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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
三部 神具編
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凍てついた心2

 広い、広い野原のような空間。奥に森があり、山がある。穏やかな風が吹く異次元。


 神殿内で感じた冷気が嘘のような場所に、さすがにみな驚く。すぐさま攻撃がくると思っていただけに、気が抜けてしまう。


霜瀬(そうらい)……」


 木に寄りかかる青年が一人。腕を組み、目は閉じられている。青緑の長い髪は束ねられ、風に揺れていた。


 姿を見た瞬間、ユフィは悲しげに呟く。かつての仲間が敵として立ちはだかる。


 たとえ造られた存在でも、二度目の死を見なくてはいけなく、今の仲間との戦いを見なくてはいけない。


 気配を感じ、青年の目がゆっくりと開いていく。水色のきれいな瞳が、鋭く一同を射抜く。


 よく見てみれば、足元には神具である護魂の斧が突き立てられていた。身体がゆっくり木から離れ、その左手が斧を手にする。


 一連の動きをする間すら、隙などどこにも見当たらない。それだけで、相手の力量はわかるというもの。


 斧を手にするところまでは、誰もが見えていた。次の瞬間、一瞬で衝撃波が襲いかかる。


「うわっ」


「くっ」


 先頭にいた柊稀、黒耀、虚空が吹き飛ばされないように踏ん張る。いつの間にか斧は振られており、その衝撃が襲い掛かってきたのだ。


「危ない!」


 黒耀へ斬りかかる姿を見て、すぐさま蒼翔が矢を放つ。


「キャッ!」


 足元から突き上げる氷の塊。慌てて避ければ、黒耀と霜瀬の刃が交じり衝撃が周囲を襲う。


「くっ…強い……」


 足元がジリジリと押されていく。神具の力だけではなく、使い手が持つ力の強さを感じ取り、黒耀の内心は焦りが生じる。


 目の前にいる人物は、以前戦った白秋と同格であり、また違う強さを持っている。厳しい戦いだと、黒耀は冷静を取り戻すように息を吐く。


「黒耀!」


 横から隙を突こうと虚空が斬りかかれば、霜瀬は一歩後ろへ跳びそのまま虚空へ斬りかかる。


 無防備な横側からくる攻撃に、黒耀が補佐するように隙間から槍を突き刺した。


 斧で受け止められた瞬間、二人まとめて吹き飛ばされてしまう。


 次の動きに入る前に、今度は柊稀が斬りかかる。


(この人、白秋さんと同じぐらい強い!)


 一撃で相手の力を理解し、柊稀は内心恐怖した。白秋ですら、ハンデをもらって勝ったのだ。


 ハンデなしで彼に勝てるのか。黒耀ですら白秋相手に苦戦した。霜瀬に対しても苦戦するだろう。


 人手は多いが、それでも自分達が不利な気がした。


「離れろ!」


 その声に柊稀が慌てて離れる。と同時に、琅悸の一撃が霜瀬を吹き飛ばす。


 ユフィに言われた通り動くのは、正直気分的には良くない。けれど、目の前の相手は強い。黒耀ですら苦戦するほどに。


(本気で、か……。どうするかな)


 自分が倒さなくてはいけないわけでもない。ただ、神具を取り戻すだけが役割。


 倒す手伝いをするだけにするか、自分が表に立つか。琅悸はこの期に及んで、まだ悩んでいた。


(黒耀と虚空でこれか……やはり、手を出すべきか……)


 踏み込むのを見れば、琅悸が剣を構える。剣と斧が重なり合い、身体が押された。


 神具の破壊力は、斧である地の神具が一番。さらに、使い手の力が加われば威力は、それは尋常ではない。


 押された姿に、背後から仲間が援護しようと動き出す。


 しかし次の瞬間、驚くようなことが起きた。


「動くな!」


 造られた存在である霜瀬が、背後に向けて怒鳴ったのだ。


 突然のことに、誰もが驚く。さすがに琅悸も驚いたように目の前を見た。


「やっぱり、意思があったか」


 ただ一人、ユフィだけが違う。


「当然だ。白秋の仕掛けに手を貸したのは、俺だからな」


 ユフィは動きを見て確信していた。動きを見なくても、そうじゃないかと思っていた。


 白秋の話を聞き、なんとなく彼はやらかすのではないかと思っていたのだ。


「非常識な奴らだな」


「でも、やると思っていたんだろ。お前は、俺をよくわかっているからな」


 一度斧を戻し、目の前の青年が不敵に笑う。


「わかってたさ。聞いたとき、絶対にお前が関わってると思った。だから、琅悸に一騎討ちしろって言ったんだ。造られたお前なら、みんなでやればどうにかなるが、違うなら絶対に無理だ。お前に対抗できるのは、琅悸だけ」


「ユフィ……」


 誰もが言葉を失うようなことを、彼は平然と言った。


 ニヤリと笑う青年は、本当に彼と親しかったのだと思う。


「お前がそこまで言うなら、それだけ強いんだよな」


「……」


 そこで表情が歪む。ハッキリと言えない。昔ならわかるが、今の彼は勝てないだろう。


 傍で見てきたからこそ、ユフィは断言できた。見てきたからこそ、だから彼と戦うことで取り戻そうとしていた。これは最大のチャンスだと。


「……なるほどな。よくわかった」


 表情だけでなにかを察した霜瀬は、乗るべきかと考える。


「ちなみに、どうでもいいこと聞いていいか」


「父さんをやったのなら、そこにいる柊稀だよ。精霊眼は封じて、だけど」


 それが気になるのだろ、と言うように飛狛が口を挟む。


「…ふっ」


 視線が柊稀に向けられると彼は笑った。なにかを楽しむような笑み。意味に気付けたのは、過去から来た三人と、彼を知るユフィや黒欧だけだろう。


「向こうで出会いたかったかもしれないな」


「オルドに引きこもってる霜瀬さんがいけないんだよ」


 だから楽しいことを逃したのだ、と飛狛に言われてしまえば、霜瀬は笑うだけ。彼にとっては妻が一番なだけに、なら仕方ないと思ったのかもしれない。


「じゃあ、やるか。後ろにいる連中は手を出すなよ。危なくなったら、まぁ、たぶんユフィがなんとかするさ!」


 言いきると同時に、霜瀬は琅悸へ斬りかかった。






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