造られた家族3
静まり返ったリビングで、なにかを聞こうとして声が出ない柊稀。表情は少しばかり強張っていた。
色々な考えが頭を過り、怖くて聞けなかったのだ。
「私達の子供は生まれて数日で死んでしまったの。そんなとき、あなたは私達の元にやってきた」
空から降ってきたのだと告げられれば、柏羅との出会いを思いだす。
(同じだ…)
柏羅も空から降ってきた。けれど、柊稀は始祖竜ではない。それだけはハッキリと言える。
彼女のような力はないし、見た目も完全に火竜族の特徴だ。
(なら……)
自分は一体なんなのか。考えても自力で答えなんて出せないとわかりつつ、考えずにはいられない。
「お兄ちゃんは……ある意味……造られた存在です……」
そんな中、躊躇うように柏羅が言う。
言うべきなのかわからないが、答えを与えられるのは自分だけとわかっていたから。
「この世界には、目に見えない種族がいます。お兄ちゃん達が言うところの古代種族です」
始祖竜も古代種族。だからこそ柏羅にはわかった。彼はその古代種族の影響を受けているのだと。
仲間の波動を感じ、柏羅は惹かれた。無意識に彼の元へ行き、本能が彼へ助けを求めた。
「でも、悲しまないでください。お兄ちゃんは間違いなくお母さんの子供です」
「そんなはず……私は確かに……」
「きっと、二人の強い想いに惹かれたんです。蘇生させた例は聞いたことがないのですが……」
強い想いに惹かれ、死にかけた者を救う例はあると彼女は言った。そういう種族なのだと。
個体はほとんど残っていないため、両親の元へ現れたのは奇跡に近い。そんな事実はさすがに柏羅でも知らないこと。
「じゃあ……」
「おそらく、埋められた遺体はないですよ。古代種族とお兄ちゃんが同化しているような状態ですので」
微笑む柏羅に、母親は涙を流し息子を抱き締めた。
またここへ戻ってこられるとは思わなかった。邪教集団から連絡が来た日、彼女はすべてを覚悟した。裏切り者と思われようが、敵として斬り捨てられようが、それが造られた自分の運命なのだと。
ただひとつ、殺されるなら彼に殺されたい。その願いだけは譲りたくなかった。
丘で夜風を感じていると、朱華は走ってくる青年に気付く。
「ハァ…ハァ…待った?」
夜にこの丘で待ち合わせをしていた。互いに家族とゆっくり過ごし、夜にちょっとだけ二人の時間を作ろうと。
「待ったよ! 遅い!」
「ごめんごめん」
いつもの雰囲気を取り戻した朱華に、柊稀は笑みがこぼれる。
「やっぱ、朱華はその格好がいいね」
「えっ…」
邪教集団としていたときは組織の決められた服を着て、黒いローブを身に付けていた。
けれど、今はお気に入りである霜月の服を着ている。たったそれだけだが、柊稀には大事なことだった。
「朱華らしいよ。服装も髪型も」
柔らかく微笑まれ、朱華は思わず頬を赤くする。
「今さら遅い! 切ったときに言いなさいよ!」
ハッと我に返り、バシバシと背中を叩く。笑いながら平然としている姿を見てさらに叩くが、どれだけたくましくなったのか思い知るだけとなった。
叩く女性を抱き寄せれば、すぐにおとなしくなる。
「僕が朱華を護るよ」
囁きかける言葉は、彼の決意。ずっと背中を見てきたが、これからは違う。これからは背中に彼女を護るのだと。
誰よりも大切な人だから、二度と手放さないようしっかりと手を握り締めておくのだ。
「俺、じゃないんだね」
「……うん」
昔は俺と言っていた。記憶を失ってからは、なぜか僕と言うようになっていたのだ。
朱華が襲ってきたことも、ライザが父親を殺したこともすべて忘れたかったのだろう。
無意識に、弱くなれば戦わずに済むと考えてしまったのかもしれない。結果、彼は意図的に自分を隠してしまった。
覚えていたら、朱華との関係が終わってしまう。終わらせたくない。そのためには、すべて忘れてしまえばいいのだと。
すべてを思いだしたからこそ、今の柊稀はそんな風に考えている。
思いだして、それでも自分を僕と言うのは朱華を選んだから。彼女へ、それを示すため。
「無理しなくてもいいんだよ。俺って言う柊稀も、いいと思う」
「たまにでちゃうだろうけどさ、これでいいんだ」
「そっか…」
朱華のものだよ、と言われているようで悪い気はしない。ずっと、オリジナルがいての自分だと思っていただけに。
(私だけの家族で…私だけの柊稀……)
いずれ華朱に返さなくてはいけない。そんな気持ちは、彼の言葉で消えてしまった。
(幸せ…)
造られた自分がこんなにも幸せでいいのかと思うほど、このとき朱華は幸せな気持ちになれた。
「来る……」
しかし、幸せを許さないと言うように、彼女の気配はやってくる。
「柊稀…」
「わかってる。僕は彼女を選べない。けど、助けたい」
邪教集団のせいですべてを失ってしまった華朱を救いたい。
一直線に放たれる憎悪を感じながら、二人の気持ちは同じであった。
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