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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
四部 朱華と華朱編
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開かれた記憶3

 街中に響く金属音。剣と剣が交じり合い、崩れ落ちていく身体。


「虚空! 援護は僕に任せて!」


「あぁ。蒼翔の腕は疑いようがない」


 氷漬けにされていた邪教集団。朱華が率いていた残りの者。それらが柊稀の邪魔をしないよう、彼らは街中の各地に散らばるようにいた。


 虚空と蒼翔は街の東側から敵を食い止める。事前に街の詳細を聞いていた二人は、自分達が戦いやすい場所を見つけ出し、待ち構えていた。


流星天舞(りゅうせいてんぶ)!」


 光の矢を空高く放てば、矢は無数の矢へ分裂し地上へ降り注ぐ。隙間を縫うように虚空は動き、次々と敵を斬っていく。


(ここは、二人で抑えなければいけない。そのための無茶はありか)


 音を失うのは危険を伴う。だが、背中から援護するのは頼もしい仲間だ。


(問題ない。なにかあれば、蒼翔が必ず援護してくれる)


 耳へ使う魔力を攻撃のためへ回す。虚空の中で音が消えたが、不安はどこにもなかった。


 なにかあれば彼女が必ず援護してくれる。その腕を疑うことはない。


 絶対的な信頼関係が、二人の間にはあるから。




 街の西側で戦闘を繰り広げているのは、双子の天竜王。


「星霜、僕が前にでるよ」


「あぁ、頼む」


 怪我が完全に完治していない状態。さすがに前衛で戦えるほどの余裕はない。わかっているからこそ、星霜はおとなしく下がる。


「せ、星霜様、私も援護します」


 弓をぎゅっと握り締める少女。強い魔法を使い、一度は倒れた莱緋だったが、しっかりとついてきていた。


「な、なんでいるんだよ!」


 想定外のことに星霜が驚く。彼女は屋敷に置いてきたはずだった。ここにいるはずがない。


「私も戦えます!」


「ふぅ。来てしまったものは仕方ない。星霜、任せるよ」


 僕はみないと仕草で訴えれば、星霜がため息をついて頷く。


「離れるなよ」


「はい!」


 後ろで楽をさせてもらうのだ。これぐらいは仕方ないかと諦めれば、少女を護るように立つ。


(腕前はわからねぇが、あの魔法。弓と魔法の援護は損しねぇか)


 向かってくる邪教集団を見ながら、星霜は莱緋にいくつかの指示を出した。


 陽霜が問答無用で襲いかかる。不規則な動きをみせるが、星霜には手に取るように読める。


 合図を出すだけで莱緋が指示通りに矢を放つ。


(意外と優秀じゃねぇか)


 さすが天使族と星霜は考えを改める。弓の名手が多い一族なだけあった。


 少女の腕は天使族内でどうだかわからないが、彼の中では十分すぎるほどの実力。


「無理はすんなよ」


「は、はい」


 ただ、実戦経験は皆無。さすがに表情は青ざめていた。


「陽霜は強い。よほどのことがない限り、これぐらい一人でやれるさ」


「えっ…」


 驚いたように見上げる少女。見た目は強そうに見えない、と言いたかったのだが。


 戦う姿を見て言葉を呑み込む。戦闘になると性格が変わるのかもしれない。


「あいつ、あぁなるから前衛に出したくねぇんだよ」


 ため息をつきながら陽霜を見る。普段作っているからか、半身は時折豹変するのだ。


 それをやりすぎないように制御できるのは星霜だけ。面倒だと言うわけにもいかず、彼は半身を見てため息をつく。





 街の中心部を守るのは黒耀。一人でも彼には問題ない。むしろ一人の方がやりやすいぐらいだ。


 取りこぼしはないようにしているが、いくらか通り抜けても瑚蝶がすべて倒す。


 後方に待機するのは、凄腕の魔法の使い手なのだ。なんの問題もない。


(心配することは、ない)


 襲ってきているのは末端。力が強い者は、おそらく朱華だけであろう。ならば問題はない。


 黒耀は冷静に周りを見て観察する。邪教集団の末端だけなら、問題はない。しかし、なにか違和感を覚えていた。


 見落としがあるのかもしれない。


(誰かに見張られているような……)


 これが違和感の元だとわかれば、どこにいるのか敵を斬りながら探す。一体誰が見張っているのか。


――主殿、もしかすると……――


「彼女が連れている、魔道生物か」


 心当たりはあった。華朱が連れている魔道生物だ。自分が黒欧に見られているのと同じ感覚である。


――はい――


 柊稀と朱華がいる。華朱が見ている可能性は高い。わかっていたはずだ、と自分に言い聞かせる。


「まずいな……」


 彼が朱華を選べば、華朱がどう感じるかは容易に想像がつく。急いで合流するべきか黒燿は悩んだ。


 そのまま華朱との戦闘になることまでは、誰も考えていなかった。このままでは、二人が危ないかもしれない。




 過去から来た三人は、氷穂と共に一番後ろで見ていた。神経を研ぎ澄ませ、どこがどんな状態かを正確に把握する。


 彼らはすでに二戦している。もしものときは、動こうと思っていたのだ。


「飛狛、どちらへ」


 急に歩き出した青年に夜秋が問いかけた。どこにもピンチな場所はない。


 自分達が手を出す必要はないだろうに、彼はどこへいこうというのか。


「客がいるみたいだ」


「客、ですか?」


 知り合いなどいない。ここは彼らが本来いるべき時代ではないのだ。誰が訪ねてきたというのか。


「だから、氷穂見といて」


 にっこりと笑う可愛い甥に、夜秋がため息をつく。こんなときだけは魔法槍士でなく、可愛い甥になる。


(卑怯です……)


 それをやられたら、夜秋は逆らえない。甥っ子には弱いのだ。行きなさいと言うように夜秋の手が動く。


「悪いね」


 見送ってしばらくすれば、戦闘はほとんど終わった。残っているのは、柊稀と朱華が戦っていると思われる力の波動だけ。


「見届けに行きますか?」


 この状態なら動いてもいいだろう。氷穂が自分と琅悸を重ねて見ているのを気付いていた夜秋は、行くかと問いかける。


「いいえ。待ちます」


 けれど、彼女はきっぱりと断った。信じて待とうということだ。


 それは、柊稀なら必ず朱華を連れ戻すと信じているから。そして、琅悸を必ず取り戻すのだという決意でもある。


「わかりました」


 氷穂が動かないのなら、夜秋と秋星もここで待とうと決めた。二人の戦いが終わるその瞬間を――――。






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