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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
四部 朱華と華朱編
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造られた家族3

 静まり返ったリビングで、なにかを聞こうとして声が出ない柊稀。表情は少しばかり強張っていた。


 色々な考えが頭を過り、怖くて聞けなかったのだ。


「私達の子供は生まれて数日で死んでしまったの。そんなとき、あなたは私達の元にやってきた」


 空から降ってきたのだと告げられれば、柏羅との出会いを思いだす。


(同じだ…)


 柏羅も空から降ってきた。けれど、柊稀は始祖竜ではない。それだけはハッキリと言える。


 彼女のような力はないし、見た目も完全に火竜族の特徴だ。


(なら……)


 自分は一体なんなのか。考えても自力で答えなんて出せないとわかりつつ、考えずにはいられない。


「お兄ちゃんは……ある意味……造られた存在です……」


 そんな中、躊躇うように柏羅が言う。


 言うべきなのかわからないが、答えを与えられるのは自分だけとわかっていたから。


「この世界には、目に見えない種族がいます。お兄ちゃん達が言うところの古代種族です」


 始祖竜も古代種族。だからこそ柏羅にはわかった。彼はその古代種族の影響を受けているのだと。


 仲間の波動を感じ、柏羅は惹かれた。無意識に彼の元へ行き、本能が彼へ助けを求めた。


「でも、悲しまないでください。お兄ちゃんは間違いなくお母さんの子供です」


「そんなはず……私は確かに……」


「きっと、二人の強い想いに惹かれたんです。蘇生させた例は聞いたことがないのですが……」


 強い想いに惹かれ、死にかけた者を救う例はあると彼女は言った。そういう種族なのだと。


 個体はほとんど残っていないため、両親の元へ現れたのは奇跡に近い。そんな事実はさすがに柏羅でも知らないこと。


「じゃあ……」


「おそらく、埋められた遺体はないですよ。古代種族とお兄ちゃんが同化しているような状態ですので」


 微笑む柏羅に、母親は涙を流し息子を抱き締めた。




 またここへ戻ってこられるとは思わなかった。邪教集団から連絡が来た日、彼女はすべてを覚悟した。裏切り者と思われようが、敵として斬り捨てられようが、それが造られた自分の運命なのだと。


 ただひとつ、殺されるなら彼に殺されたい。その願いだけは譲りたくなかった。


 丘で夜風を感じていると、朱華は走ってくる青年に気付く。


「ハァ…ハァ…待った?」


 夜にこの丘で待ち合わせをしていた。互いに家族とゆっくり過ごし、夜にちょっとだけ二人の時間を作ろうと。


「待ったよ! 遅い!」


「ごめんごめん」


 いつもの雰囲気を取り戻した朱華に、柊稀は笑みがこぼれる。


「やっぱ、朱華はその格好がいいね」


「えっ…」


 邪教集団としていたときは組織の決められた服を着て、黒いローブを身に付けていた。


 けれど、今はお気に入りである霜月の服を着ている。たったそれだけだが、柊稀には大事なことだった。


「朱華らしいよ。服装も髪型も」


 柔らかく微笑まれ、朱華は思わず頬を赤くする。


「今さら遅い! 切ったときに言いなさいよ!」


 ハッと我に返り、バシバシと背中を叩く。笑いながら平然としている姿を見てさらに叩くが、どれだけたくましくなったのか思い知るだけとなった。


 叩く女性を抱き寄せれば、すぐにおとなしくなる。


「僕が朱華を護るよ」


 囁きかける言葉は、彼の決意。ずっと背中を見てきたが、これからは違う。これからは背中に彼女を護るのだと。


 誰よりも大切な人だから、二度と手放さないようしっかりと手を握り締めておくのだ。


「俺、じゃないんだね」


「……うん」


 昔は俺と言っていた。記憶を失ってからは、なぜか僕と言うようになっていたのだ。


 朱華が襲ってきたことも、ライザが父親を殺したこともすべて忘れたかったのだろう。


 無意識に、弱くなれば戦わずに済むと考えてしまったのかもしれない。結果、彼は意図的に自分を隠してしまった。


 覚えていたら、朱華との関係が終わってしまう。終わらせたくない。そのためには、すべて忘れてしまえばいいのだと。


 すべてを思いだしたからこそ、今の柊稀はそんな風に考えている。


 思いだして、それでも自分を僕と言うのは朱華を選んだから。彼女へ、それを示すため。


「無理しなくてもいいんだよ。俺って言う柊稀も、いいと思う」


「たまにでちゃうだろうけどさ、これでいいんだ」


「そっか…」


 朱華のものだよ、と言われているようで悪い気はしない。ずっと、オリジナルがいての自分だと思っていただけに。


(私だけの家族で…私だけの柊稀……)


 いずれ華朱に返さなくてはいけない。そんな気持ちは、彼の言葉で消えてしまった。


(幸せ…)


 造られた自分がこんなにも幸せでいいのかと思うほど、このとき朱華は幸せな気持ちになれた。


「来る……」


 しかし、幸せを許さないと言うように、彼女の気配はやってくる。


「柊稀…」


「わかってる。僕は彼女を選べない。けど、助けたい」


 邪教集団のせいですべてを失ってしまった華朱を救いたい。


 一直線に放たれる憎悪を感じながら、二人の気持ちは同じであった。






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