造られた家族
どれぐらいぶりだろう。もう何年も離れていたような、そんな気持ちになりながら柊稀は村を見渡す。
なにも変わらないのどかな村。邪教集団がいるなんて、まるで嘘だったのではないか。そう思えてしまう。
「柊稀……」
懐かしい故郷を前にして、朱華の表情は冴えない。ここにいていいのか、彼女はまだ迷っているのだ。
「よしよし! さっさと行こうぜ!」
「あっ、ちょっ…」
ぐいっと引っ張り、ズカズカと村の中へ入っていく秋星。こんなとき彼の乱暴さは役立つ。
呆れながらも夜秋が肩をすくませ、飛狛も苦笑い。
「俺も行くー!」
賑やかにユフィが朱華の背中に飛び付けば、柊稀も笑った。二人が早く馴染めるよう、朱華に絡むのが嬉しくて。
誰もが仲間として受け入れてくれた。造られ、邪教集団としていた朱華のことをみんなが信じてくれた。
これほど嬉しいことは、彼にはない。
数ヵ月ぶりの村の中、彼らは真っ直ぐ族長宅を目指した。少しでも多く、邪教集団のことを知るために。
「お父さん! お母さん!」
傷だらけの二人を見た瞬間、朱華は駆け寄っていた。造られた存在であろうが、彼女にとっては両親なのだ。
「朱華……」
驚きつつもしっかりと抱き止める二人は、やはり親だった。
「関係ねぇよな。造られてようが、親は親で、子は子なんだ」
「そうだね。あの家族を見ていると、そう思えるよ」
星霜と陽霜は、微笑ましい風景に実感する。どこからどう見ても、あれは家族なのだと。
始めは違ったかもしれない。けれど、今は間違いなく家族だ。
「ライザ様、知っていることはすべて話してもらえませんか」
彼らがどういった役割でここにいるかわからないが、なにかしら知っているはず。
どんな些細なことでもいいから柊稀は知りたかった。
二人は顔を見合わせると、無言の会話を始めた。
話さないというわけではない。彼らは話す気があるのは、見ればわかる。だから、その確認をするようなやり取りを二人はしている。
「当初、私達は怪しまれないために造られました。邪教集団の存在をまだ知られないため」
ただの村人ならいいが、火竜族の一家がいなくなったなど大事になる。まだ存在を知られたくないため、そのための存在。
成りすますため族長夫妻の記憶まで植え付け、けれどなにかあれば駒として動くよう、邪教集団としての知識も与えられた。
「ある日、指示が来ました。朱華のオリジナルとなる少女に村を見せると」
「それは、なぜか聞いてもいいですか?」
なんのために村を見せる必要があるのか。村人に朱華が偽物と気付かせてしまう恐れがあるのに。
黒耀はそれが気になった。
「精霊眼の発動を促すためだと、聞いている」
その力を得るために、きっかけを与えるものがほしかった。
精霊眼を発動させる必要が出たのは、彼女が連れている魔道生物のため。つまり、獣族の祖と考えられている存在のためだった。
魔力の繋がりを作り、獣神を憎悪で染める。
「そうすることで、なにがしたかったのかは知りません。私達にはそこまでの知識は与えられなかったので」
来る日は事前に連絡が来て、朱華を表に出すなと指示が出ていた。鉢合わせさせないためだったが、結果出会ってしまった。
「僕が、華朱と会ってしまった」
「そうよ。あの子はあなたを気に入ってしまった。目の前で殺せば、精霊眼の発動を促せる」
計画の実行はわかりやすい合図を送る。そんな指示を最後に、しばらく連絡は絶えた。
裏で行われていた計画も、彼らの目的も知らないと二人は話す。
「我々は、本来価値すらない末端でしかなかった。価値を得たのは、精霊眼発動の功績を得たからに過ぎない」
それでも、末端より少し価値が上がっただけ。さらに上が邪教集団にはいるのだと語る。
組織のトップに立つ者はさすがにわからない。二人は会ったことがないからだ。
「そう、ですか……」
結局、朱華達が村にいた理由しかわからなかった。邪教集団の望みは、本人達から聞き出すしかないようだ。
申し訳なさそうにする二人は、どこからどう見ても造られたようには見えない。
「我々はどんな罰も受けよう。だから、この子は許してやってくれ」
「お父さん!?」
価値のない末端なら放置されたままだっただろう。けれど、彼らは少し上の扱いになり、組織のために動いてきた。
やってきたことは許されることではない。罰を受ける覚悟はできていた。
「なぜ、裏切ったんだ?」
星霜が真面目な表情を浮かべている。天竜王として、双子が判断しようとしているのだ。
「なぜ、だろうな」
「私達は……与えられた記憶に従い、夫婦のふりをしてこの子を育てました。それだけのはず、だった……。役割をただ、こなせばいい」
不安げに見ている朱華へ微笑みかける。ミルダの表情は、子を慈しむ母親となんら変わりはない。
造られたことなど関係ないのだ。朱華を見て、この夫婦を見て、何度思ったかわからない。
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