凍てついた心3
剣を重ねながら、琅悸は自分が表に出るよう、彼に誘導されたのだと気付く。はじめから自分を狙っていたのだと。
過去でどのようなやり取りがあったかわからないが、間違いなく自分という存在を聞かされていたのだろう。過去で立てられた推測が当たれば、地の神具は自分だと、知った上での行動。
掌の上で踊らされていた事実に、少しばかり腹が立つ。
二人の戦いは激しく、手を出すなと言われなくとも、とてもじゃないが入り込めない。
霜瀬は強いと知らされていたが、琅悸がここまでやるとは思わなかったのだ。
仲間達は驚いたように見ている。
「あのままだと、勝てねぇな」
「そうですね。彼が、あの型をやめないと」
真剣な眼差しで見ていた双子は、冷静に判断した。あれでは勝てないと。
「なるほど、ね。あれは、殺す剣だ。でも、殺す剣で護れるわけがない。それに、迷いが酷いな」
「えっ?」
飛狛の言葉に、誰もが琅悸の攻撃を見る。迷いが酷い、とはどういうことなのか。彼のどこに迷いがあるのか。
剣を見ただけでは、意味がわからなかった。
「琅悸……」
そんな中、両手を握り締め祈るように見守る氷穂。
昔を知るからこそ、彼女も気付いていた。彼の剣が変わっていることに。
(私がいけないの?)
戦う姿を見ながら、氷穂は思う。フェンデの巫女護衛になってしまったから、彼は変わってしまったのだろうか。彼から自由を奪い、冷徹な護衛にしてしまったのかもしれない。
そんなことを考えずにはいられなかった。
剣が微かにぶれる。自分でもわかっているからこそ、そんな自分に苛立つ。心は激しく揺れ動き、止まらない。
これは今に限らず、ずっとだ。今までずっと、揺れたまま戦ってきた。
「迷いすぎだ」
「……っ」
小さく呟かれた言葉は鋭く突き刺さり、琅悸の心を刺激した。
常に冷静にしていた心がざわつく。瞳に苛立ちが沸き上がり、力強く剣を振る。
わかりやすく斬りつけた剣など、あっさりと避けられた。外れた一撃は大地を切り裂くほどの威力で、直撃すれば骨が簡単に折れてしまうだろう。
「ハァ…ハァ……」
「んー、これ……引き継がれてるのか」
「引き継がれてるぜ。兄妹そろってな」
苦笑いを浮かべる霜瀬へ、嫌そうな表情で答えるユフィ。魔力を使っての馬鹿力な攻撃。始まりは彼からなだけに、傍迷惑だったりもする。
視線で訴える精霊に、霜瀬は視線を逸らす。引き継がれるとは、考えていなかったのだ。
いざ自分がやられてみると、被害者の気分が理解できた。これは嫌がられるはずだと。
しかし、彼だからこそわかることがある。
(似ている、のか。俺がこの性格だったら、こうなったのか)
チラリと背後へ視線を向けた。仲間を見て回れば、飛狛と視線が絡む。
(なるほど)
視線での会話。彼が誰を大切にしているのか、それを飛狛の視線が霜瀬へ教える。
今の彼は足止めをするのは容易い。二人の刃が交じり合い、冷気が溢れ出す。
次の瞬間、異変を感じた琅悸が驚くほどの素早さで動く。
「琅悸!」
「霜瀬! お前!」
まさか氷穂を狙うとは思わなかったのだ。彼には意思があるのだから、戦闘に向かない者を狙うはずがない。
そんな油断がユフィにはあった。琅悸が間に合わなければ、彼女は間違いなく氷に飲まれていただろう。
「忘れたか、ユフィ。俺は……目的のためなら手段は選ばない。さぁ、その怪我でどこまでやれるかな」
「くっ…」
血が草を染めるように落ちていく。右肩を完全にやられてしまったのか、剣を握る手にも力がうまく入らなくなっていた。
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