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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
四部 朱華と華朱編
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帰っておいで2

「どういう…こと……」


 造られた家族とは、一体どういう意味なのか。


「まさか……」


 自分だけではない。族長夫妻も造られた存在なのか。朱華は答えを求めるように見る。


「生かしておくと思ったのか? すでにどちらも死んでいる。あの娘には獣神がいるから、生きていてもらっただけだ」


 そうでなければ、生かしておくわけがない。利用価値がない者など、自分達にはいらないと、微かに笑みを浮かべる。


「ふざけるな! 俺達はおもちゃじゃない!」


「柊稀…」


 朱華と華朱のこと。過去の神具の使い手達のこと。すべてを邪教集団がやったと思うと、彼の怒りは限界であった。


 感情を表すように溢れ出す炎に、周りは一気に戦闘体制となる。


「朱華、戦える?」


「う、うん」


「じゃあ、背中お願いね」


「……任せて!」


 思い通りになんてやらせない。二人は背中合わせに剣を握り、敵を睨み付けた。


「歯向かうか。我らはその辺の人形とは違うぞ」


 末端とは違う。そんなことを知っても、二人の決意は変わらない。むしろ、末端を人形と呼ぶことに、柊稀は嫌な予感しかしない。


(もしかしたら、末端は造られた者……)


 自分の考えにゾッとした。それだけの力が向こうにはあるのだと思えば、とんでもないのを相手にしている気分になったのだ。


 それこそ、神を相手にしているような気分だ。


 多勢に無勢の乱戦が始まる。末端じゃないだけあり、強さは今までとはまったく違う。


 人数が少なければまだやれたかもしれない。しかし、人数が多すぎて受けるので精一杯。


閃光波(せんこうは)!」


 一瞬の隙が作れればいい。朱華が辺りに目眩ましの光を放てば、二人とも反撃に移る。


緋炎竜刃(ひえんりゅうじん)!」


 燃え上がる炎をまとった剣が敵をなぎ払う。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 伏せてください!」


 柏羅の声に二人が慌てたように伏せると、頭上から降り注ぐ光の槍。同時に、二人の間に女性が降り立つ。


「黒耀お兄ちゃんがこっちに向かっています。それまでがんばれば、確実に勝てます!」


「柏羅……」


 頼もしくなった彼女に、二人は笑った。可愛い妹は、すっかり独り立ちしてしまったようだ。


 心強い仲間となった柏羅。これからも三人で過ごすために、ここはなにがなんでも切り抜けなければいけない。


 負けられないのだ。柊稀も朱華も同じことを思った。ここで負けたら、すべてが終わってしまう。


(終わらせない。柊稀と柏羅と、三人で村に帰るんだ!)


 身体にかかる負担は大きかったが、気持ちだけは強く思う。そうでもしなければ、動けなくなりそうだったのだ。


 そんなことになれば、柊稀の背中は誰が護るのか。


 柏羅は敵に迷うことなく攻撃していく。始祖竜の力はとても強かった。彼女の参戦は、二人にとって大きな救いとなったほどに。


「朱華!」


 それでも、激しい戦闘をしたあとの二度目の戦闘。疲労もダメージも大きい。


 敵は隙を見逃すほど甘くもない。ふらついた朱華の背後から迫る刃に柊稀が割り込む。


「くそっ…」


 そのまま片手で朱華を支え斬りつける。


「ごめん…柊稀……」


「朱華!」


 ぐったりと身体から力が抜けた。朱華の造られた身体に、限界がきてしまったのだ。


 それぐらいは柊稀でもわかる。造られた身体であろうが、いや、造られた身体だからこそ、動くための力が尽きてしまえば動けなくなるのだろうと。


「大丈夫です。黒耀お兄ちゃんが来ます」


「そうだね」


 黒耀が来るまでしのげばいい。彼の気配が近いのは、柊稀にも感じ取れていた。


(あと少しだ。そこまで耐えれば、朱華を抱えたままでもやれる)


 次の瞬間、駆けつけてくれた仲間は他にもいたのだと知る。三人の前に割り込んだ赤混じりの黒髪を見て。


「飛狛さん」


 まさかの助っ人に、柊稀は驚いたように見る。彼は未来に関わらないと言っていた。その言葉通り、今まで関わる素振りは見せていない。


 それが助けに入ってくるなど想定外だ。


「ついでだよ。ちょっと客が来ていたからさ」


 にっこり笑いながら、飛狛は護るように立った。こんなときでも、彼の笑みは崩れない。それがなんだか、ホッとさせた。


「過去の魔法槍士か…我々には不利だな……」


「じゃあ、帰るかい?」


 突然の乱入者に、邪教集団も動きが止まる。彼の相手をするなら、それだけの強者が必要となる。


 さすがに、今すぐ用意できるものではない。


「その場合、追わないのだろ」


「そうだね。俺は追わないよ。未来には極力干渉したくないからさ」


 他は知らないけど、と飛狛が笑う。あと数分で黒耀が到着する。彼は追うだろうと言っているのだ。


 魔法槍士である以上、逃すということはしない。


「魔法槍士も相手にはしたくないな。撤退だ!」


 精霊眼を持つ魔法槍士は厄介だ。目の前の人物が逃してくれるなら、逃げた方が得策だと考えたのか、すぐさま彼らは退いた。


「大丈夫?」


 安全が確認できたのか、青年は何事もないように振り返る。


「ありがとうございます」


 彼には、黒耀が来るまで見て見ぬふりをすることもできた。それをしなかったのは、関わらないと言いながらも気にしている証だ。


 穏やかに微笑む青年に、戦いは終わったのだと柊稀と柏羅はホッとする。ひとまず安全になったのだと。


「飛狛殿…」


「遅かったね。もう、追っても間に合わないかも」


 駆けつけた黒耀に、一応逃げていった方角を教える。普通の方法ではなく、魔法を使ったと思われる。


 見ただけで黒燿にはわかったが、追跡はできそうになかった。


「微かに痕跡はあるが、これではわからないか……」


 少し悔しげに呟くが、彼が意図的に逃がしたということは、なんとなく意味がある気がした。


(気遣われたのか、俺達が)


 戦闘には加わらない飛狛。黒耀が加わっても、戦えるのは黒耀と柏羅だけ。朱華を抱えた柊稀では、まともな戦力にはならない。


 冷静に考えれば、不利なのはこちらだとわかった。他の仲間を呼ぶ暇もなければ、合流を待つのも厳しかっただろう。


 そう判断するほど、ここにいたのは末端よりも強い者だったということだ。


「戻って休もう」


「うん…」


「お兄ちゃん!」


 気が抜けたのだ。柊稀の身体はそのまま崩れ落ちた。






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