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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
三部 神具編
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聖なる一族

 早朝の森を散歩するのは、少女の日課であった。木漏れ日を浴びながら、涼やかな風を感じて歩く。


 その風が、いつもと違い血の匂いを運ぶ。少女は怖い反面、気になってそちらへ歩いて行った。


 なにかあればすぐに里へ引き返せばいい。一族の長である兄に報告するのだと。


「誰だ!」


「キャッ」


 背後から突きつけられた刃。恐ろしいほどの殺気。鋭い視線が背後から自分を見ている感覚。


 どれもが生まれて初めての体験で、怖くて少女は涙が溢れた。やはり近づくべきではなかったと後悔したほどだ。


「女……ちげぇ…あいつじゃ、ない。天使族…か……」


 苦しげな声が耳元で聞こえたかと思えば、ドサリと音をたてて何者かは倒れる。


 このまま逃げてしまうべきか。けれど、なにか事情がありそうだ。


 勇気を振り絞って振り返った先には、見事なまでの金色の髪をした青年が傷だらけで倒れていた。


 血の匂いは彼が原因だったのだ。


 誰かに追われているのか、逃げてきたのだとすぐにわかった。少女は追っ手と思われたのだと。


(どうしよう。里に連れていったらやばいかな。でも、ほっとけないし……)


 悩む少女の前で、青年が呻く。傷が痛むのだ。見えないだけで、もっと酷いのかもしれない。


「そうだ! あそこなら」


 口笛を吹くと、一匹の雷獣が姿を現す。首に少し変わったペンダントをぶら下げた、見事な雷獣が。


「ジェイド、小屋に彼を連れていきたいの。手伝って」


「いいのか? なにがあるかわからないぞ」


 明らかに問題を抱えた青年。助ければ天使族が巻き込まれるかもしれない。それでもいいのかと問いかける。


「だから、小屋なの! あそこは兄様しか入れないじゃない」


「わかったよ。背に乗せな」


 巻き込まれる可能性は否めないが、怪我人をほっとくなどこの少女にはできない。


 いざとなれば兄がなんとかするだろう。それに、この少女を護るだけなら、自分だけでも問題ない。ジェイドと呼ばれた雷獣は、青年が背に乗せられると走り出した。




 天使族はどの種族よりも医療が発展している。専門にしていなくとも、ある程度の治療はできた。


「う、うぅー……あ、うー」


莱輝(らいき)呼んでくるか?」


「だ、大丈夫!」


 何事にも例外というものはある。珍しくも、少女は治療が苦手。さらに男性に免疫がなく、青年の裸に視線を逸らしながらやるからまったく進まない。


「くっ……」


「キャッ」


 手を強く握られ、少女が驚いたように声をあげる。


「自分で…やれ…る……」


 じっと自分を見てくる緑の瞳。警戒心が強く、まだ疑われているのだ。


「大丈夫! 私やれる!」


(おいおい……ん? こいつ、どこかで見たことがある)


 強い眼差しに、ジェイドはどこで見たのか思いだそうとしてみたが、思いだすことはできなかった。


 それよりも、悪戦苦闘しながら怪我の手当てをする少女に同情すらする。


(痛そうだ)


 扱いがあまりにも乱雑過ぎた。かなり傷が痛んだことだろう。声を漏らすことはなかったが、表情にはあからさまにでていて、ため息を漏らす。


 それからというもの、少女は朝と夜の二回、小屋へ行き青年の包帯を取り替えるのが日課となる。


「ジェイド、これでいいのよね」


「大丈夫。間違ってない」


 少しでも痛みを和らげるよう、小屋に香を炊いてみたが、少女は苦手なだけに不安だった。


 本当に効果があるのか。青年は辛そうにしていたから、余計に気になったのだ。


 包帯を交換するのも、最初のうちは警戒されていたのだが、強引にやっていた。傷が痛むのを利用して、わざと傷口を叩いたりしたのだが、そのお陰で数日もすれば大人しくしてくれた。


 もちろん、ジェイドは苦笑いしながら見ていたが。


莱緋(らいひ)、毎日どこへ行っているかと思えば」


 そんなある日、ついに兄にバレてしまった。大慌てで隠そうとしたが、隠せるわけもなく。


「兄様、その、あの……」


 なんて言い訳しようか悩んでいた莱緋の後ろを見て、兄は驚いだように見る。


星霜(せいそう)殿?」


「えっ?」


 怒られるのを覚悟していたが、どうやら兄の知り合いだったらしい。


「よぉ…あんたの…妹だったか……」


「えぇ。無事でしたか」


「俺だけ、な……」


 兄と知り合いだと知り、少女はほっとしたのもつかの間、なぜ彼が傷だらけだったのかその理由を知ることになる。


 そして、しばらく彼を看るよう兄に頼まれた。






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