覚醒した炎5
とても不思議な空間だと思う。神具の中には色々なものが宿っているのだ。
おそらく、初代火竜王のものだろう気持ち。それ以降の使い手がいたこともわかった。神具を使った者が、初代と白秋以外にもいるのだ。
その中でも気になるのは、やはり白秋のものだろう。彼の気持ちは痛いほどに焼き付いていた。
(なんだろ。すごく苦しくなる……)
大切な者を拒絶した後悔で占められた感情。彼にこのようなものがあるとは思わず、柊稀は酷く驚いた。
白秋の感情に、自分へのなにかは一切ない。誰かに対しての感情しかないのだ。常に誰かのために苦しみ、行動していたのだとわかる。
(あの人の強さは、ここからくるのかな)
そんなことを考えながら、感情に飲み込まれないように魔力を広げきった。すべてを塗り替えるのではなく、すべてを抱えたままこの力を取り戻そうと。
神具の変化は、外から見ている分には数分のことだった。
変化を始めると同時に、柏羅の身体がふわりと浮き上がる。腕輪が赤く輝きだし、白い光が柏羅の身体を包む。
力を取り戻したことにより、少女の身体が一回りも大きく成長したのだ。
「我が力を取り戻すまで…残りは三つ…世界は安定に向かっている……」
「始祖竜としての力が戻れば、姿も変わっていくのね。本来は大人の女性ってことかしら」
まだどちらかといえば少女といった外見。すべての力が戻れば、また変わるのだろう。
槍術の伸びがよかったのも、徐々に力を取り戻した結果だったのかもしれない。
「やべっ」
崩れ落ちた柊稀を見て、秋星がすぐさま受け止めに行く。
激しい戦闘に、神具を取り戻すために使った魔力。限界を越えたのだろう。柊稀は気を失っていた。
「そりゃ、こうなるか」
笑いながら身体を抱えると、秋星は町へ行こうと促した。
バーバラの町へ引き返した一行。柊稀を寝かせれば、別の部屋にみんな集まっていた。
「えっと、どうするの?」
どう聞くべきなのか悩みつつ、瑚蝶が訊ねる。過去から来た客人を帰す方法など、想像もつかない。
少なくとも、瑚蝶にはそんな手段をもっていなかった。
「どうすっかなぁ。なぁ、飛狛」
「……」
「飛狛? 聞いていますか?」
「えっ? あぁ、ごめん。方法は柊稀と同じやり方でいいはずだ。ただ、それをやれるだけの魔力と魔法の使い手が問題で……」
闇の神具もあり、次元を越えられる火炎山はすぐそこにある。あとは術を使える者さえいればいい。
「その姉ちゃんいるじゃん」
あれだけ魔法が使えれば、問題はないだろうと秋星が言う。
魔法の使い手としては、この双子を遥かに凌ぐ。少し見ただけでも十分にわかった。
「……残りたいのですね」
「はっ? 未来に残っても、俺らはなんもできねぇぞ」
関与するわけにはいかない。未来の出来事は未来にいる者だけで、解決するべきだ。
「わかってる。けど、結末を見たいんだ」
言葉の正確な意味を理解したのは、夜秋、秋星、黒欧の三人だけであろう。
――私が言うべきではないですが、見届けるべきかと。あなたが、後悔しないために――
「変な感じだな。未来じゃ相棒じゃないんだもんな」
黒欧に話しかけられ、苦笑いを浮かべる。この関係はなんと言えばいいのか思い付かない。
ただ、関係は変わっているが、自分を理解している存在に変わりないのだけはわかった。
「過去の客人に手助けは頼まない。だから、好きにすればいい」
見届けたいのなら、それもいいと黒耀は思う。魔法槍士であり、補佐官である三人は考えることも理解できる。
必要以上に三人が関わることがないと断言できたし、なによりも、彼らは柊稀と関わってしまった。
「なら、少しばかり世話になろうかな」
「マジかよ。仕事溜まるぜ」
「諦めなさい。飛狛が決めたら、僕らはついてくだけです」
「はいはい。可愛い甥っ子だもんな。いってー!」
可愛い甥っ子と言った瞬間、飛狛が容赦なく殴った。
「こんなんですが、しばらくお世話になります」
甥と叔父による、限りなく子供じみた喧嘩を放置し、夜秋はにっこりと挨拶をする。
こうして、過去からの来客がしばらく同行することになった。
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