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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
四部 朱華と華朱編
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造られた家族

 どれぐらいぶりだろう。もう何年も離れていたような、そんな気持ちになりながら柊稀は村を見渡す。


 なにも変わらないのどかな村。邪教集団がいるなんて、まるで嘘だったのではないか。そう思えてしまう。


「柊稀……」


 懐かしい故郷を前にして、朱華の表情は冴えない。ここにいていいのか、彼女はまだ迷っているのだ。


「よしよし! さっさと行こうぜ!」


「あっ、ちょっ…」


 ぐいっと引っ張り、ズカズカと村の中へ入っていく秋星。こんなとき彼の乱暴さは役立つ。


 呆れながらも夜秋が肩をすくませ、飛狛も苦笑い。


「俺も行くー!」


 賑やかにユフィが朱華の背中に飛び付けば、柊稀も笑った。二人が早く馴染めるよう、朱華に絡むのが嬉しくて。


 誰もが仲間として受け入れてくれた。造られ、邪教集団としていた朱華のことをみんなが信じてくれた。


 これほど嬉しいことは、彼にはない。


 数ヵ月ぶりの村の中、彼らは真っ直ぐ族長宅を目指した。少しでも多く、邪教集団のことを知るために。


「お父さん! お母さん!」


 傷だらけの二人を見た瞬間、朱華は駆け寄っていた。造られた存在であろうが、彼女にとっては両親なのだ。


「朱華……」


 驚きつつもしっかりと抱き止める二人は、やはり親だった。


「関係ねぇよな。造られてようが、親は親で、子は子なんだ」


「そうだね。あの家族を見ていると、そう思えるよ」


 星霜と陽霜は、微笑ましい風景に実感する。どこからどう見ても、あれは家族なのだと。


 始めは違ったかもしれない。けれど、今は間違いなく家族だ。


「ライザ様、知っていることはすべて話してもらえませんか」


 彼らがどういった役割でここにいるかわからないが、なにかしら知っているはず。


 どんな些細なことでもいいから柊稀は知りたかった。


 二人は顔を見合わせると、無言の会話を始めた。


 話さないというわけではない。彼らは話す気があるのは、見ればわかる。だから、その確認をするようなやり取りを二人はしている。


「当初、私達は怪しまれないために造られました。邪教集団の存在をまだ知られないため」


 ただの村人ならいいが、火竜族の一家がいなくなったなど大事になる。まだ存在を知られたくないため、そのための存在。


 成りすますため族長夫妻の記憶まで植え付け、けれどなにかあれば駒として動くよう、邪教集団としての知識も与えられた。


「ある日、指示が来ました。朱華のオリジナルとなる少女に村を見せると」


「それは、なぜか聞いてもいいですか?」


 なんのために村を見せる必要があるのか。村人に朱華が偽物と気付かせてしまう恐れがあるのに。


 黒耀はそれが気になった。


「精霊眼の発動を促すためだと、聞いている」


 その力を得るために、きっかけを与えるものがほしかった。


 精霊眼を発動させる必要が出たのは、彼女が連れている魔道生物のため。つまり、獣族の祖と考えられている存在のためだった。


 魔力の繋がりを作り、獣神を憎悪で染める。


「そうすることで、なにがしたかったのかは知りません。私達にはそこまでの知識は与えられなかったので」


 来る日は事前に連絡が来て、朱華を表に出すなと指示が出ていた。鉢合わせさせないためだったが、結果出会ってしまった。


「僕が、華朱と会ってしまった」


「そうよ。あの子はあなたを気に入ってしまった。目の前で殺せば、精霊眼の発動を促せる」


 計画の実行はわかりやすい合図を送る。そんな指示を最後に、しばらく連絡は絶えた。


 裏で行われていた計画も、彼らの目的も知らないと二人は話す。


「我々は、本来価値すらない末端でしかなかった。価値を得たのは、精霊眼発動の功績を得たからに過ぎない」


 それでも、末端より少し価値が上がっただけ。さらに上が邪教集団にはいるのだと語る。


 組織のトップに立つ者はさすがにわからない。二人は会ったことがないからだ。


「そう、ですか……」


 結局、朱華達が村にいた理由しかわからなかった。邪教集団の望みは、本人達から聞き出すしかないようだ。


 申し訳なさそうにする二人は、どこからどう見ても造られたようには見えない。


「我々はどんな罰も受けよう。だから、この子は許してやってくれ」


「お父さん!?」


 価値のない末端なら放置されたままだっただろう。けれど、彼らは少し上の扱いになり、組織のために動いてきた。


 やってきたことは許されることではない。罰を受ける覚悟はできていた。


「なぜ、裏切ったんだ?」


 星霜が真面目な表情を浮かべている。天竜王として、双子が判断しようとしているのだ。


「なぜ、だろうな」


「私達は……与えられた記憶に従い、夫婦のふりをしてこの子を育てました。それだけのはず、だった……。役割をただ、こなせばいい」


 不安げに見ている朱華へ微笑みかける。ミルダの表情は、子を慈しむ母親となんら変わりはない。


 造られたことなど関係ないのだ。朱華を見て、この夫婦を見て、何度思ったかわからない。






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