帰っておいで2
「どういう…こと……」
造られた家族とは、一体どういう意味なのか。
「まさか……」
自分だけではない。族長夫妻も造られた存在なのか。朱華は答えを求めるように見る。
「生かしておくと思ったのか? すでにどちらも死んでいる。あの娘には獣神がいるから、生きていてもらっただけだ」
そうでなければ、生かしておくわけがない。利用価値がない者など、自分達にはいらないと、微かに笑みを浮かべる。
「ふざけるな! 俺達はおもちゃじゃない!」
「柊稀…」
朱華と華朱のこと。過去の神具の使い手達のこと。すべてを邪教集団がやったと思うと、彼の怒りは限界であった。
感情を表すように溢れ出す炎に、周りは一気に戦闘体制となる。
「朱華、戦える?」
「う、うん」
「じゃあ、背中お願いね」
「……任せて!」
思い通りになんてやらせない。二人は背中合わせに剣を握り、敵を睨み付けた。
「歯向かうか。我らはその辺の人形とは違うぞ」
末端とは違う。そんなことを知っても、二人の決意は変わらない。むしろ、末端を人形と呼ぶことに、柊稀は嫌な予感しかしない。
(もしかしたら、末端は造られた者……)
自分の考えにゾッとした。それだけの力が向こうにはあるのだと思えば、とんでもないのを相手にしている気分になったのだ。
それこそ、神を相手にしているような気分だ。
多勢に無勢の乱戦が始まる。末端じゃないだけあり、強さは今までとはまったく違う。
人数が少なければまだやれたかもしれない。しかし、人数が多すぎて受けるので精一杯。
「閃光波!」
一瞬の隙が作れればいい。朱華が辺りに目眩ましの光を放てば、二人とも反撃に移る。
「緋炎竜刃!」
燃え上がる炎をまとった剣が敵をなぎ払う。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 伏せてください!」
柏羅の声に二人が慌てたように伏せると、頭上から降り注ぐ光の槍。同時に、二人の間に女性が降り立つ。
「黒耀お兄ちゃんがこっちに向かっています。それまでがんばれば、確実に勝てます!」
「柏羅……」
頼もしくなった彼女に、二人は笑った。可愛い妹は、すっかり独り立ちしてしまったようだ。
心強い仲間となった柏羅。これからも三人で過ごすために、ここはなにがなんでも切り抜けなければいけない。
負けられないのだ。柊稀も朱華も同じことを思った。ここで負けたら、すべてが終わってしまう。
(終わらせない。柊稀と柏羅と、三人で村に帰るんだ!)
身体にかかる負担は大きかったが、気持ちだけは強く思う。そうでもしなければ、動けなくなりそうだったのだ。
そんなことになれば、柊稀の背中は誰が護るのか。
柏羅は敵に迷うことなく攻撃していく。始祖竜の力はとても強かった。彼女の参戦は、二人にとって大きな救いとなったほどに。
「朱華!」
それでも、激しい戦闘をしたあとの二度目の戦闘。疲労もダメージも大きい。
敵は隙を見逃すほど甘くもない。ふらついた朱華の背後から迫る刃に柊稀が割り込む。
「くそっ…」
そのまま片手で朱華を支え斬りつける。
「ごめん…柊稀……」
「朱華!」
ぐったりと身体から力が抜けた。朱華の造られた身体に、限界がきてしまったのだ。
それぐらいは柊稀でもわかる。造られた身体であろうが、いや、造られた身体だからこそ、動くための力が尽きてしまえば動けなくなるのだろうと。
「大丈夫です。黒耀お兄ちゃんが来ます」
「そうだね」
黒耀が来るまでしのげばいい。彼の気配が近いのは、柊稀にも感じ取れていた。
(あと少しだ。そこまで耐えれば、朱華を抱えたままでもやれる)
次の瞬間、駆けつけてくれた仲間は他にもいたのだと知る。三人の前に割り込んだ赤混じりの黒髪を見て。
「飛狛さん」
まさかの助っ人に、柊稀は驚いたように見る。彼は未来に関わらないと言っていた。その言葉通り、今まで関わる素振りは見せていない。
それが助けに入ってくるなど想定外だ。
「ついでだよ。ちょっと客が来ていたからさ」
にっこり笑いながら、飛狛は護るように立った。こんなときでも、彼の笑みは崩れない。それがなんだか、ホッとさせた。
「過去の魔法槍士か…我々には不利だな……」
「じゃあ、帰るかい?」
突然の乱入者に、邪教集団も動きが止まる。彼の相手をするなら、それだけの強者が必要となる。
さすがに、今すぐ用意できるものではない。
「その場合、追わないのだろ」
「そうだね。俺は追わないよ。未来には極力干渉したくないからさ」
他は知らないけど、と飛狛が笑う。あと数分で黒耀が到着する。彼は追うだろうと言っているのだ。
魔法槍士である以上、逃すということはしない。
「魔法槍士も相手にはしたくないな。撤退だ!」
精霊眼を持つ魔法槍士は厄介だ。目の前の人物が逃してくれるなら、逃げた方が得策だと考えたのか、すぐさま彼らは退いた。
「大丈夫?」
安全が確認できたのか、青年は何事もないように振り返る。
「ありがとうございます」
彼には、黒耀が来るまで見て見ぬふりをすることもできた。それをしなかったのは、関わらないと言いながらも気にしている証だ。
穏やかに微笑む青年に、戦いは終わったのだと柊稀と柏羅はホッとする。ひとまず安全になったのだと。
「飛狛殿…」
「遅かったね。もう、追っても間に合わないかも」
駆けつけた黒耀に、一応逃げていった方角を教える。普通の方法ではなく、魔法を使ったと思われる。
見ただけで黒燿にはわかったが、追跡はできそうになかった。
「微かに痕跡はあるが、これではわからないか……」
少し悔しげに呟くが、彼が意図的に逃がしたということは、なんとなく意味がある気がした。
(気遣われたのか、俺達が)
戦闘には加わらない飛狛。黒耀が加わっても、戦えるのは黒耀と柏羅だけ。朱華を抱えた柊稀では、まともな戦力にはならない。
冷静に考えれば、不利なのはこちらだとわかった。他の仲間を呼ぶ暇もなければ、合流を待つのも厳しかっただろう。
そう判断するほど、ここにいたのは末端よりも強い者だったということだ。
「戻って休もう」
「うん…」
「お兄ちゃん!」
気が抜けたのだ。柊稀の身体はそのまま崩れ落ちた。
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