聖なる一族2
「おぉー! 未来もシェサーラの空気は変わらねぇな!」
「そうだろ、そうだろ! ここは簡単には変わらねぇよ!」
「……」
なんとか場を盛り上げようと、秋星とユフィが頑張るも、空気はあまりよくない。
誰もが琅悸の一件を引きずっているのだ。
「だぁー! いつまでもくよくよすんなよ! あれをなんとかするんだろ!」
「そうだそうだ!」
町の宿から見える竜王山を指差し、秋星とユフィが怒鳴る。すっかりいいコンビとなったよう。
このコンビに、飛狛と夜秋は一歩引いて関わらないようにした。巻き込まれたくなかったのだ。
「……そうだな。今は先に進むしかない。少し町へでて情報を得てくる」
姿を消した琅悸は気になるが、動きを止めることはできない。
「なら、私も行こう。竜王山がどうなっているか、麓街から逃げ出したのがいるかもしれない」
黒耀と虚空が立ち上がると、町へと出掛けていった。
今彼らがいるのは、竜王山の南に位置するペリーダという町。誰かが逃げてくるとしたら、ここか東のコルセアだと推測している。
西南にある町も近いが、ここは天使族が多くいる関係で、竜族が避難するとは思えなかった。
「私はシェサーラに詳しくない。黒耀の考えで動くのがいいな」
「楽をしようとするな」
「ハハハッ。考えることは任せた、魔法槍士殿」
嫌そうな表情を浮かべる黒耀。けれど、すぐに表情は険しくなる。
過去からの客人により、彼の中にあった自信は崩れ落ちた。自分よりも格段に能力の高い魔法槍士に、魔法槍士補佐官。自分の方が知識を持っているはずなのに、彼ら三人には知識面でも劣っているように感じる。
不甲斐なさを感じ、悔しくてたまらない。もっと力があれば、このような事態にはならなかったかもしれないのだ。
「俺は……魔法槍士としては失格だな」
「ならば、私は長として失格だな」
「琅悸か……」
ユフィから散々聞かされていた。彼の情報は山のようにあったはずなのだ。
二人の足がピタリと止まる。考えないようにしていても、どうしても頭の片隅に過ってしまう。
「怪我人が南の森に?」
「シャロンから来たのか?」
「かもしれないな。なんか、見覚えがあったような気がするんだ」
時間が止まったような二人に、町民の会話が聞こえてきた。
「ありゃ、天竜王だよ!」
「天使族の集落へ行ったのかもな」
ハッとしたように二人の視線が絡む。
「天使族の集落……行ってみよう」
天竜王がいるというなら、魔法槍士として保護する必要がある。また、街から逃げた民なら、中の様子がわかるはず。
どちらにしろ、その怪我人へ会いに行く必要がある。二人は頷き合い、意見が同じのを確認するなり宿へ戻っていく。
一行が町を出たのは、それから一時間とかからなかった。
「ここまで、来ちゃったんだね。柊稀……」
その姿を悲しげな表情をうかべながら、朱華が見ていたなど気付かずに。
ペリーダから南へ数日。シェサーラには珍しい森へ入れば、さらに数日ほど馬獣を走らせる。
森へ入ったという怪我人。急いで捜すべきと、とにかく彼らは急ぐ。
「誰かいる!」
慌てて馬獣を止める虚空。前方に一人の少女を見つけたのだ。噂の怪我人ではないが、知っているかもしれない。
聞こうと思い馬獣から降りて近寄った瞬間、少女は弓を構えた。
「あ、あの…近づいたら…攻撃しますよ……」
「えっ、敵じゃないんだが」
両手をあげて無抵抗を示すが、少女は構えを解く気配がない。
「あの人を…狙っているんですよね…させません……」
「だから、違うんだが…」
どうすれば信じてくれるのか。彼女の言葉からして、間違いなくこの少女は怪我人を知っている。
「覚悟してください…」
夜が放たれる。そう思った瞬間、後方から慌てたように蒼翔が走ってきた。
「待って待って! 莱緋! 僕だよ!」
「……蒼翔ちゃん?」
「うん!」
ハッとしたように周りを見て、恥ずかしそうに少女は木の影へ逃げた。
「すみませんすみません! 蒼翔ちゃんの仲間だなんて思わなかったんです!」
木から顔だけだし、少女が必死に謝る。誰も責めてはいないのだから、逆に気にするなと宥める。
それでも謝る少女に、ひたすら気にするなと言い続ける現状。
「莱緋、もういいから! ねっ!」
「う、うん」
誰も気にしていないと何度目かの説得をすれば、ようやく落ち着いたようだ。
「莱緋は、天使族の長の妹だよ。こう見えても弓の腕はすごいんだから!」
「そ、蒼翔ちゃんより、強くないよ。たまに外すし……」
次は蒼翔の後ろに隠れる少女。どうやら、人見知りしているようだ。この距離感は当分埋まらないだろう。
それはそれで可愛いな、とこの少女は見ていて思えた。
「それでね、莱緋。聞きたいことがあるんだ。怪我人こなかった?」
「えっと…」
言ってもいいのか、少女は戸惑ったように一同を見回す。
「お願い、教えて。魔法槍士殿もいるから」
何度目かわからない蒼翔の頼みで、ようやく少女は話してくれた。
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