開かれた記憶3
街中に響く金属音。剣と剣が交じり合い、崩れ落ちていく身体。
「虚空! 援護は僕に任せて!」
「あぁ。蒼翔の腕は疑いようがない」
氷漬けにされていた邪教集団。朱華が率いていた残りの者。それらが柊稀の邪魔をしないよう、彼らは街中の各地に散らばるようにいた。
虚空と蒼翔は街の東側から敵を食い止める。事前に街の詳細を聞いていた二人は、自分達が戦いやすい場所を見つけ出し、待ち構えていた。
「流星天舞!」
光の矢を空高く放てば、矢は無数の矢へ分裂し地上へ降り注ぐ。隙間を縫うように虚空は動き、次々と敵を斬っていく。
(ここは、二人で抑えなければいけない。そのための無茶はありか)
音を失うのは危険を伴う。だが、背中から援護するのは頼もしい仲間だ。
(問題ない。なにかあれば、蒼翔が必ず援護してくれる)
耳へ使う魔力を攻撃のためへ回す。虚空の中で音が消えたが、不安はどこにもなかった。
なにかあれば彼女が必ず援護してくれる。その腕を疑うことはない。
絶対的な信頼関係が、二人の間にはあるから。
街の西側で戦闘を繰り広げているのは、双子の天竜王。
「星霜、僕が前にでるよ」
「あぁ、頼む」
怪我が完全に完治していない状態。さすがに前衛で戦えるほどの余裕はない。わかっているからこそ、星霜はおとなしく下がる。
「せ、星霜様、私も援護します」
弓をぎゅっと握り締める少女。強い魔法を使い、一度は倒れた莱緋だったが、しっかりとついてきていた。
「な、なんでいるんだよ!」
想定外のことに星霜が驚く。彼女は屋敷に置いてきたはずだった。ここにいるはずがない。
「私も戦えます!」
「ふぅ。来てしまったものは仕方ない。星霜、任せるよ」
僕はみないと仕草で訴えれば、星霜がため息をついて頷く。
「離れるなよ」
「はい!」
後ろで楽をさせてもらうのだ。これぐらいは仕方ないかと諦めれば、少女を護るように立つ。
(腕前はわからねぇが、あの魔法。弓と魔法の援護は損しねぇか)
向かってくる邪教集団を見ながら、星霜は莱緋にいくつかの指示を出した。
陽霜が問答無用で襲いかかる。不規則な動きをみせるが、星霜には手に取るように読める。
合図を出すだけで莱緋が指示通りに矢を放つ。
(意外と優秀じゃねぇか)
さすが天使族と星霜は考えを改める。弓の名手が多い一族なだけあった。
少女の腕は天使族内でどうだかわからないが、彼の中では十分すぎるほどの実力。
「無理はすんなよ」
「は、はい」
ただ、実戦経験は皆無。さすがに表情は青ざめていた。
「陽霜は強い。よほどのことがない限り、これぐらい一人でやれるさ」
「えっ…」
驚いたように見上げる少女。見た目は強そうに見えない、と言いたかったのだが。
戦う姿を見て言葉を呑み込む。戦闘になると性格が変わるのかもしれない。
「あいつ、あぁなるから前衛に出したくねぇんだよ」
ため息をつきながら陽霜を見る。普段作っているからか、半身は時折豹変するのだ。
それをやりすぎないように制御できるのは星霜だけ。面倒だと言うわけにもいかず、彼は半身を見てため息をつく。
街の中心部を守るのは黒耀。一人でも彼には問題ない。むしろ一人の方がやりやすいぐらいだ。
取りこぼしはないようにしているが、いくらか通り抜けても瑚蝶がすべて倒す。
後方に待機するのは、凄腕の魔法の使い手なのだ。なんの問題もない。
(心配することは、ない)
襲ってきているのは末端。力が強い者は、おそらく朱華だけであろう。ならば問題はない。
黒耀は冷静に周りを見て観察する。邪教集団の末端だけなら、問題はない。しかし、なにか違和感を覚えていた。
見落としがあるのかもしれない。
(誰かに見張られているような……)
これが違和感の元だとわかれば、どこにいるのか敵を斬りながら探す。一体誰が見張っているのか。
――主殿、もしかすると……――
「彼女が連れている、魔道生物か」
心当たりはあった。華朱が連れている魔道生物だ。自分が黒欧に見られているのと同じ感覚である。
――はい――
柊稀と朱華がいる。華朱が見ている可能性は高い。わかっていたはずだ、と自分に言い聞かせる。
「まずいな……」
彼が朱華を選べば、華朱がどう感じるかは容易に想像がつく。急いで合流するべきか黒燿は悩んだ。
そのまま華朱との戦闘になることまでは、誰も考えていなかった。このままでは、二人が危ないかもしれない。
過去から来た三人は、氷穂と共に一番後ろで見ていた。神経を研ぎ澄ませ、どこがどんな状態かを正確に把握する。
彼らはすでに二戦している。もしものときは、動こうと思っていたのだ。
「飛狛、どちらへ」
急に歩き出した青年に夜秋が問いかけた。どこにもピンチな場所はない。
自分達が手を出す必要はないだろうに、彼はどこへいこうというのか。
「客がいるみたいだ」
「客、ですか?」
知り合いなどいない。ここは彼らが本来いるべき時代ではないのだ。誰が訪ねてきたというのか。
「だから、氷穂見といて」
にっこりと笑う可愛い甥に、夜秋がため息をつく。こんなときだけは魔法槍士でなく、可愛い甥になる。
(卑怯です……)
それをやられたら、夜秋は逆らえない。甥っ子には弱いのだ。行きなさいと言うように夜秋の手が動く。
「悪いね」
見送ってしばらくすれば、戦闘はほとんど終わった。残っているのは、柊稀と朱華が戦っていると思われる力の波動だけ。
「見届けに行きますか?」
この状態なら動いてもいいだろう。氷穂が自分と琅悸を重ねて見ているのを気付いていた夜秋は、行くかと問いかける。
「いいえ。待ちます」
けれど、彼女はきっぱりと断った。信じて待とうということだ。
それは、柊稀なら必ず朱華を連れ戻すと信じているから。そして、琅悸を必ず取り戻すのだという決意でもある。
「わかりました」
氷穂が動かないのなら、夜秋と秋星もここで待とうと決めた。二人の戦いが終わるその瞬間を――――。
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