかっているからこそ、夜秋と秋星は付き合ってくれたのだ。


「ここから先は、行かせない」


 けれど村を出てすぐ、二人の女性が立ちはだかった。


 一人は短く切り揃えられた水色の髪に赤い瞳。とても色白だが、凛々しく感じる女性。


 もう一人は少し小柄で、短く切り揃えられた金髪に赤い瞳。対照的で褐色な肌をした無愛想な女性。


「まさか……李蒼(りそう)李黄(りおう)か?」


 驚いたように声をあげたのはユフィだが、飛狛も動揺したように二人を見ている。


 こればかりは、さすがの飛狛でも予想できない。


「懐かしいな、ユフィ」


「な、なにやってんだよ……」


「なにって、決まっているだろ。主殿の命に従っているだけだ。バカらしいこと聞くな」


 吐き捨てるように言ったのは金髪の女性。態度は酷く悪いが、目付きは鋭く相手を見ている。一瞬たりとも気を抜くことは許されない緊張感が、辺りを包んでいた。


 質問は終わりかと無言で問いかける二人。どちらも引く気はなく、戦う気だ。


「奥へ通せ」


「はい、と言うとでも?」


 黒耀と水色の髪の女性が睨み合う。主の命令は絶対だというように、彼女の意思は強い。


「主を助けたくないのか?」


 けれど、揺さぶることができるはずだと黒燿が言えば、微かに表情が変わる。


「……主殿の命令は絶対だ。邪魔はさせない!」


「李蒼!」


 渦巻く水を放つ女性に、止めようと叫ぶのはユフィ。すぐさま瑚蝶が放つ力で受け止められるが、水を突き抜けるように李蒼は姿を現す。


「やるしかないようだね」


 穏やかな笑みとは裏腹に、瞳に好戦的な輝きを宿した陽霜が刀を手にする。


 一振りすると同時に氷が刃となり襲いかかるが、その攻撃は李蒼の身体を通り抜けてしまう。


「昔とは違うみたいだね。その力をどうやって手にしたかはわからないけど」


 飛狛がよく知る二人は、まず人の姿すらしていなかった。力もそこまで強くないただの狼。


 父親がなにかをやっていて、それを知らないだけなのか。それともその後の主がやったことなのか。


 一体なにが起これば、ここまで力が上がるのか飛狛にはわからなかった。


 本来は狼の姿をしている李蒼は、圧倒的な素早さを見せる。扱う力は水だけだったが、人の姿になったことで接近戦も可能とした。


「ユフィ、こんなに強かったのか?」


 蹴り一撃で平然と虚空を吹き飛ばす李蒼に、彼は首を振る。ユフィですら、最後に見たときはこれほどの力を持っていなかった。


「なるほど。なにか仕掛けがあるのか、それとも……」


 ユフィすら知らない裏事情があるのか。どちらにしろ、厄介な相手だと黒耀は舌打ちする。


 この二人が華朱の連れである以上、殺すわけにはいかない。殺せば、彼女を説得することはできなくなるだろう。


 完全に敵となってしまう。


(どうする)


 まずはこの速さに対抗しなくてはいけない。けれど、黒耀は自分の力を理解するからこそ、速さでは劣るともわかっていた。


 ここにいる者では、狼である二人の速さには勝てない。


(琅悸がいれば、間違いなく対応できただろうに)


 いない者のことを考えても仕方ない。だが、失ったものがどれだけ大きな存在だったのか、考えずにもいられなかった。


 しばらく見ているだけだったが、水の嵐を巻き起こし、速さで圧倒する女性を前にユフィが決断した。


「瑚蝶、雷得意か?」


「得意ってほどじゃないけど、攻撃魔法は一通りやれるわよ」


 属性的な意味では苦手な部類に入る。それでも、できないなど自分のプライドが許せない。そんな理由ですべての攻撃魔法を会得していた。


「なら、ぶちこめ」


 昔と同じかはわからないが、李蒼の属性を考えれば一番効果がある。足止めはできなくても、鈍らせることはできるかもしれない。


 まずはこの速さをなんとかしなくては、まともな戦いにならないかもしれないとユフィは思っていた。


「わかったわ」


 理由を知った瑚蝶は躊躇うこともなく雷を放つ。


 自分も水を属性に持つだけに、李蒼の弱点だということはわかっていた。だからこそ使うべきなのか迷っていたのだが、この際、迷っている場合ではない。


「なっ」


「我を忘れるな。ボケたか、ユフィ」


 割り込むように李黄が入り、雷はあっさりと受け止められた。


「李黄……」


 しまったというようにユフィは表情を変える。







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